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11.6.十二人の侍


「葛篭か!」

「おう。皆がみょーっけぇ(見てるから)気張れいや(気張れよ)

「次は誰だ?」

「そいつぁー分かりゃんせん! まぁ共闘だぁ。ぶん殴ったらぁぜ」

「無論、そのつもりである」


 木幕と葛篭が、一斉に走り出す。

 浮遊しているナイフを木幕は叩き落していくが、葛篭はその体躯からは想像もつかない程の身体能力でそれを回避し、更にはナイフの腹を殴ったり蹴ったりして軌道を無理やり変えていた。

 その為、走っていくのは葛篭の方が速い。


 辻間から葛篭に変わったことを見たナリアは、すぐに宙へと飛び上がる。

 鎖鎌のように中距離での攻撃でなければ、宙に浮いていれば絶対に攻撃はできない。

 跳んでも届かない位置で停止したナリアは、刃物を創造して雨のように降らせていく。


「獣や獣、おういおい」


 腕の筋肉が盛り上がり、柄がみしりと鳴った。

 ズダァン!!

 大きく踏み込んだその音は空気を震わせ、足に響く若干の痛みが葛篭を覚醒させる。


「天災の竜よぉおおおお!!!! おうい、おい!!!!」


 葛篭は跳ね上がる。

 斬り上げた獣ノ尾太刀は迫りくるナイフのほとんどを弾き、女神の居る場所まで跳躍した。

 防ぎきれなかったナイフはいくつか刺さっているが、平気な顔をして睨みを利かせる。


「は、はぁ!?」

きなんせ(おいでよ)


 ガシッと胸ぐらを掴んだ葛篭は、ナリアを地面へと投げつける。

 空中で投げ飛ばされたとは思えないほどの速さで、ナリアは落ちていった。


「がっ!」

「葉我流剣術玖の型……」

「!?」

「倒木!!」


 落ちた先には、木幕が既に葉隠丸を肩に担ぎ、振り上げていた。

 大きな踏み込みと同時に切り込まれた刃はナリアの肩を捉える。


「ぐぅ!!」


 肩を斬られたナリアはすぐに飛びのき、ナイフを創造した。


忘れなーや(忘れんなや)


 落ちてきたと同時に蹴りを喰らわせた葛篭。

 ナリアは簡単に吹き飛んでいき、地面を転がりながらも何とか体勢を立て直して体の傷を回復させた。


 良い様にされていることに段々苛立ってくる。

 自己回復、ナイフの創造などは簡単にできるようだが、回復に至っては力の消費が激しい。

 このまままごついていれば、消滅する可能性があった。


「ニ、ニンゲン、ガァアアア!!」

「おぉおぉ、おっとろしい(恐ろしい)


