11.5.交代
心底面倒くさそうという目で、辻間はナリアを見ている。
彼には亡霊が見えるのだが、その種類で相手がどういう人間なのかを理解することもできた。
辻間から見て、ナリアは大量の亡霊に恨まれている存在。
その亡霊は山のように大きく、ナリアがちっぽけに見えていた。
「何したらこんな亡霊抱えられるんだよ……」
「お主、なんともないのか?」
「んー……なんともないな。俺の蛇弧牢も元気いっぱいだ。で、俺何したらいいの? あいつやべぇんだけど」
「こんな所でお主と共闘するのか」
「お、いいね~。お前とは一緒に戦ってみたかったんだ! あわよくば戦ってみたかったんだけどな」
辻間は分銅を腕からぶら下げ、回し始める。
前方にヒョウッと投げたそれはナリアには届かなかった。
だがその代わり、周囲に浮いているナイフが次々に弾かれていく。
長く伸ばした鎖を自在に操り、戻って来たナイフもすべて弾き、木幕のために道を作る。
どうだと言わんばかりに笑った辻間は声をかけた。
「はっはぁ! これでいいか木幕!」
「十分だ」
道ができたことで、木幕は一直線にナリアへと走り出す。
その距離はまだ遠いが、辻間も一緒に走って来てナイフをすべて弾いてくれている。
「なんで他の魂が……! まぁ関係ないわ。全部まとめて……切り裂く!!」
ナイフの速度が上がった。
辻間だけではそれを防ぎきることはできなかったが、木幕はそれを回避してナリアに接近する。
だが浮遊できる彼女は木幕が近づいて来た瞬間に浮かび上がった。
小さく舌を打った木幕は、辻間と位置を交代する。
瞬時に意図を読み取った辻間は木幕の肩に飛び乗り、バッと上に飛んで分銅を投げつけた。
それはナリアの顔面目掛けて飛んでいったのだが、それをギリギリで回避。
危なかったと冷や汗を流した瞬間、足に何かが巻きついた。
「な!!」
「本命はこっちじゃ、ばーか」
グンッ!!
鎖が足に絡みつき、先端についていた鎌がナリアの足を傷つける。
思いっきり引っ張られたナリアは地面に背中をしたたかに打ちつけ、空気をすべて吐き出した。
その瞬間木幕がナリアへと肉薄。
下段から横凪に切り裂くと、ナリアの服が切り裂かれた。
「なんで!? なんで神の力が使えないの!!」
ナリアは叫びながら、木幕と距離を取った。
この空間は自分が作り出したものであり、何でも自由に行うことができる。
要するに、この空間にいる者はナリアの手の平の上なのだ。
だというのに、その力が一切使えなかった。
一体どういうことなのかと考えている間にも、木幕は接近して刃を振るう。
「葉我流剣術伍の型、枯葉」
下段から斬り込み、追撃を警戒してすぐに回避。
そしてまた下段からの切り込み。
ナリアは剣を創造してその攻撃を凌ぐ。
こういう力は使えるのかと知った瞬間、再び宙を舞ってナイフを創造。
射出して木幕を狙う。
走って回避した木幕は、最後に地面に刺さったナイフを拾い上げて投げ返す。
見当違いの方向に投げたと思ったが、そこで辻間の分銅がナイフにぶつかって軌道を変えた。
ナリアの足にナイフが突き刺さる。
「!? 痛い!?」
攻撃が通じることを理解した二人は、一度距離を取って話し合う。
「いいねぇー。確かあれが俺たちを呼んだんだっけか?」
「うむ。某たち以外にも多くの侍を呼んでいる」
「というかあいつ神だろ? なんで怪我してんだ?」
「それは分からぬ」
神というのは絶対的な存在であることが多い。
普通に戦えば、木幕たちだとしても簡単に殺されていただろう。
では何故彼らの攻撃が通じるのか。
それはナリアが叶えた木幕の願いにあった。
彼女は「正々堂々、勝負しろ」という木幕の願いを聞き届けた。
正々堂々には、卑怯な手段を使わず、態度が立派なこと、という意味が入っている。
その願いをかなえてしまったナリアは、木幕が戦えるほどにまで弱体化してしまったのだ。
とは言え空間の持ち主は彼女であり、それなりの力は使える。
だがその程度の力では、奇術を多く目にして対策してきた木幕や辻間にはあまり関係のないことであった。
木幕の願いは、神を斬れるほどの強い願いだ。
ナリアを殺すためだけに、考えに考え抜いた願い。
それを知らずに許諾したナリアは、先ほど辻間が言ったように馬鹿と言えるだろう。
そこで辻間は、体の変化に気付いた。
だがそれは直感的に悪いものではないということが分かり、納得したようにして木幕に伝える。
「む、すまねぇ木幕。交代だ」
「交代……?」
辻間の体が一瞬消えた。
だが次の瞬間、そこには大きな体を有し、片目に眼帯をした男が立っていた。
大きな大太刀が背に担がれており、ゆっくりと刃を抜いている。
「出番かえ。んだらばいっちょ、あばりゃーしゃあかぁ!」
ズダンと踏み込んだ葛篭平八が、獣ノ尾太刀を抜刀した。




