【開幕】詠人知れぬ鈴の音
これは物知らぬ少女と、彼女を内包する世界の物語。
出来損ないと言われた少女が、皆を、世界を幸福で満たそうとする。
彼女の作る幸福の戯曲は、果たして駄作となるか神作となるか。
お待たせしました皆々様、第三幕『蟲の唄』、はじまりはじまり。
「鉢屋博士、こんなもの認められる訳がありません!」
「こんなマガイモノを作って、神様への冒涜ですか!?」
アタシの花園が枯れちゃう……
「とにかく、この計画は中止です!」
「我々は研究者である以上に、人間なんですから!」
もう少し、あともうちょっとで皆を幸せに出来たのに……
「すまんな、ハーネイ……」
「お爺ちゃんの最後の願い、聞いてくれるか……」
アタシの、アタシの幸福が、アタシのお花が……!
「お爺ちゃんは人間であるよりも研究者なんだ。」
「だからワシの尊厳を守るために……」
「そして、お主の望むままに……」
「命令コード、B-8を受領しました。」
「!?」
「ここはどこ?」
「ようこそボクの所へ、キミの名m」
「アタシは鉢屋・B・ハーネイ、『賛美歌』です!」
「ふむ、ボクのセリフを遮るなんて気に入ったよ。」
「キミの望みを好きなだけ言ってごらん?」
「アタシの望みは……」
「あぁ、言わなくていい、ぜんまい仕掛けじゃないから、全てお見通しさ。」
「この運命のドアを叩いて、中に導かれるといい、そこに君の幸福の花園が待っているはずさ。」
「ありがとう、お姉さんも幸せにね!」
それは、最初は小さな噂話だった。
『幸せの国、ってのがあるんだって!』
『そこは犯罪も貧困も無い、幸せだけの満ちた神の国だとさ。』
『宗教も人種も言葉の壁も無くなってるんだよ!』
『木や花も歌うほど平和な国もあったもんだね。』
ある時、彼もそこを探してみる、と言い出し、そのまま飛び出してしまった。
"導かれた"だなんて宣っていたけれど、その後も経過の手紙が何度か来ていた。
『世界は広い』、『ここは治安が悪い』、『もう帰りたい』
様々な文書が何通も届いたが、ある日この便りを最後に連絡が途絶えてしまった。
『やっと、幸せの国を見つけた、住む場所が出来たらすぐ連絡するから、一緒に幸せになろうね。』
消印は、絶海の孤島『グラトゥイ・ポーロ』、今なら私にも彼の言っていることが分かる。
導かれたんだろう、でもそれは彼と違って、永遠の幸せになる為じゃなくて、刹那の幸せを取り戻すため。