 体に突き刺さったナイフをすべて抜いた瞬間、葛篭も何かに気付いたようで木幕に伝える。


「交代だ」


 一瞬で姿が変わる。

 細身の体ではあるが、その圧は凄まじい。

 傘を被り、目の部分にだけ穴の開いている面を着けて女性が薙刀を振るった。


「行きましょうか」


 一つ呟いた瞬間、津之江裕子が走り出す。

 ナリアは盾を創造し、その刃を受けようと盾を構える。

 だが薙刀は盾ではなく、足を的確に貫いた。


「!!」

「刃こぼれは嫌なので」


 次に石突で盾を弾き上げる。

 空いた胴体に向かって薙刀を横に薙ぎ、ズバッと切り裂いた。

 すぐに再生してしまうが、この戦いはナリアとの体力勝負だ。

 こちらがどんどん切り裂けば、相手の体力は削れていく。


 傷が治ったことでそれを直感した木幕と津之江は、すぐさま行動に移る。

 ナリアは一度ナイフでの攻撃を完全に辞め、盾を剣での攻防を繰り返すことにしたらしい。


「切り返しに注意ですよ、木幕さん」

「分かっている」


 傷を回復できるのであれば、捨て身の攻撃を繰り出してくる可能性がある。

 そうなってくると厄介だ。

 二人は援護できる距離に並び、同時に走り出す。


「くそっ!! なんで力が使えない! なんでだぁ!! なんでなのよ!!」


 未だに何かをしようとしている様だが、意味はないようで接近の隙ができた。

 木幕が盾を蹴り飛ばし、振るわれた剣を葉隠丸で防ぐ。

 その瞬間跳躍した津之江が木幕を飛び越え、盾を持っていたナリアの腕を斬り飛ばす。


 だが着地した瞬間に振るわれたナリアの攻撃が、津之江に直撃する。

 すぐに木幕が畳み掛けるが、ナリアの腕は既に再生していて二振りの剣で木幕の一撃を耐えた。


「津之江!」

「こう、たい……」


 パッと姿を変えたが、そこには誰もいなかった。

 どういうことだと木幕は眉を潜めたが、次の瞬間ナリアの体から二つの刃が飛び出した。


「んぐぅ!?」

「フフ、僕の気配には気づけないみたいだね」


 西行の声が、ナリアの後ろから聞こえた。

 彼はすぐに刃を引き抜いて四回ほど切り裂いた。

 すぐに回復してしまうが、ダメージは与えられたはずなので西行はすぐに跳躍して距離を取り、素早い動きで周囲を走り始める。


「木幕さーん、その調子で押さえておいてくださーい」

「簡単に言ってくれる」


 剣を弾いた木幕は、剣と鍔の付け根を狙って攻撃を繰り出す。

 それによってナリアの持っていた剣は大きく弾かれた。

 片手で持っていたということもあって、踏ん張りは一切利かなかったようだ。


 ダメージを与えるのは西行に任せ、木幕はとにかく剣を大きく弾く。

 それによって隙が生まれるはずだ。

 創造したナイフが飛んできたが、少ない数であれば対処は簡単。

 すぐに回避、もしくは攻撃をして相手を圧倒する。


 スバスッ!! ザザザザザザッ!!

 二振りの小太刀が、木幕とナリアの横を通り過ぎる。

 ナリアの腹部だけを抉り取って、その後ろで急停止。

 更に背中から六連撃を入れた西行は再び跳躍して距離を取った。


「ガアア!! キサマァ!!」

「フフフフ、神様って弱いんだねぇ」

「ワタシヲォ!! ナメルナヨニンゲンドモ!!」

「あいあいっ!」

「ゲァ!!」


 西行は小太刀を投げた。

 それは見事ナリアに突き刺さる。


 これは良いと思った木幕は、貫通して飛び出した小太刀の鍔を下に押し込む。

 隙が大きかったのでできた攻撃だ。

 一本の小太刀が胸から下半身まで降り、カシャーンと音を立てて転がった。


「──!!?」

「葉我流剣術捌の型、枝打ち!!」


 ガンッ!! ガッ!!

 顎とコメカミを二連撃で撃ち込んだ木幕。

 その強烈な一撃は、一瞬ではあったがナリアの脳を振動させた。


「無雲流……雲切!!」


 ズバスァ!!

 ナリアの片腕が吹き飛んだ。

 それもすぐ回復するが、木幕は意外な人物が参加してきたなと感心する。


 船橋牡丹。

 木幕を酷く嫌っていた様だが、今はこちらの味方をしてくれている様だ。

 しかしその目には恐怖の色が映っていた。


「船橋、お主また辻間に何か言われたな」

「……うえええ!! そうなんですぅ!! やらないと殺すって言われましたぁ!!!!」

「高貴的な性格は消え失せたか……」


 船橋は号泣しながら木幕の問いに答えた。

 そもそもの問題が彼女にあるとはいえ、ここまで来ると流石に哀れに思えてくる。

 だがその実力は本物だ。

 素早く、規則正しい軌道に乗った刃は何でも切り裂いてくれる。


 突然、影が濃くなった。

 泣いていた顔を真剣なものに戻した瞬間、船橋は寝転がっているのではないかと思う程低い姿勢をとって、その攻撃を回避する。


 ナリアが巨大な槌を創造し、それを横に薙いだのだ。

 間一髪回避した後、船橋は飛び上がりながら斬り上げる。


「無雲流、片雲斬り!!」


 片手のみで斬り上げた刃は、再びナリアの腕を斬り飛ばす。

 槌が遠くの方へと飛んでいく、ズンッと音を立てて地面にめり込む。

 正確無比な攻撃は、次々にナリアの四肢を斬り飛ばしていった。


 だが六度目の攻撃で、それは打ち止めとなる。

 鉄の手袋を装備したナリアが、船橋の刀を掴んだのだ。


「んっ!? 交代!」


 消えた瞬間、木幕が出現する。

 船橋の後ろから接近していた様で、ナリアはその攻撃を回避することができなかった。


「葉我流剣術肆の型、葉返り」


 上から切り込み、その瞬間に刃を返して下段からの切り上げに変更。

 装備していた手袋のせいであまりダメージを与えることはできなかったが、それは次の瞬間に破壊された。


「な!!」

「雷閃流……縦一文字」


 手袋と一緒に腕が切り飛ばされた。

 沖田川藤清の居合だ。


 木幕がナリアを蹴飛ばし、無理やり距離を開ける。

 沖田川の側に寄って息を整えた。


「もうひと踏ん張りじゃ」

「はぁ、スー……ッ。っし」

「その意気じゃ」

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