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10.58.敵情視察


 暗い真冬のローデン要塞を、三人の人物が眺めていた。

 そこは既に魔物の巣窟と化してしまっている。

 見回りをしているのは小型の魔物が多く、中には小型と中型の魔物しか見受けられない。


 大型の魔物はどこにいったのだろうかと思って少し観察をして見たのだが、やはりここにはいないらしい。

 守りに徹するであれば、強い兵を前線に置いておく方がいいのになと思いながらも、彼らはもう少しの間敵の観察をすることにした。


 しかし、木幕に指示されてここに来たエリーとウォンマッドは、途中から合流した変な女性を横目で見る。

 彼女は楽しそうにしながらも、敵の情報を雪に書いて記憶しているようだった。


「……誰?」

「ミュラっていう人です。狂人です」

「きょ……え?」


 エリーの発言にますます分からないといった表情を見せるウォンマッド。

 一見してみれば、敵情視察の何たるかを知っている人材だということしかわからない。

 だがエリーは知っている。

 ミュラは師と仰いでいた人物の死に嘆きもせず、死後速攻で骸を漁って武器を自分のものにしたということを。


 自分の師にそんなことをするか? と言った目線で彼女を見るのだが、やはりミュラは気にしていない。

 そもそも人の感情を読み取る事をほぼしないのだ。

 顔色を窺わない彼女は、自由気ままにここまで旅をしてきたのだろう。


「でも強いんだろう?」

「戦っているところは見たことがありませんので、なんとも言えませんね」

「ミーは強いよー」

「……名前はミュラじゃなかったっけ?」

「愛称で自分の名前を呼ぶみたいなんですよね」

「へー……」


 おかしいとまではいわないが、少し面白い人物だなとはウォンマッドも察した。

 だが彼女は自分たちに合わせて行動をしているし、なにより動き方をよく分かっている。

 下手をすれば自分の方が彼女の邪魔をしかねないくらいだ。

 それだけの隠密スキルを、彼女は有しているらしい。


 エリーは彼女に対してあまりいい印象を抱いていないようだが、作戦に支障が出ないのであれば問題はないだろう。

 そう思って敵情視察を再開する。


「あっ、魔物さん何か食べてるねー。あれ、物資が入った馬車かなぁー?」

「……確かに、そのようだね」


 ミュラの発言を聞いて、注意深く観察してみると確かに魔物が食事をしていた。

 馬車をひっくり返して出て来た食料を漁っているらしい。


 他にもローデン要塞の家の中にある物資を漁って外へと引きずり出し、それを食べさせている魔族の姿も見て取れた。

 敵から盗んだ物資を使用するのは当たり前のことだ。

 脱出する時間はあったから、こういうことを斥候兵に任せればよかったなと、ウォンマッドは考えてため息を吐いた。


 冷静であればこれくらいのことは思いつくことができただろう。

 撤退というのは恐ろしい。

 いつ敵が後方から襲ってくるのかが分からないのだ。

 自分も戦っていて、そんなことにまで頭が回らなかった。


 リーダーとしてもう少し頑張らなければなと思いながら、彼は違う場所を見てみる。

 だがそれ以外には特に変わったようなことはない。


「で、ローデン要塞奪還作戦は……嫌がらせをする、でしたよね」

「だね……。一体どんな嫌がらせをするのか見当もつかないけど。でも……他の戦力は一体どこに行ったんだろう」

「確かに……」

「少ないねー」


 敵の数は十万だった。

 戦いが終わった後、一体どれくらいの戦力が残っているかは分からないが、それでもまだまだいるはずだ。

 だというのにローデン要塞にはあまり魔物が居ない。

 言ってしまえば守備が手薄だ。


 ウォンマッドは戦場だった雪原の方へと目を向ける。

 山のせいで奥の方は見えないが、敵がまだいるとすれば向こうしかない。

 だがこれ以上の移動は避けたいので、確認をしに行くのは止めた。

 見つかってしまえば元も子もない。


「……まだ向こうに陣を敷いているんでしょうか」

「恐らくそうだと思う。でもどうしてかな……少しでも多くここに味方を配置して防衛に回せばいいのに……」

「今、魔王軍は何らかの理由でこちらに兵力を回せないのでしょうか」

「可能性はあるけど……確証はないね……。こちらで決めすぎてしまうのは良くないし、一回戻って木幕さんにこの事を伝えに行こうか」

「えー、行かないのぉー?」

「相手は魔物。風向きが変わったら僕たちがいることなんてすぐにばれるよ」

「じゃあ帰るぅー」

「大丈夫かな……本当に……」


 撤退を開始した二人に続いて、エリーもついていく。

 だがミュラの自由な発言に対して嘆息した。

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