エリート
股のあたりに違和感を感じたのは、会社に着いてからだった。
妙に涼しい。スースーする。確かに下着は履いたはずなんだがな……。席について、パソコンを開いた。眩しい光が目に飛び込んでくる。
ここは有名企業の課長のデスク。操作しているのは課長のパソコンだ。どうやらここの課長はがさつな性格らしい。パソコンはかなり汚れていた。せめて画面くらい拭きたまえよ。
USBをパソコンに差し込む。ウィン、と作動音が鳴る。誰もいない部屋なものだから、小さな音でもよく響く。勘弁してほしい、私は小心者なのだ。
つくづく私は親切な奴だ。会社に忍び込んで機密を盗むなんて、リスクしかない。まあ、金は頂くが。
とそこで、私の急く思いが伝わったのかファイルの取り込みが完了した。急いでUSBを取り外し、丁重にパソコンの電源を切る。できる男は、後始末もぬかりない。
そこまで終えて、私は近くの窓を開けた。早急にここを去ろう。どうせビルの入り口は開いていない。そういうシステムだ。窓から失礼させてもらおう。
窓の外の縁に立ち、窓を閉めて、私は壁を蹴って飛び降りた。音もなく、見事に着地。我ながら素晴らしい身のこなし。
あとは何事もなかったかのように路地裏を抜け、表通りを歩いて帰れば任務完了だ。何も難しいことはない。やりきった達成感を大事にかみしめ、表通りに出る。
「きゃあああああああ!!!!!」
突然私のすぐそばで、女性が悲鳴を上げた。何事だ。声の方を見る。するとなんと、悲鳴の主たるOLは私を指さしていたのだ。
たちまち辺りがざわつく。私が悲鳴を上げられるようなことをしたか? 何も思いつかない。不安になる私に向けて、近くにいたサラリーマンが言った。
「おいお前、なんでズボン履いてないんだ!!!」