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銭湯タイムスリップ

 突然だが、僕には超能力がある。


 気づいたのは一週間前。日常に違和感を感じるようになった。というのも、ある一日が繰り返されているように思えたんだ。同じ日が繰り返されている? その疑問は正しくて、時計の表示やカレンダーは全て、一瞬間同じ10月31日を示している。人に尋ねても、10月31日という答えが返ってきた。


 調べるうちに、僕はある場所がこの現象の要になっていることに気づいた。銭湯だ。銭湯に行くと、時間が一日前のその時間にリセットされるんだ。つまり僕の超能力は、「銭湯に行くと一日前に戻れる」能力ってわけだ。


 とは言え僕は銭湯には毎日行くから、この一週間毎日同じ日を繰り返している。そろそろ飽きが来たりはしているけれど、もうちょっと遊びたいなあと思って、今日も銭湯に来た。ここに来れば一日リセットされる。だったら普段できないような馬鹿なこととか危ないことをしたいじゃないか。スカートめくりとか。


 ちなみにスカートめくりに関しては僕はプロになりつつある。さっと女子の後ろによってバッとめくってすかさず中身を確認しそそくさと退散する。中学生がやるようなことではないかも知れないけれど、いいじゃないか。リセットされるから、僕がしたことは忘れられる。糾弾されることはない。


 更衣室に入って服を脱いだ。僕の考えでは、浴場に一度入ってから更衣室に戻ってきたらリセットされるのだと思う。楽しい明日(今日?)に思いをはせながら、僕は浴場に入った。


 ――浴場に入っていった少年を横目で見ながら、二人の男がこそこそと話していた。


「やはり被検体の記憶消去剤の効果が薄れてきているようです、博士」


「のようだな。このままうまくいってくれていたら、人間の記憶を制御できることが立証されたのだがな。まあいい、新薬投与の準備はできている。折を見てまた薬を投与しよう」


「そうですね」


 比較的若い見た目の男が答え、そして思い出したように言った。


「そういえば、被検体の同級生としてふるまっている女性の何人かが実験協力をやめたいと言っているようです。どうも被検体がいろいろとやらかしているようで」


「うむ。まあいいだろう。新薬投与後に別の奴と入れ替えよう。しかし愚かだな、罰せられないと分かった途端馬鹿なことをしだすとは」


「全くです」


 そして二人は更衣室を出ていった。少年は何も知らずに湯舟につかっていた。

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