表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
380/428

10.53.陸王・メディセオ・ランバラルVS魔王軍四天王・スディエラー


 強烈な一撃をスライディングで回避したスディエラーは、その風圧を何とか耐えて分身を再び出現させる。

 これはすぐに復活させることができるものだ。


 急に出現した分身の攻撃は当たるかと思われたが、メディセオは腕を殴って武器を手放させる。

 腕がひしゃげながら吹き飛び、十字架の剣で両断した。


「硬質化!」

「はぁ!!」


 本体がその攻撃を何とか受け止める。

 続いて出現した分身がメディセオの後ろから攻撃を仕掛けた。

 武器が掴まれている以上素手での反撃しかできないが、メディセオはそれを事も無げにやってのける。


 一度武器を手放し、分身スディエラーのステッキを掴んで振り回し、地面へと叩きつける。

 まさか自分の武器を手放すとは思っていなかったため、本体スディエラーは一瞬だけよろめいてしまう。


 パンッ! ガッ! ドン!

 掌底の後、胸ぐらを掴んで再び地面へと叩きつける。

 分身はそれで致命傷を負い、衝撃で周囲の雪と地面が吹き飛んだ。

 視界が悪くなった瞬間、メディセオは本体の持っていた武器を再び手に持ち、振り回す。


 このまま手に持っていてはマズいと瞬時に判断し、ぱっと手を離して翼を再び生やした。

 一度、二度、三度の羽ばたきで最高速まで加速した彼は周囲を縦横無尽に飛び回って攻撃を畳みかけていく。

 鋭い連撃の音と火花が散る。

 スディエラー最速の攻撃もメディセオは難なく防ぎ、タイミングを見計らって彼に拳をねじ込んだ。


「むっ」


 どろりと溶けたそれは分身の特徴だった。

 目を放したつもりはなかったのだが、何処かで分身と入れ替わったようだ。

 本体を探すべく魔力操作で索敵を開始するが、近くにはいない。

 あの速度であればすぐに距離を取ることはできると思うが、そう簡単に逃げ出す人物だとは思っていない。


 潜んでいるはずだ。

 だが雪は既に吹き飛び、地面も大きく抉れている場所がいくつもある。

 隠れられる場所など既にない。


 ガッ!


「!?」


 地面から手が生えて、メディセオの足を掴む。

 反射的に攻撃を繰り出したのだが、それより先に地面の中に足を引きずり込まれて体勢を崩してしまった。


 このままではマズい。

 すぐに片手で地面を殴り、その反動に乗じて脱出する。

 空中まで飛び上がったメディセオはその穴を見てみた。

 すると、してやったりという表情をしたスディエラーの顔が見て取れた。


「……! クソッ……」


 チクリと痛む足を見てみれば、そこにはひし形の模様が刻み込まれていた。

 呪印。

 数十年の年月をかけて呪い続けた針を今刺されたのだ。


 解呪方法は知っているが、今足を失って戦えなくなるのだけは避けたい。


「高くつくぞ」

「私にしては健闘した方でしょう」


 地面の中から分身と一緒に出てきたスディエラーは、おどけた調子でそう言った。

 圧倒的強者には搦手で戦いを挑まなければならない。

 そんなことは様々な戦いを経験したスディエラーには常識だった。


「ふふ、貴方の剣圧も私の翼で無力化できる。移動速度は同じくらいですが、火力面と反射速度では勝てませんね」

「時間がないからの。もう終わらせるぞ」

「では私は耐えましょう」


 メディセオが地面を蹴った。

 反射的に回避したスディエラーだったが、分身の一体がそれで両断される。

 その後二体で攻撃を開始した。

 二体一でもメディセオは優勢であり、スディエラーの最速の攻撃を受け流しつつ、確実にダメージを与えていく。


 三体目が復活可能になった時には、既にもう一体はボロボロだ。

 ついには本体も吹き飛ばされ、地面に強く叩きつけられてしまう。


「げっほ……」

「ふん!!」


 ギャヂィン!

