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1.5.襲撃

 妙な気配で目が覚めた。

 何やら外が騒がしいようで、夜中だというのにあちこちから大きな声が木霊している。


 すぐに立ち上がって葉隠丸を腰に携える。

 声はまだ遠く、こちらに来るまでには今暫くかかるだろうと考えられた。


「レミ殿。レミ殿」

「……?」


 声を殺してレミを揺すり起こす。

 のそのそと起き上がるレミは非常に眠たそうだが、今はその様なことに構っている暇はない。


「何やら外が騒がしい。経験上……逃げることを薦めよう」

「逃げる……なんでですか?」

「この騒ぎ様……襲撃の可能性がある。こちら側の家にはまだ近づいておらぬ故、急ぎ用意を」

「え、あ、え!? わ、わかりました!」

「静かにな」


 戦乱の世を生きてきた木幕は、こういった場面に何度も遭遇したことがある。

 よく夜襲に合い、幾多の兵が命を落とす。

 一人旅では数十人に囲まれ、逃げ道をなくされる為、致し方なく殺す結果になる。


 ここまで大きなものではなかったが、これは明らかに山賊の襲撃であると確信が持てていた。


 山賊は基本的に頭が悪い。

 なので一方向からしか来ない場合が多いのだ。

 今回はまさにそれで、方角はわからないが、声の聞こえる方向は一方。

 一番遠くから声は聞こえていることからそう結論づけた。


 とりあえず今はレミを逃がすことを最優先に考え、家の扉を静かに開ける。

 が、その瞬間風を斬る音が聞こえたために直ぐさま扉を閉じた。

 急に大きな音を出したがために、レミには驚かれてしまったが、この行動はどうやら正解だったようだ。

 

 扉の反対側からトトトッという音が聞こえた。


「え!? 何何!?」

「……矢か……。レミ殿! 窓から狙われぬ位置に隠れよ!」

「は、はいぃ!」


 あの音もよく聞いた音である。

 なので木幕はそれが何かすぐに理解する事が出来た。

 あのまま開けていたら確実に矢が木幕を貫いていたことだろう。


 だが開けた瞬間に矢が飛んでくると言うことは、すでに待ち伏せされていたと言うことになる。

 となれば先ほどの木幕の推測は大きく外れる。


「向こうで騒ぎを起こし、それに気が付いた某らが出てきたのを狙っていた……?」


 先ほどの攻撃には少しの間があった。

 もしかすると出てきた相手を確認して放った場合も考えられる。

 にしては早かった気がするが……火矢ではない所を見るに、家を燃やす気は無いのだろう。


「考えても無駄か……。……!」


 その時、数人の足音がこの家に近づいて来ているのが分かった。

 すぐに葉隠丸を抜き、下段の構えにて待ち構える。


 しかし、敵が素直に正面から入ってくるとは思えない。

 扉に止めをして開かないようにし、レミの傍まで駆け寄る。


 レミは台所の隅で鍋を被って震えていたが、急なことでこれだけの事が出来れば上出来だと木幕はレミを心の中で褒めた。


「レミ殿、この家に他の入り口は?」

「ああ、あっち……」

「む? レナ殿は!?」

「え!?」


 考える暇も無く、先ほど閉じた扉が破壊された。

 その瞬間に三人ほど覆面を被った男達が入ってきたようで、しっかりと手には凶器が握られているようだ。


 木幕はそれを見て静かに刀を中段に持ち上げた。


「何奴か」

「応える義理はない」

「ふむ。それもそうか」


 その瞬間、男三人は一斉に襲いかかってきた。

 狙いは木幕ただ一人。

 その事に安心した木幕は、刀を素早く振り上げた。


「葉我流剣術……参の──」

「斬っちゃ駄目!」

「! 捌の型、枝打ち!」


 レミの叫び声にいち早く反応した木幕は、迫り来る刃を何とか流し、その流れを殺さないように刀身の峰を肩に乗せ、柄頭を敵に向ける。

 そして狙いを定め、勢いよく打ち込んだ。


「げぇ!?」


 その打撃は見事な相手の喉仏に食い込み、男は喉を押さえて倒れ込む。

 そんなやられた男を心配することなく、他二人はまだ斬りかかって来たので、今度は攻撃を回避して峰を相手に打ち付ける。


 一人は水平に切り込んできたので、それを上に弾いたあと、手首を返して首筋に峰を打ち付けた。

 最後の一人は流石に二人がやられたために動揺したため、その隙を逃さずに柄は頭を腹に打ち込んでから峰を相手の肩に当てて打ち伏せる。


 男達は狭い空間での戦いは苦手なのか、動きが大きすぎた。

 故にすぐに無力化させることに成功する。


「うぅ……」

「ああ……ぐぅ……」

「ふむ。後は外の弓兵だ」


 まだこれで終わりではない。

 これは先兵であり、まだ後続がいる可能性も十分にある。

 故にここで気を抜くわけにはいかなかったため、レミに聞きたいことがあったが、それは今暫く聞かないでおくことにした。


 しかしこれだけ時間が経ってしまったのだから、弓兵が同じ場所にいる保証はない。

 だがここで籠城するわけにも行かないので、とりえあずレミを連れてここから逃げ出さねばならなかった。


「レミ殿、立てるか?」

「な、なんで……なんで村の人達が……?」

「レミ殿!」


 その声に我に返ったレミはまた暫く倒れた男達を見ていたが、もう一度木幕が呼びかけるとようやく動き出してくれた。


 レミに教えて貰った裏口を開け、敵の気配がないことを確認した後、ゆっくりと外に出て森の中に入ってゆく。


「レミ殿。あれらは?」

「む、村の人たちです……。声でわかりました……」

「……そうか」


 何とか足を動かして前に前に進んでいるが、この辺りの山は険しくて少し歩くだけでも大変である。

 レミは山に慣れていないのか、すでに息を切らしながら木幕の後ろをついてきていた。


 少し情報を整理してみよう。

 まず襲撃者が村の人々であると言うことは、レミの発言から間違いないはずである。

 村人が襲撃者であれば、この場所も知っているのは当然だ。

 なので木幕の予想は外れてしまったのだろう。


 次に他の人々の悲鳴だ。

 この事から全ての村人が襲撃者ではないということが分かる。

 レミと同じように何も知らない村人もいるのだろう。


「某の技量を認めてくれるのは喜ばしいが、弓兵と男三人だけで討ち取ろうとは……なめられたものだ」


 木幕の予想が正しいのであれば、あの三人と弓兵は村の中でも強い兵である。

 広い場所で戦っていたらただではすまなかったかもしれないが、相手が家の中に入ってきてくれたので対処することが出来たとしておこう。


 しかし、何の罪もない村人が襲われているとなれば……黙っているわけには行かない。


「レミ殿。某は其方の命を一番に考える。それが一宿一飯の恩返しである。しかし、それを理由にして民を犠牲にするわけには行かぬ」

「は、はい」

「某は前へ出る。レミ殿はどうされる」

「い、いきます!」

「ではこれを持て」


 木幕は先ほど襲ってきた男から取り上げた剣をレミに投げ渡す。

 レミはそれに戸惑いこそした物の、急いで拾ってしっかりと握った。


「今から山を降りる。恐らく敵はあの場所におるだろう」


 そう木幕が指差す方角には、明かりが数個灯っている様だった。


「今は収穫時期……下手に人手を減らしたくはないだろう。故に捕虜にされている可能性が高い」

「ええ! ど、どうやって助け出すんですか……?」

「まず弓兵を探す。何、恐れをなしている人々は必ず生き延びる事を優先する。時間はまだあるはずだ。だが次からは手加減できぬ。すれば某も深手を負うだろう」

「わ、わかり……ました」


 あの時は狭い空間であったし、矢が飛んでこないとわかっていたからこそできた芸当だ。

 広い場所でその様な気を使えるほど、木幕は器用ではない。


 それから木幕は山を降りながら弓兵を探すことにした。

 しかしレミは相変わらず大きな音を立てながらついてくる。


 夜の中ではかすかな音でも大きく聞こえてしまうのが不思議ではあるが、この状況では逆に有利に事が運びそうであった。


 木幕とレミはそのままの陣形のまま、山を降りた。



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