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10.78.槙田VSダルガ


 半裸の魔族が、隆起させた土に乗って槙田を見下ろす。

 槙田と閻婆はそれを見上げ、歯を食いしばっていた。


 可愛い部下が死んでしまった。

 それに酷い怒りを槙田は露わにし、紅蓮焔を握りなおす。


「貴様はぁ……殺すぅ……」


 ボウッと炎を出現させ、とりあえず放つ。

 それを軽く回避した魔族は、地面に降りた。


 ズシンッ!!

 巨大な体躯ではあるが、そこまでの体重があるとは思えなかった。

 しかし彼の足元はクレーターができており、その重さをはかり知ることができる。


 槙田も閻婆から降りて歩く。

 閻婆には空を飛んでいろとだけ伝えて避難させておいた。


「炎上流奇術ぅ……鬼火ぃ」

「はっはぁ!」


 紅蓮焔を横に振るい、数十の火の玉を出現させる。

 それは自由自在に動き回り、魔族に向かっていった。

 しかし彼は鬼火を拳だけで完全に消し去ってしまう。

 拳は少し熱くなるだけで、火傷はしそうになかった。


 炎は効かないらしいということが分かった。

 であれば後は接近戦だ。

 地面を隆起させるほどの力を持っているということは知っているので、それがどれ程にまで危険な行為なのかは知っている。


 だがしかし、勝ち筋が見えたのだから槙田は危険性を恐れない。


「はぁ!!」


 地面を蹴って高速で槙田に接近する魔族。

 下段に下ろした紅蓮焔が、チリチリと燻っている。


「炎上流……いげぼ」


 相手の刀を弾くことだけに特化した技。

 狙いを定め、その拳を切り裂く。


 魔族の拳が、槙田の眼前に迫る。

 槙田は半身動いてその攻撃をギリギリで回避する前に斬り上げた姿勢を低くする。

 右膝を抜き、体を右へと倒す。

 拳は頭上を取り抜けて通り過ぎた。


 躱されたことに気付いた魔族はすぐに後ろを振り返って追撃する。


「お前ぇ……弱いなぁ……」

「あ?」


 バシュッ!

 追撃しようとして繰り出した拳が吹き飛んだ。

 何が起こったのか分からない魔族は、そのまま状態で目を見開いて驚いてしまう。

 だが槙田は追撃をしない。

 弱すぎる敵に、哀れの目を向けているにとどめていた。


「んがああああ!!?」


 腕をギュウと押さえつけて止血を試みる魔族。

 彼は槙田から酷く冷たい視線を向けられており、それが屈辱でもあった。


 あの回避での一瞬。

 そこで槙田は腕を斬り飛ばしたのだが、その動きが速く向こうが切られていることに気付いていなかったらしい。

 面白いこともあるものだと槙田は少しだけ笑ったが、逆に何故気付かないといった疑問の方が上回って笑いは表に一切出さなかった。


 今は腹立たしさは消えている。

 こんな奴に手下を殺されたのは不満ではあったが、そんな手下もこいつに殺されたということに腹を立てている事だろうと勝手に思っていた。


「炎上流……」

「っ!」

「輪入道」


 ダンッ!!!!

 凄まじく大きな踏み込みが、魔族の耳に届いた。

 だがその瞬間には槙田が眼前にいて、更には紅蓮焔を斬り上げている最中だった。

 辛うじて回避したが、斬られた腕が更に斬られる。


 槙田は振り上げた紅蓮焔を持ち上げて背から回し、反対側の下段からの切り上げを繰り出した。

 二連撃。

 二度目の踏み込みも恐ろしく大きいものであり、その威力が音だけでも伝わってくる。


 半身でかろうじて回避した魔族は、その二撃目を回避することはできなかった。

 炎上流、輪入道は一撃目より二撃目の方が威力がある。

 遠心力が乗ったその攻撃は肩の力を使って繰り出されており、防ごうにも武器は弾き上げられてしまうだろう。


 ズビシャ!

 魔族の膝から肩口にかけて大きな切り込みを入れた。

 斬り上げた構えを維持していた槙田は、しばらくすると血振るいをして前線へと歩いていく。


 槙田が三歩歩いたところで、その傷口からは大量の血飛沫が上がった。

 巨大な体躯をしていても人の形をしていれば普通に戦うことができる。

 酷くつまらない戦いだったと思いながら、槙田は後方で援護をしている者たちに声をかける。


「全軍、前進」


 炎を出現させたあと、それを遠くの方へと放り投げる。

 後方で矢を打ち続けてもらっていたので、油と火薬を仕込んだ矢が大爆発を起こす。

 後方から大きな歓声が聞こえてきたと同時に、槙田は戻って来た閻婆に乗った。


「なぁぜ俺の時にあの怪力を見せなかったんだぁ……? あほめがぁ……」


 心底不思議だという風に、槙田は首を傾げた。

 地面を隆起させて攻撃すれば、優位には立てただろうに。


 だが、魔族のダルガは、あの時既にその力を十分に使っていたのだ。

 一撃目は確かに手加減していたが、二撃目は本気だった。

 しかし、二撃目の時に拳が切り飛ばされ、その力を十分に発揮することができなかったのである。


 遊んでいるからこうなってしまう。

 ここは戦場だ。

 手加減など生ぬるいものは誰一人として必要としていないし、必要としないだろう。

 敵をなめ腐っていたからこそ、彼はその生涯を閉じることになった。


 槙田は本当に哀れな目を死体に向けたあと、兵を前進させた。

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