 分身二体がボロボロになりながらも、本体を守る。

 硬質化を使い、武器を何とか受け止めていた。

 二体でようやく彼の一撃を受け止められる。

 足は地面にめり込み、激痛が突き抜けていくが、本体がやられなければこちらは何度でも復活することができるのだ。

 捨て駒として使ってもらうのが、一番良い作戦である。


 死兵を相手にするのは、さすがのメディセオでも難儀する。

 運が悪ければ返り討ちにあってしまうからだ。

 それを往なすだけの技量は持っているが、危険なことに変わりはない。


「はぁ!!」


 片手で二人に掌底を食らわせる。

 魔力を込めて威力を上げているので、これだけで二人はバラバラになってしまった。


 メディセオが足を確認してみると、あと五つつひし形の模様が増えると一周しそうだ。

 予想以上に回りが早い。

 スディエラーは何とかここまで耐えることはできたが、これ以上の戦いは難しいだろう。

 いろんな箇所の骨が折れている。

 足、腕、肋骨に肩。

 動くたびに激痛が走り、武器となるステッキを握っているだけで精一杯なのだ。


 一体あの若返る時間はいつまで続くのだろうか。

 とはいえ、普通の状態であっても勝てそうにはなかったのだが。


「げっほげほ……ぺっ」

「終わりだ」


 メディセオが踏み込み、肉薄する。

 反応することはできたが、耐えるだけの力は既に無かった。

 何とか硬質化してダメージは軽減できたが、それでもまた骨が折れる程の衝撃が体を襲う。

 痛みで体勢も直すことができず、そのまま地面を転がっていった。


 トッ。

 何かにぶつかったようだ。

 だが硬いものではなかったらしい。


「……柳様」

「よくやった」


 スディエラーを受け止めてくれたのは、柳だったようだ。

 優しく地面へと寝かせ、彼はメディセオを睨む。

 ゆっくりとした歩調で歩いていき、柄に手を置いて息を吐く。


「家臣が世話になったようだ」

「……魔王か」

「そう、呼ばれている」

「お前を倒せばこの戦争は終わるな」

「倒せれば、ではあるが」


 返答が返ってくるか返ってこないかのタイミングで、メディセオは肉薄した。

 下段に構えられていた十字架の剣を渾身の力で大きく振り上げ、彼を両断する。

 が、その攻撃は空を切った。


「冷雨流奇術、霞の人」


 魔王を斬り伏せた感触はなく、ただふわりと去るように姿を消した。

 しかし、その寸分隣に彼はいる。

 最後切り下ろしても同じことが起きてしまった。


「礼を重んじぬ者に、礼節は不要であるな」


 チキッ。

 彼が柄を握り込んだ瞬間、メディセオは後退しようと飛びのく。

 攻撃はまだ飛んでこず、ただゆっくりとその刀を抜刀した。


 綺麗な中段に構えられた武器は、とても美しい。

 周囲が未だに雪に覆われていたのであれば、透き通るような刀身を見ることができなかっただろう。


 メディセオは警戒して武器を構える。

 すると柳は静かに歩いてきた。

 足音も何も聞こえず、風で服がバタバタと動いているのにも拘らず、音が聞こえない。

 妙な感覚に眉を顰めながらも、まずは相手の能力を知らなければならないと大きく剣を振るった。


 これによって、爆風が発生する。

 雪はもちろん地面でさえ抉り抜く剣圧だ。

 この一撃で華奢そうな体をしてる魔王は吹き飛ばされるはずだと思っていたのだが……。


 ヒョウッ。

 中段から下段に落とした武器を斬り上げる。

 すると、剣圧が遥か彼方へと飛んでいってしまった。


「!?」


 魔王は、あの剣圧を小さな武器ですべて往なしたのだ。

 息をする様に振り上げただけで。

 あれは間違いなく今持てる最高の剣圧であり、手加減をしたつもりは一切ない。


「冷雨流……」


 何かする気のようだ。

 その前に潰さなければ、確実にこちらが負けてしまうだろう。

 大きく踏み込み、魔王へと肉薄して攻撃を繰り出す。


 シュン。

 その瞬間、彼は消えていた。

 気配を感じて後ろを振り返ってみれば、振り下ろした刀を血振るいしている姿が見て取れた。


「流麗」


 ズバチッ。

 両腕と、首が刎ねられた。

 何が起きたのか分からないまま、彼は最後の戦いの幕を閉じることになった。


 メディセオが死んだあと、魔王である柳は周囲を見渡す。

 雪が吹き飛び、地面は抉れ、こちらの主力部隊が削れている。

 彼だけでこの場を制圧することもできたのではないだろうかと思う程に、強力な相手だった。


 これを初めから使わなかったということは、彼自身がその力に嫌気をさしていたか、今回の総大将が彼の実力を知らなかったかのどちらかだろう。

 周囲を見る限り、強すぎる力なので味方に被害を出してしまう恐れがあった為、使わなかっただけという考えも捨てきれないが。


「全軍」


 柳が魔王覇気を使って魔物と魔族全員に伝達する。


「要塞を落とせ」


 数で勝っていた魔王軍。

 今もその状況に変わりはなく、この戦いで勝利を飾ることは必然だった。

 魔王軍は雄たけびを上げながら目の前の壁を破壊し、ローデン要塞へ向けてようやく進軍を開始する。

 既に彼らは撤退を開始しているので、籠城戦に持ち込まれる可能性があるが……。


「あの場合、籠城戦は殿の務めとなるだろう」


 こちらがやるのは殲滅戦だ。

 大方の敵は逃がしてしまうことになるが、このローデン要塞を落とすことができたのは、魔王軍にとって大きな一歩となるだろう。


「さて、木幕よ。どうする」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