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もうひとり

 僕は奴を殺さないといけない。あいつはこの世のものじゃない。あいつを放っておけば、家族にまで被害が及ぶかもしれない。早く殺さなければ。僕と同じ顔をしたあいつを。


 あいつが最初に現れたのは一週間前。学校の裏山から校舎に戻ってきたときに、友達と校門から出ていくあいつの後ろ姿を見た。あいつは僕と同じ服装で、同じ笑い方で、友達と喋っていた。


 ドッペルゲンガー。その言葉が脳裏をよぎった。同時に、激烈な嫌悪感が僕を襲った。経験したことのない最悪な気分。これまでの人生の記憶を失ってしまうくらい衝撃的な光景だった。


 あいつを殺さなければならない。「僕」はひとりでなければならない。自分の家の場所も思い出せないような状態だけど、僕は決意した。


 そして今日、決戦の日。僕はカッターを手に、あいつの前に立っていた。平日の真昼間、市民体育館の裏。冷たい風が石タイルの上を吹き抜けていく。あいつも僕と同じように憎しみのこもった目をしている。


 何も言わず、じっと見つめ合う。どこかでカラスが甲高い声を上げた。それを合図に、僕は走りだす。カッターの刃を限界まで出す。あいつの首筋に突き立ててやるのだ。「僕」は一人でいい。


 迫る僕を見ても、あいつは逃げようとしなかった。手を振り上げた僕を見てあいつが身構える。気にせず、僕は手に持ったカッターを振り下ろした。


 十分な勢いはあったはずだった。けれど、あいつは僕の腕を掴んで、刃が刺さるのを防いだ。強引に押し込もうとした僕は、あいつが隠し持っていた釘に気づかなかった。


 僕のカッターがあいつに刺さる前に、釘が僕の首に刺さった。異物感と釘の冷たさ、体が帯びる熱さ、痛み。釘は深々と突き刺さり、僕は息が吸えなくなった。


 息苦しさに耐えられず、膝をつく。視界はたちまち暗くなっていった。何も考えられないまま釘を引き抜く。血が理科室の水道のごとく噴き出す。僕は顔から地面に突っ伏した。


 朦朧としながらあいつの顔を見た。あいつはとても怯えた顔をしていた。そして僕は気づいた。いや、本当は薄々感づいていた。信じたくなかっただけだ。


 偽物は、僕の方だった。

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