【1話】憎まぬ賛辞を与うるか?
母の声で目が覚めた。
何だか、不思議な夢を見ていた気がするが思い出せない。
「イリア、やっと目覚めたのね。」
「お母様、こんな朝早くになんなのですか?」
小鳥が歌い、そよ風が私の長い髪を撫でる。
「あら、今日は貴女の16の誕生日でしょう、だから前に約束していた、魔術を教える日じゃない?」
失念していた、どうしてこんなに大切な事を忘れていたのだろう。
頭痛がする、きっと長い夢を見ていて、夢心地のままだったから忘れてしまっていたのだろう。
「ほら、ベッドから出て、まずは朝ごはんを食べてから特訓するわよ?」
「はーいっ」
ベッドから出て、朝の準備を行い、母の待つ食卓へと行く。
「まず今日教えるのは、防衛魔術、治癒魔術、破魔魔術の3種を教えるわね。」
母の魔術講義は分かりやすく、充実したものだった。
私自身魔術適正が高いらしく、するすると多種の魔術を会得していった。
こんな日常が続けばいい、そう思っていたのに……
「さて、今日の魔術講義はおしまい、一気に覚えるのは、流石に疲れちゃうからね?」
「はーい、こんなに沢山の魔法、私使いこなせるかしら?」
「私の娘だもの、大丈夫に決まっているでしょう?」
「さて、イリア、そろそろお茶会にしましょうか?」
「はい、お母様。」
沢山の魔術を教えてもらい、お茶会の準備をしていると……
木と木の間から、ソレは現れた。
「ケヒャヒャ、新鮮な魔力の匂いがすると思ったら、こりゃ上物だァ!!」
魔物だ……!!
今はお母様もお茶の準備をしているせいで、いないのに……!!
「か、帰りなさい卑しき魔のものよ!!」
「何だァ、それで脅しのつもりかぁ?」
獣と血の匂いの混じった体臭を振り撒きながら、じわり、じわりとこちらへと近づいてくる。
「ほ、退魔斬霧!!」
「何の魔術混線!!」
必死の思いで放つ破魔魔術も呆気なく無効化される。
「ケヒャヒャ、まずはその喉から喰いちぎってやるぜぃ!!」
獣の牙が私の喉元に突き刺さる、その時だった。
「……人身御代!!」
「……!!!!」
目の前には、獣の牙で首を貫かれるお母様の姿があった。
「イリア、逃げなさい……!!」
「お母様、でも……」
「逃げなさい!!」
お母様の剣幕に押され、家まで走り抜ける。
「ケヒャヒャ、予定とは違ぇが、こいつの魔力も莫大だぜぇ?」
「死にかけの敵を前に愚かな……暴走回路……!!」
私の意識は部屋に響く振動と共にそこで失われた。
「オイッ、大丈夫か!!」
気付くと今度は、知らないはずなのに聞いたことのあるような声に起こされた。
「誰だ、誰にやられた、魔王か!?」
「ま、魔物にお母様が……」
「やはり、魔族かァ!!」
熱い……を通り越して暑苦しい語りで倒れている私を引き起こす。
「治癒魔術を掛けるからじっとしていてくれ!!」
「そ、それなら私も掛けられますから!! 痛消」
「ほう、君はその歳で魔術を使えるのか!!」
いちいち声が大きい。
「おおっと、挨拶が遅れたな、俺はドロム・カディシュ、世間では勇者と呼ばれている。」
勇者、その言葉を聞いた時。
私の頭には電撃が走った。