10.89.葉我流奇術、冷雨流奇術
「葉我流奇術! 広葉樹林!」
「冷雨流奇術! 霞の人!」
周囲に葉が展開し、柳を狙って回転する。
だが柳に当たった瞬間それは消え、その真隣に柳が出現した。
それが何度も繰り返されては、次第に木幕に接近していく。
ついに木幕の眼前にまで迫った柳が、下段から刃を振り上げた。
それを防いだはずだったのだが、それすらも霞に消えて刀身をすり抜ける。
「!!」
ババッとのけぞった木幕は何とかそれを回避する。
だが額に傷がついてしまった。
血が流れ出る。
「奇術、針葉樹林、落ち葉」
松の葉と枯れた葉を周囲に展開する。
松の葉が柳を襲うが、それは先ほどと同じ様に回避され、再び木幕に迫った。
カシャッ……。
落ち葉を踏む音が聞こえる。
後ろを振り向いて思いっきり葉隠丸を振るうと、ギャンッという音と共に火花が飛び散った。
「良い洞察力だ」
「初手で、攻撃された方向と見えていた柳様の動きに違いがありましたので」
「では、受けてはいけないな」
「!!」
ズッと刀身が透け、木幕の胸が切り裂かれる。
ビチャチャッと地面に血がしたたり落ちた。
「冷雨流、霞卸」
ダンッと踏み込み大上段からの斬り下ろし。
痛む胸部を抑えながら、木幕は何とかそれを回避する。
「それでは某もご忠告」
「……」
「某の葉は、すべてが武器」
「!?」
地面に落ちていたはずの枯葉が、重みを増して柳に数発ぶつかった。
掠めた葉は柳に傷をつけ、直撃すれば強烈な打撃となった。
よろめいて数歩下がり、ガクリと膝を落としてしまう。
木幕も同じで、胸を押さえたまま動かない。
柳は今の一撃で、二本のあばらを折っていた。
息がしにくくなるが、再び立ち上がって木幕に切っ先を向ける。
木幕も立ち上がり、血まみれになった手を服で拭ってから、葉隠丸を握った。
周囲にある葉が全て武器となっている木幕に対し、攻撃をほとんど受け付けない柳。
だが今の一撃は入った。
どういう原理かは分からないが、攻撃を入れられることが分かれば儲けものだ。
「葉我流奇術、落葉」
「冷雨流奇術、雹」
落ち葉が柳に向かって飛び出す。
だが周囲の霞が氷を作り、それを尽く撃ち落とした。
横には飛ばせない奇術だが、こうして身を守るには十分に使える。
だが手数は木幕の方が上だった。
「針葉樹林」
「霞の人」
柳の居た場所に大量の葉が突き刺さる。
だが相変わらず不思議な動きでそれを完全に回避した。
再び木幕に接近した柳は刀を振り上げ、振り下ろす。
受けてはならない攻撃だ。
回避した木幕は再び地面に落ち場を作り出し、柳の位置を把握する。
だが今回は何処にもいなかった。
ギャチィン!!
上空からの攻撃。
それを葉が防ぎ、何とか攻撃を受けずに済んだ木幕は自分が攻撃をしようと斬り上げる。
上空で身動きの取れない柳は体をひねって回避するが、そこで胸に激痛が走る。
それによって足を斬られてしまった。
斬られていない方の足で地面を蹴って距離を取る。
この霞の人という奇術は、一定時間は無敵になるが使用後数秒は技を使えなくなる。
攻撃の瞬間は解除しなければならないので、カウンター攻撃に非常に弱いのだ。
まさか自分の意志で葉が木幕を守るとは思っていなかった。
今ので仕留めることができたと思っていたのだが、刀も本気で勝ちにきている様だ。
厄介だが、素晴らしい刀。
本当に主人想いの良い刀である。
「なかなか……奇術をものにしているではないか」
「……葉隠丸の……お陰ですかね」
痛む胸部を庇いながら、返事をする。
なかなかつらいが、そろそろ幕引きとしたい。
これ以上全力で戦うのは不可能だ。
であれば、最後に出せるだけの力を振り絞って、柳を負かさなければなならなかった。
「柳様……本当は、もっとお話ししたかった」
「拙者もだ」
「ですが、もう長くは持ちませぬ」
「……ああ」
「今回は、勝たせていただきます」
「拙者も同じよ」
柳は天泣霖雨を掲げた。
すると、近くで見ていた魔物が一斉に木幕へと目線を向ける。
「すまぬな。これは戦だ。拙者も全力を持ってお主を潰さねばならぬ」
「構いませぬ。戦ですから」
木幕は柳の本気を見た。
勝ち方に手段を択ばないのは、今回が初めてだろう。
それだけ自分の実力を認めてくれているのだ。
構えを取った。
逆霞の構えだ。
「葉我流奇術……無の型」
その言葉を聞いて、柳は叫ぶ。
「無だと! フハハ! 成長する型を持つお主が無とはな! 型がないのか、それとも名がないのか」
「名はあります。型がないだけです」
「それは流派とは呼べぬよ」
「生き物に、流派は不要ですから」
「フッ、良いだろう」
柳はその場にいる魔王軍すべてをこちらに集結させた。
これが本当の全戦力。
木幕を倒すためだけに、戦いを捨てた。
勝負に勝つために、手段は問わない。
「魔王覇気!!」
『『『『ガアアアア!!』』』』
『『『『ギャワギャワワ!!』』』』
小型、中型、大型の魔物が木幕に接近する。
小型は素早く、既に木幕の間合いにまで入っていた。
だが彼は動かない。
牙が木幕を襲う。
触れるか触れないかギリギリの瞬間、高め切った集中力を放出して、一つの技を繰り出す。
今まで、考えに考え抜いていた葉我流奇術の最強の技。
どう動かせば生き物になるのか。
だが架空の存在を見ることはできないので、想像の中でしか作り出すことはできなかった。
それでも、この技は完成した。
「葉牙龍」




