【開幕】湾曲した罰は語るに落ちぬ。
真の平穏とは何か?
何も起こらず、進みも戻りもしない事が平穏なのであろうか?
しかし、停滞した川は濁り淀み、誰も通らぬ道は荒れ果て朽ちる運命だろう。
これは、平穏を愛した者の物語。
第二幕、『言の葉の道の先』はじまりはじまり。
我はただ、初期の均衡を取り戻したかっただけなのだ。
人族が、魔族に対して、勝手に脅威を感じ攻撃をしてきたから、魔族の王として厳格な処罰を下しただけだった。
それが気付くと我は、全魔族に祭り上げられて、我の意志とは別に魔族側が侵略行為をするようになりはじめた。
我は根回しし、侵略行為を行った魔族をも処罰を為したが、穴の空いたダムから水が零れ続けるのと同じように、人族は我らのことを敵とみなし、人による魔族虐殺が始まった。
そして今、我の目の前には勇者と呼ばれる若き戦士が立つ。
「追い詰めたぞ、魔王がァ!!」
熱く、攻撃的な言霊を我にぶつける。
「貴様のせいで、民が、仲間が、どれだけ死んだと思っている!!」
「3人だ、我が手を下したのは3人に過ぎない。」
「戯言をォ!!」
……熱いを通り越して暑苦しいとも言う。
実際、我の命令で殺したのは最初に処罰を与えた2人と、人族侵攻作戦のリーダー1人に過ぎない。
「逆に問おう、貴様は何人の魔族に手を掛けた?」
「邪なる種の数など数えたことが有るかァ!!」
話が通じん。
「わかった、k」
「何をわかった面してやがるっ!!」
我の言葉を遮るように声を出すと、斬りかかってくる。
「待て、はなs」
「火球豪炎破ッ!!」
斬り掛かる剣を掴み話を続けようとするも、燃えたぎる火砲魔術で話を遮られ、そのまま蹴りを加えられる。
「だから話をk」
「氷河流結陣ッ!!」
足元から氷柱が飛び出し、我の身体を貫く。
「……ァ!!」
「これで終わりだ!! 魔烈斬ッッ!!」
氷柱に貫かれ身動きが取れず、声なき声を上げる我に向かい、勇者の斬撃が襲う。
「はぁ、はぁ、終わったぞ、×××」
そのまま、勇者の最後の言葉を聞き取れぬまま、我の意識はここでちぎれてしまった。
「……!!!!」
ふと気付くと、我は闇の深淵で1人、佇んでいた。
勇者も、魔族も、何も無い。
ただひたすらに黒く塗りつぶされた闇の中であった。
「ようこそ、ボクの所へ。」
声のする方を向くと、見慣れぬ装いをした人族の少女が椅子に座ってこちらに笑いかけていた。
「貴様も、勇者とかいう者の追っ手か?」
見透かしたかのような笑みのまま首を振る。
「いいや、ボクは救世主じゃなくて、機会仕掛けの神様さ。」
くるり、と一回転したと思うと目の前から消え、我の左耳に囁くようにそう言い、そのまま続ける。
「サタナ・ディビーニヒくん、キミは魔王に就任するも272歳という若さゆえか、そして種族に対する偏見のせいか、誰も言うことを聞いてくれないことを悩んでいた……」
「そして、キミの願いは簡単、"魔族と人族に平和な世界を"、だったね。」
我の心を読んだかのように、知らぬ神は話を続ける。
「さて、なのでキミには3つの特典を与えておいた。」
「次は上手くいくといいね、イリア・サタニアくん。」
「待て、我の名はそのような物ではn」
再び視界に闇に混じり、我を塗り潰す。
意識が混線し、魔力が切れたかのように世界が途切れた。
「起きなさい、起きなさいイリア。」