羨望
私は今、原宿にいます。憧れのスカートを履いて、フリルがついたカーディガンを着て。化粧もばっちり。茶色のウィッグもぴったり。
ずっと女の子になってみたかった。男の子が好きって訳じゃないし、女心が分かるわけでもないけれど、女の子に憧れていて。でもこんなこと、人には言えない。言うのが恥ずかしい。そう思っちゃって、家族にすら言えなかった。
けれど、あの子が私を変えてくれました。あの子っていうのは、すごく美人で凛々しい、クラスメイトの女の子。黒い髪を肩のところで切って、化粧っけもなくて、なんだかとてもかっこいい。
あの子には男装趣味があります。あの子は日曜日になると、男の子のふりをして街を出歩きます。たまたま私と出会った時、彼女はあまりに普段通りだったので、私の方が気後れしてしまいました。
なんでも彼女の友達はみんな彼女の男装趣味のことを知っているそうです。彼女も私と同じで、同性が好きなわけじゃないけれど、男の子になってみたい。そう思っているみたい。平然と話してくれた彼女が、私にはとてもかっこよく思えました。
この人には、私の悩みを言ってもいいかもしれない。私は自分の羨望のことを告げました。するとあの子は、ちょっと驚いて、にっこりと笑って、いいじゃん、と言ってくれました。
そして、服を取り換えっこすることになったのです。彼女の女性ものの服を借りて、私は原宿を歩くことにしました。今日限りになるかもしれないけれど、それでも幸せ。
一日を終えて、私は彼女と合流しました。彼女は僕のお気に入りの服を着て、凛とした佇まいでいました。私よりずっと、私の服が似合ってる。
いよいよお別れ、という時になって、私は恐る恐る彼女に言いました。
「あの、さ。もしよかったら、これからも……」
そこまでしか言えませんでした。それでも、彼女は私の言いたいことを察してくれました。
「もちろん。じゃあ、また来週ね」
それだけ言って、彼女は私に背を向けて去っていきました。私は、口元が緩むのを自覚して、それを止めませんでした。
親に言おう。今日あったこと。ずっと抱えていた悩み。一番星が輝く下で、私は覚悟を決めました。




