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才能

 先生! ああ、先生! 私は悲しいのです。悲しくてたまりません。悔しくって不甲斐なくってたまらないのです。


 ……失礼しました。どうも、お見苦しいところをお見せしてしまい。いえ、いえ。お気遣いなさらず。ともかく、聞いてください。


 私がこの夢を追い始めてもう七年になります。この七年、私も精進してきたつもりです。しかし一向に日の目を見ない。これは一体どうしたことでしょうか。


 いえ、やる気がなくなった訳ではないのです。ただ一つ、嫌なことがございまして。私より若い人たちが、彼らの才能によって注目を浴びているのでございます。


 一体、才能とはなんなのでございましょうか。私だって、彼らくらいの歳の頃にはすでにこれを始めていました。彼らより十分な経験はあるはずなのです。だが才能なき者が経験を積んだところで、才能のあるものには勝てないのだ。結局は才能だ、一体私はなんのためにやってきたのでしょう?


 ああ、すみません。つい弱音を吐いてしまいました。現実を見なければならない。先生の言葉の意味が今はよくわかります。才能など、逃げるために使う言葉だ。結局私は本気になりきれなかったのだ。生活の全てを注ぎこめなかったのだ。時間を言い訳に、都合を言い訳に、本気になることから逃れたのだ。後戻りできなくなる恐怖から逃げたのだ。


 だがどうだ、私は今まさに後戻りできなくなっている。いつか日の目を見る。その“いつか”に期待して、怠惰に夢を追っている。そしてこの夢に、夢を追っている自分に依存し、安心し、離れられなくなっている。こうなるくらいなら、人生のいくらかを捨ててでも本気になるべきだった!


 やはり才能は逃げるための言葉なのです。自分が本気になれなかったなど、信じたくないのだ。本気でやってる気になりたいのだ。人生を棒に振る勇気を、無謀さを持てた奴らを妬んだ奴が、才能なんて言葉を作ったのだ。なんという体たらくなのでしょうか、この私は!


 ん、なんでしょう。そうやって自虐することもまた逃げであると? ははは、先生はお厳しい。そうでした、先生は私よりずっとお歳を召されてからこれを始め、大成されたのでしたね。先生の前では年齢すら言い訳にできない。まったくもってその通りです。また逃げ出すところでした。


 これまで本気になれなかったのなら、これから本気になればいい。もう若くないというのは、もう頑張りたくないと同義だ。人生を棒に振りたくないのなら、人生を棒に振る覚悟で挑むこと。結局はそれが、夢を叶える最短の方法。そうですね。やはり先生は偉大だ。私のやる気を巧みに引き出してくださる。勇気が出ました。ではここに宣言しましょう、私は必ず夢を叶え、あなたすら超えてみせると。

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