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3.13.水瀬の願い


 木幕と水瀬が座って楽し気に話している事に、ツッコミを入れようとしていたレミだが、とりあえずネズミ駆除の依頼を達成するために、馬車の荷台にネズミを詰め込んでいく。

 三人でネズミを荷台に積み上げてから、それをギルドに持っていくことにした。

 言いたいことは沢山あったレミだったが、とりあえず馬車を動かす。

 レミは御者をして、二人は荷台に腰かけて運ばれている。


「お主もこの国に来ておったとはな」

「貴方たちの乗っていた馬車を付けていたのです。私は何処に国があるかなんてわかりませんからね」

「なるほどな」


 確かにそうしておけば、何処かの国か村には必ず到着すると踏んでいたのだろう。

 随分とあてずっぽうな旅だが、それもまた旅。

 そう言うのも悪くはない物だ。


 女性がこのような旅をしているのは珍しいと思ったが、この世界ではそれも普通。

 だが、ここに来るまでに随分と盗賊や山賊に襲われたらしい。

 それを水瀬は自慢げに話した。


「私自身戦うのはあまり好きではないのですが、襲われたら自分の身を守るしかありません」

「確かにな」

「父上に教わったことが役に立ちました」

「しかし珍しい。女子が刀を握るとは」

「実は、私弟がいまして。弟が生まれるまでは私が当主の代わりになると意気込んでいましたね。当時は子供でよく分かっていませんでしたから」

「なるほど。よく親が許してくれたものだ」

「父上より叔父上を説得するほうが骨が折れましたね」


 そう言いながら、水瀬は小さく笑う。

 弟が生まれてからも、鍛錬してきた意味を無駄にしたくなかった水瀬は、目を盗んでは稽古をしていた様だ。


「叔父上に見つかっては逃げ回っておりました! ははははっ!」

「薙刀であればそう言った目もないと思うのだがなぁ」

「ふふふっ。なんせ父上の二刀流の技に憧れていましたから」

「ほぉ。是非ご指南いただきたいな」

「今は無理ですね」

「確かに」


 この世界には水瀬の父親はいない。

 残念なことこの上ない。


 しかし変わった女子だと木幕は思った。

 自ら率先して刀を握る女子など滅多にいないし、周囲の目も違うものになるはずだ。

 それを押しのけて刀を握り続けた水瀬は、相当な変わり者だっただろう。


「お陰で見合いは殆ど断られましたね」

「難儀だなぁ……」

「ふふふっ。でも、いい殿方と出会えたのでそれで満足でした」

「この世には?」

「無論おりません」


 水瀬の夫はこの世界に転移させられることは無かったのだろう。

 帰ることも出来ないのだが、それで水瀬は良いのだろうか。

 だが、それでも問題ないという。


「私はこの世を気に入っています」

「何故?」

「父上が教えてくれた剣技を使うことが出来るからです。誰もそのことに対して文句を言ったりしませんし、なんなら褒めてくれたり感謝してくれたりします。この世の方が私にとっては生きやすいかもしれません」


 水瀬はそう言いきってから、腰に携えている刀を撫でる。

 確かに、今まで刀は男だけが持つものだというのが常識だった。

 だがそれを水瀬は無視して、父親の持つ技術を教えてもらっていた。


 周囲から見れば、女が刀を持つこと自体が異常なことだ。

 水瀬は自分に与えられた技術に誇りを持っているようだった、

 それ故に、他者からその力を非難されるのは苦痛だっただろう。


 だがこの世界では、その力を存分に発揮できる。

 人を斬るのは好きではないが、その力が他人を助けることに繋がっている。

 それだけは揺るがない事実だった。

 流石に骸漁りをするのは少しばかり罪悪感を覚えたが、自分が生きていくためには仕方がない事だ。

 それを木幕が否定することは無かったし、山賊であれば、と様々な人物がその行為を許してくれたらしい。


「ですから……私は奴を斬らねばなりません」

「……」


 脈絡も何もなく、水瀬はそう呟いた。

 その意味を木幕はすぐに理解する。

 水瀬の呟いた「奴を斬る」というのは、木幕も同じだったからだ。


「……お主と某の行動理由は同じか」

「そうなりますね。ですが、そこには一人しか辿り着けません」

「やはりか」


 分かっていた事だ。

 どちらにせよ、木幕と水瀬は戦わなくてはならない。

 一人、それを反対する者がいるが……。

 今度しっかりと説明しなければならないだろう。


 だが、木幕としてはそれはレミに気が付いて欲しいと思っていた。

 だからまだ伝えていない。

 自らが気が付かなければ、束縛は続いていく。

 そう思っていたのだ。


「あの子には言っていないんですね」

「うむ。この世の者は神の言葉を強く重視する傾向にある。今某が本当の事を言っても、信じてはくれぬだろう」

「今はどの段階ですか?」

「某とお主が戦うのを止めさせようとしているくらいだ」

「なるほど。となると、まだ戦わない方が良いですね」

「……ああ」


 なんともやりにくい。

 面倒くさい事だが、気が付いてもらわなければ、もう共に旅は出来ないと思っている。

 それ程大切な事なのだ。


「ふふふっ。そう思い詰めないでください。誰でもいつかは死にます」

「まぁな……」

「…………では、そんな貴方たちに少し依頼をしましょう。報酬などは上げれませんが、これは貴方たちにとっては必要な物です」

「なんだ」


 刀を撫でるのを止めた水瀬は、静かに手を膝に置いて木幕に目を移す。


「私の弟を殺していただけませんか?」


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