まゆそり訴え
申し上げます、申し上げます!
あの人はひどい、酷い。はい。嫌なやつです。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かしておけねえ。
はい、落ち着いて申し上げます。あの床屋は世の中の敵だ。何人もあの床屋を許しちゃいけねえ。あの床屋は話を聞きません。客の要望を受け入れません。自分の好きに髪を散らします。ご覧ください私の髪を。これじゃ海の底のウニのほうがまだマシだ。
でもそれはまだいいのです。それよりひどいのは眉です。あの床屋、私の自慢の眉毛をきれいさっぱりそり落とした! 罰していただかなければ、とても私は満足できませぬ。どうかお願いします、あの床屋の頭を丸めてやってくだせえ。
その顔はなんです。笑っているのか? 人の顔で笑うな! いや失礼、笑って当然です。笑われるような顔にしたあいつが悪いのです。ああなんということだ、あまりカフカとせき込んで笑うものだから、虫になってしまった。この方はもう人には戻れぬ。ではあなたに申し上げましょう。あいつは十三番地の床屋におります。いつも小鳥がないております。ピイチクピイチク煩わしい。あの鳥も殺してください。ええ、殺してください。
おや、そのお金は? 私に下さるのですか、あの、私に。切りなおしてもらえと。はははは。いや、遠慮しましょう。殴らむうちに、その金を引っ込めなさい。引っ込めろ! いや、いただきましょう。そうだ私は床屋だったのだ。あんなやつに任せる必要もなかったのだ。へっへ、銀貨三十枚。素晴らしい。元は取れるでしょう。ありがとう存じます。はい、はい。申し遅れました。私の名は、床屋のユダ。「切る甲斐なし」のユダ。




