【終幕】月夜の白と黒。
「……今のはっ!?」
気付くと私は暗闇の中に立ち竦んでいた。
「おかえり、丹波くん。」
聞き覚えのある声のする方に向くと、セーラー服の少女がそこに立っていた。
「お姉ちゃんは、僕は、どうなったんだ!?」
「まずは落ち着いてくれるかい、話が先に進まないんだ。」
ゆっくりと深呼吸をして冷静になる。
「まずは、あそこに置いてある、20年前の7月11日の夕刊でも読むといい。」
そう指さされた方向に、机とライト、それに新聞が現れる。
「まぁ、キミがショックを受けるかもしれないが、ボクはボクなりにキミの願いを叶えさせて貰ったよ。」
机に近づき、新聞に目を通す。
19××年7月11日
願ヶ淵と嶺本町を繋ぐ山道で、願峰岳の大規模な土砂崩れが起きた。
被害者は願ヶ淵に住む13才の丹波少年一名、彼は姉と共に通学中だったとのこと。
事の成り行きを見ていた老人の話だと、丹波少年は姉とともに楽しく話していて、ふと見上げたかと思うと、「危ない!」と叫び姉を弾き飛ばして自身も逃げようとするも、すんでのところで間に合わず、土砂に飲み込まれたという。
これは、僕の……
「あぁ、キミの勇気ある行動のお陰で白沢 茜くんは生き残ることが出来たようだね。」
良かった……
あれ、世界が霞む……文字も読めなく……
「おっと、そろそろキミの時間はおしまいの様だね。」
世界がゆっくりと暗転する、意識の紐が解けるように意識と視界が遠のき、ゆっくりと自身が闇に飲み込まれる。
「なんとかに口なしとはこの事かな?」
「さて、地の文は返してもらうよ。」
姉を助けられなかった少年の悔恨の話はここでおしまいさ。
最後に20年前の9月にここにやってきた少女の話をしようか。
少女はある事件を境に心を病んでしまったんだ。
それは目に入れても痛くないほど可愛がっていた1つ下の弟を亡くしてしまったからなんだけれど、その子の願い事も、『もう一度弟に会いたい』という物だったよ。
さて、あれから20年。
卵が先か鶏が先か、なんてありふれた話をするつもりは無いよ。
さて、新しい夕刊も来たことだし、ここらでこの話は区切るとしようか。
20年前の7月11日、死傷者は0人なのか2人なのか。
それは当事者たちと気まぐれのカミサマしか知らない。