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10.67.魔族領へ


 増援到着から数時間後、既に陣形は整い始めており、長旅の準備が整えられ始めていた。

 ローデン要塞で待機していた兵士たちはすぐに出発できるようにと、荷造りを既にしていたらしい。

 未だに圧倒的な戦力差ではあるが、彼らの士気は高かった。

 その理由は新たな援軍と、温かい物資による効果からだろう。


 彼らは様々な理由で闘志を燃やしている。

 勿論その中にもうんざりしたような顔をしている者や、士気が著しく低いものもいた。

 前線で仲間を失った者たちの精神状態は、すぐには回復できないようだ。


 こういった者たちをどうするかは、総指揮官のバネップに委ねられた。

 だが彼は無理を通してでも連れていくという決断を下す。

 ただでさえ少ない兵力をここで待機させるわけにはいかないのだ。

 それに、人間軍が有利になりそうな情報が、一つだけ入ってきたのである。


 魔族領では、雪が降らない。 

 ここまで酷い吹雪にはならないだろう。

 なので、向こうでは弓が使える可能性があった。


 運搬物資は多くなるが、これがあるないで戦闘に大きな差が生まれることになる。

 魔王軍はあの時一度も投擲物や弓を放ってこなかった。

 使えないと考えていたのかもしれないが、まず魔物たちだけでは精々石を投げるくらいしかできないだろう。

 人間らしい戦い方が、向こうに行けばできる可能性がある。


 ローデン要塞の武器庫には、多くの武器が残っていた。

 それをすべて持ち出し、士気の低い兵士に手渡す。

 後方からの援護であれば、彼らも気兼ねなく戦うことができるだろう。


「……もう行く気か?」

「その様だぁ……。お前も早く準備しろぉ……」

「槙田は道を作れ」

「閻婆にやらせるぅ……」


 出撃する気満々の彼らは、着々と準備を進めている。

 予定としては明日だったのだが、早く行けるのであればそれに越したことはないだろう。


「総大将ー!」

「遅かったな、ローダン」

「遅れて申し訳ありません! これから魔王城へと進軍すると聞いて、こちらの士気は最高潮です! ぜひ我々を前線に置いてくださいませ!」

「考えておこう」


 孤高軍の三強が一人、ローダン・アレマテオ。

 どうやら彼らはマークディナ王国兵と合流して同時にここへ到着したらしい。

 それはそれでありがたい。


 長旅で疲弊しているかと思われたが、その逆。

 今からでも戦いたいとうずうずしている者たちしか、この場には残っていないようだった。

 それに魔王軍撤退の報告を聞いて、彼らは舞い上がっている。

 これだけの士気を有しているのであれば、確かに前線に配属しても問題ないかもしれない。


 マークディナ王国兵のリーダーは、今現在総指揮官のバネップに挨拶へ行っているのだとか。

 その辺は彼に任せておいていいだろう。


「ふむ、まさか巡り巡って、お主らと共闘することになるとはな」

「はっはっはっは! 確かに、私も夢にも思いませんでしたよ!」


 木幕は転移された時のことを思い出す。

 レミと会い、リーズレナ王国で勇者と会い、ルーエン王国でライアとバネップと出会って孤高軍が作り出された。

 ローデン要塞では様々なことがあったが、多くの人に恵まれた。

 ライルマイン要塞ではウォンマッド斥候兵たちと出会い、アテーゲ領では海賊たちと良好な関係を築けたと思う。

 マークディナ王国では少しひやひやとした部分があったが、良い人材に出会えた。


 何より、槙田、西形、水瀬と共闘できるのが大きい。

 三人の力はここに居る兵士たちの何倍にも及ぶものだろう。


 今までの出会いが、ここに集結している。

 まるで定められたかのような、そんな不思議な感覚を木幕は抱いていた。


「面白いこともあるものだ。だが……負ける気はしないな」

「ええ! 総大将自ら前線に出るのでしょう!? だったら百人、いや千人力ですよ!」

「今だけは、奇術に感謝しなければならないな」


 木幕は葉隠丸を撫でる。

 こいつのお陰で、様々な場所を旅することができた。

 奇術がなければ、この世界で生き抜くのは相当難しかっただろう。


 それと……今までの出会いにも感謝する。

 この旅はこのためのものだったのだろう。

 長い旅であったが、逆に短くもあった。


 国で過ごした時間より、移動をしている時間の方がはるかに長かったような気がするが、それはそれで楽しかったということを覚えている。

 一人旅ではこうはいかなかっただろう。

 レミとスゥには言わないが、木幕はひっそりと二人にも心の中で感謝した。


「今日中に出発できそうだな。行くぞローダン。魔王を討つために」

「はっ!!」


 大きな返事をした後、ローダンは自分の兵の元へと戻って行く。

 既に準備の整った部隊はローデン要塞を出ているらしく、槙田の従える閻婆が雪を溶かして道を形成してくれていた。


 今日は日が出ている。

 出発に丁度いいこの日を、バネップは選んだのかもしれないと思いながら、木幕も仲間の元へと歩いていった。


 魔族領は、ここを出てすぐだ。

 しばらくは雪に覆われている大地が続いていたが、半日もすれば雪は山の上の方でしか見受けられなくなっていた。

 歩きやすくなった道を、馬車は移動する。

 炎で雪を溶かしているので、今回は馬を持ってくることができたのだ。

 馬車を動かすだけの数しかいないが、これだけでも十分である。


 ここから一ヶ月。

 人間軍は道の魔族領を突き進むことになったのだった。

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