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10.60.作戦開始


 一日休んだ兵士たちは、荷物をまとめて撤退の準備を進めていた。

 下町の物資をすべて集め、住民には避難してもらう。

 空っぽになりつつあるこの場所で、未だに動く気配のない者たちが数名残っていた。


 今日の夜、作戦に参加するメンバーの四人だ。

 ウォンマッド、エリー、ミュラ、ティアーノ。

 四人はドルディンの書いた地図を見て、作戦を練っている最中だった。


「私はこの辺りに行くわ。お店があるから、ここの付近は絶対に燃やさないでね」

「近くに物資があった場合は……?」

「何とかする」

「ま、勇者さんだし、何とかなるっしょ。僕は任せるよ」


 ティアーノはこの中で一番ローデン要塞のことを知っている。

 彼女であれば難しい任務でも遂行してくれることだろう。


 他の三人も自分が担当する場所を決めて、準備を開始した。

 必要な物はすべて魔法袋の中に仕舞い込み、いつでも取り出せるようにしている。

 今回持っていくのは油と火だ。

 炎魔法と雷魔法を使うことのできる者であれば火種はいらないが、使えない者は必要である。

 火打石は懐に仕舞い込み、あとは時間が来るまで体を休めることになった。


 日が沈んで静まり返った時が、作戦開始の合図だ。


「ねぇねぇー」

「……な、なに?」


 ミュラが面白そうにティアーノの顔を覗き込む。

 自由気ままな彼女がとっつき難いティアーノに声をかけていることに、エリーは大丈夫だろうかと心配する。


「勇者って強いのー? 弱そうー」

「人によるわ。勇者にもいろいろあるから」

「試していい?」

「今は駄目。作戦開始前に怪我して参加できませんでした、じゃ話にならないから」

「そっかー」


 いつまでも子供っぽいミュラを簡単にあしらったティアーノ。

 昔の彼女であれば、この発言で確実に腕試しをしていた事だろう。


 それを遠目から見ていた木幕は、大丈夫そうだなと一つ頷き、バネップの元へと戻って行った。

 あの四人であれば仕事をしっかりとこなしてくれるだろう。


「さ、柳様。どう動かれる?」



 ◆



 強い風に空から降り続く雪が渦を巻く。

 灯りがあったとしても、遠くの方はほとんど見えないだろう。


 強い風によって、鼻の良い魔物も匂いで索敵をすることができなくなっている。

 姿は見えず、人間の匂いもかき消されるこの状況は、四人にとっては好都合だった。


 バチチッ! パシャシャッ。

 トトトトッ。トントンッ。

 各々が自分の得意な移動方法でローデン要塞へと向かって行く。


 雷魔法で速度を上げ、雪に沈む前に足を上げるウォンマッド。

 少し音は鳴るが、この吹雪によってほとんど気にならない。

 ミュラは水を出して凍らせ、足場にしてトントンと跳ねるように移動している。

 無詠唱の水魔法に加え、無詠唱の氷魔法を彼女は修得していた。


 ティアーノは木々を足場にして三人の頭上を移動している。

 彼女の身体能力があれば、これくらいは余裕でこなすことができるのだ。

 最後にエリーだが、ミュラの出した氷を足場にして移動している。

 他の移動方法を持ってはいるのだが、魔力消費が激しいので今は温存するためにこうしているのだ。


 しばらく走っていると、どうやら目的地であるローデン要塞に到着したらしい。

 大きな影が正面に見える。

 そこから先頭を切っていたウォンマッドが片腕を上げた。

 これが合図だったのか、次の瞬間には四人がバラバラの方向へと向かって移動を開始する。


 一切の速度を落とさなかったウォンマッドは木々を飛び越えて上から様子を伺ってみる。

 だがやはり吹雪のせいでほとんど見ることができなかった。

 こうなってしまうと頭の中に入っている地図のみが頼りだ。


「ちょっと難易度高くない?」


 小言を言いながら、彼は南へと移動する。

 ローデン要塞の食糧庫は五つ。

 大きな建物なので、初めて来た時にも目についたし場所は大体把握している。


 ウォンマッドはその二つを燃やすことになっていた。

 南には近くに二つの倉庫があるのだ。

 小さな家々の物資はさすがに手が回らないが、それはミュラとティアーノの仕事となっている。


「おっ」

「グルツッ……? !」


 小型の魔物が一匹歩いていた。

 すぐにこちらに気付いたようだったが、その位置で気付いてももう遅い。

 ウォンマッドは背に担いでいた片刃の大剣を握り、峰で魔物の首をぶっ叩く。


 ゴッ。

 鈍い音がしたと同時に、魔物はどさりと倒れて動かなくなった。


「あーびっくりした。血は……出てないね。よし」


 血の匂いに、魔物や魔族は敏感だ。

 できるだけ血を流させるのは避けなければならない。


 これくらいのことはウォンマッドにすれば容易いことである。

 ただ得物が大きいので力加減を間違えないようにしなければならない。

 それが少しだけ面倒だ。


「っし、じゃあ……行くかな」


 足に雷を纏わせて素早く移動する。

 屋根に上って周囲の様子を確認すると、魔物は建物の陰に隠れて吹雪を凌いでいる様だった。


「……魔物の本能がここで出たのか」


 極悪な環境で生活している魔物ほど、強い。

 だがその代わり、極力行動をしまいと動かないことが多いのも事実。

 ただでさえ獲物が少ないからだろう。


 だがこれは好都合だ。

 相手の嗅覚もこの状況ではほとんど使えないだろう。

 今の内に倉庫を燃やすことにする。


 何度か屋根を飛んで移動し、目的地へと到着する。

 ここが一つで、もう一つはこの隣にあった。

 これであればすぐにでも火をつけて逃げることができるだろう。


 ウォンマッドは倉庫の窓を発見した。

 屋根から飛び降りて窓の縁に手を掛け、そこから侵入する。


「っ……」


 部屋に侵入した瞬間、強い魔物の気配が下の階から感じ取れた。

 さすがにそこまで上手くはいかないようだ。

 だがやることは一つ。


 魔法袋から油を三つ取り出し、それを階段から下に放り投げて割る。

 パリンッという音に下で休んでいた魔物が慌てて目を覚ます。

 油が体にかかった魔物は体を振るっていたが、それはそれでまた好都合。


 最後に残ったもう一つの瓶を二階の足元で割って、窓の外へと飛び出す。


「ばーいばいっ!」


 人差し指二本を窓に向け、電撃を放つ。

 電撃の一つは一階へ、もう一つは二階へ。

 的確な電撃コントロールによって、油の撒かれた場所に直撃し、着火したのだった。


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