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三角チョコパイ

 買い物帰りに、三角チョコパイを買って帰ることにした。ひとつ百五十円。CMでよく宣伝されているのだが、実はまだ食べたことがない。


 紙袋に入ったパイを持って店を出る。空気は冷たい。しかし息が白くなるほどではない。駅の方から流れてくる人に逆行して、僕は黙って歩く。改札の向こうは明かりで白く照らされているけれど、出てくる人の顔は無感情で――。


 僕は改札を横目に、脇道に逸れた。道を照らすのは、建ち並ぶ住宅街や店から零れる光だけ。駅から遠ざかるほど、人影は失せていく。道から漂う、落ちて潰れた銀杏の匂い。でも気にするほどきつくはない。


 とっとと帰って、冷めないうちにパイを食べよう。頭の隅に残っていたその考えは、「それ」を見て消し飛んだ。


 団地の共用のごみ箱がある。鉄格子でできた箱に緑の防鳥ネットを張ったもの。空っぽなはずのごみ箱の中に、立方体の金属物体が転がっていた。夜の暗さで分かりにくいが、多分青色。


 気にすることでもないはず。けれど、その物体はなぜか僕の眼を引いた。たかがゴミのために、わざわざゴミ箱へと脚を運ぶ。中を覗き込む。落ちている立方体をよく見ようとしたとき、突然立方体が光をまばゆい光を放った。思わず目を閉じる。勝手に身構えていた。


 数秒経って、恐る恐る目を開けた。目の前には、宙に浮いたキューブ。怖がるとかもなく無言でキューブを見つめる僕。僕を笑うようにぶるっ、と身震いして、キューブは彗星のごとくどこかへ飛んでいった。


 しばらく呆気に取られていた僕だったが、そのうちふつふつと「あれはなんだったんだ」という疑念が湧いてきた。そして、その疑念を塗りつぶすように「これは小説に使える」という思いを抱いた。浮足立って寮に向かう。夢中で脚を動かしたので、気づけば部屋の椅子に座っていた。


 開いたパソコンを開いて、文字を打ち込む。さっき見たことを忘れないように。これはきっと面白くなるはずだと。四十分かかって書きあがって、僕はようやく三角チョコパイのことを思い出した。慌てて紙袋を開いてパイを取り出す。しかし、パイはすっかり冷めてしまっていた。


 これが、さっきあったこと。

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