表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機会仕掛けの雫  作者: Eurk・CagLier
第一幕:茜色の空
3/52

夕刻の焔色に燃ゆる空。

19××年7月11日

願ヶ淵(ねがいがぶち)嶺本町(みなもとまち)を繋ぐ山道で、願峰岳(かんぽうだけ)の大規模な土砂崩れが起きた。

被害者は願ヶ淵に住む14才の少女、白沢 茜 一名、彼女は弟と共に通学中だったとのこと。

事の成り行きを見ていた老人の話だと、少女は弟とともに楽しく話していて、ふと見上げたかと思うと、「危ない!」と叫び弟を弾き飛ばして自身も逃げようとするも、すんでのところで間に合わず、土砂に飲み込まれたという。

「……? お姉ちゃんの顔に何か付いてる?」

無言でお姉ちゃんの顔を見つめていたせいか、怪訝な顔をしながら聞いてくる。

動いている、生きている、感情の昂りからか、私の目から涙が零れる。

「ど、どうしたの丹波!? お腹痛いの!?」

涙を流す私をお姉ちゃんが心配そうに見つめる。

「ご、ごめん、何だか嫌な夢を見ちゃって、お姉ちゃんの顔を見たら安心しちゃって……」

「そっかぁ、よしよし、もう怖くないよ……」

暖かい手が僕の頭を撫でる。

「でも学校に遅れちゃうから、早く顔洗って朝ごはん食べに降りてこようね?」

あやす様にそう言いながら、お姉ちゃんが部屋から出る。

布団から出て日めくりカレンダーを見ると、7月10日の月曜日、つまり明日お姉ちゃんが死んでしまうことを暗に示していた。





連日の雨が止み、今日が爽やかな快晴であることをテレビが告げる。

午前7時49分、ゆっくりと朝食を食べていては遅刻してしまう時間だ。

「丹波も茜も遅いわよ、食パン焼いといたから早く食べていきなさい。」

「「はーい」」

姉弟揃って返事をしながらパンを受け取り、素早く食べる。

「ほら、お父さんも新聞読んでないで早く食べて!」

「うーい」

父も生返事を返しながら、パンを齧る。

「「いってきまーす」」

「気をつけて行きなさいねー!」

母の怒声にも近いお見送りの声を聞きながら、僕達は家を出た。











ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ

茹だるような暑さの中、クマゼミが五月蝿いくらいに鳴いていた。

毎朝散歩をしている山川さんに挨拶して追い越しながら、僕達は登校していた。

「とーこーろーでー、丹波、泣くほど怖い夢って一体何を見たのさー?」

イタズラな笑みを浮かべながら、お姉ちゃんが聞いてくる。

「な、何でもないよ!?」

「まぁまぁ、茶化したりしないからお姉ちゃんに言ってみなさい。」

「関係ないだろ!」

「おやおや〜? 丹波は反抗期かなぁ?」

ふと、脳裏に電流が走るような感覚がする。

「あの日」と同じだ、つまり今日は10日ではなく……

ふと願峰岳を見上げる。

すると、今まさに、運命の樹木が一本倒れたばかりだった。

「お姉ちゃん危ない!」

上を指差し流れてくる土砂を示すと、すぐに理解したお姉ちゃんが走り出す。

このままじゃ間に合わない。

そう思った僕はお姉ちゃんを突き飛ばして更に遠くまで逃がす。

もしかしたら、あと少し……

……!?

何かに強く足を掴まれるような感触と共に、歩みが止まってしまう。

そして僕は、そのまま流れる塊に飲み込まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