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10.44.撤退の理由


 前線部隊が後退し始めた。

 それを遠目から確認した木幕たちは、すぐに指示を飛ばして伝達させる。

 その間にも数人のウォンマッド斥候兵が戦況を教えてくれた。


「槙田孤高軍若干の被害を出しながら撤退中! 槙田様が殿を務めてからの被害はほぼありません!」

「中央西形孤高軍はリーズレナ王国とローデン要塞の連合軍と合流し、現状を維持しております」

「ライア孤高軍は中型の魔物を足止めして後退中! ですが移動には時間が掛かる模様です」

「相分かった」


 報告を終えたウォンマッド斥候兵はすぐに前線へと情報を集めに行く。

 この場にいた者たちは、よしと大きく頷いた。


 現在は後方左右に展開していたルーエン王国の兵士が、挟み込むように移動している最中だ。

 左側、右側共に雁行の陣で展開しているので、陣を折りたたむ形で魔王軍を挟み込む予定である。

 これが撤退の理由。


 敵に深く攻め入らせてから後退し、三方からの攻撃で一気に叩く。

 今回の戦いはどれだけ敵を殲滅できるかが重要視される。

 こちらの被害も既に出ているので、どれだけ持ちこたえられるか分からないが、敵を半分ほど減らせることができれば勝ちは見えてくるはずだ。


「だがそう上手くはいかんな」

「その通りだ」


 バネップが腕を組みながらそう言った。

 木幕はそれに肯定して頷く。


 敵の圧倒的な数。

 これはどう頑張っても覆すことはできないものだ。

 弓が使えない以上、魔法に頼るほかないこの状況では殲滅力が欠けてしまう。

 これを補うために三方から攻め込む策を考えたが……展開にやはり時間が掛かる。


 槙田のいる右側は雪がほとんど溶けているので、展開自体は滞りなく進む。

 だが水瀬のいる左側は移動がやはり遅い。

 ここでは基本的に待ちの戦い方をするのが普通。

 それを覆す必要があるこの作戦では、移動が一番の問題として挙げられた。


 だが待っていては勝利できない。

 策を講じるには陣を移動させなければならないことがほとんどだ。


「左陣の様子はどうなっている?」

「水瀬さんの水で雪は凍っているようですが、重い甲冑を着けている重装歩兵は移動に手間取っているようです」

「そうか……。だが槙田の方が動いてくれていれば、問題はないか」


 片方だけでも効果はある。

 増援は絶対に間に合うだろうし、敵の突破力もそこまでではない。

 見ている限りはそう見えるのだが……。


 そこで、一人のウォンマッド斥候兵が走って来た。


「失礼します! 最前線の状況を報告します! 中型の魔物の後方に小型の魔物が待機しているようで、中型の突破力に混じって小型の魔物を差し込む策を講じている様です! 水瀬様がそう言っておられました!」

「バネップ殿」

「左がマズいな」


 援軍の間に合う右側は問題がないとして、左側は移動に時間が掛かる。

 小型の魔物が中をかき乱せば、隊は焦って連携が取れなくなる可能性が高い。


「左に展開しているルーエン王国兵はどれくらいでライア率いる孤高軍と合流できる?」

「今からですと十五分かと!」

「長い……。ローデン要塞の兵を少しだけ裂いて増援に向かわせるのじゃ」

「はっ!」


 ウォンマッド斥候兵は大きく跳躍して前線へと走って行った。

 彼であれば伝達も早そうだ。


 水瀬の奇術のお陰で、敵前線の移動速度が低下しているとはいえ、その脅威は変わらない。

 あとはどれだけ敵を減らすことができるか……。

 魔王軍の大型の魔物が来る時の方が被害は多くなるだろうが、その時は後方に待機しているルーエン王国の兵士を向かわせる。


 今回の戦は、どんな策でも快勝はできないだろう。

 なんとか被害を減らすことに尽力する。

 槙田と西形はそれに大きく貢献してくれている。

 若干の不手際があったようだが、問題はない。


「西形は連合軍と合流したか……。あいつの奇術は凄いな。槙田もだが」

「槙田って人、あれ規格外すぎだよ。どんなマジックウエポンでもあんな火力の炎出せないって」


 木幕の言葉に、ウォンマッドが呆れたようにそう言った。

 あんなのは見たことがない。

 だがとても心強い存在だ。

 右にいる兵士の士気は大きく上がっている事だろう。


「ウォンマッド斥候兵も大変ですねぇ。でも動きが速いので連絡のやり取りがスムーズです」

「前線の斥候部隊だからね。普通だよ。エリー君もそれくらいできるんじゃない?」

「買いかぶり過ぎですよ……」

「お主らもまだ仕事は残っている。呑気にしていられるのも今の内だぞ」

「そういう木幕さんも、なんで強いのにここに居るのさ。殲滅戦得意なんだろうー? ローデン要塞の皆から聞いたよー?」


 確かに木幕の奇術は殲滅力がある。

 しかしそれでも出られない理由があった。


「……少し、不安要素があってな」


 そう言って木幕は後ろを向く。

 そこにはローデン要塞東大門が鎮座している。

 あの場所に居るのはミルセル王国兵士だ。


 彼らにローデン要塞を任せているが、やはりあの第三王子の動向が気になる。

 妙なことをしでかさなければいいのだが、どうしても不安がぬぐいきれないのだ。

 本当であれば前線で戦いたかった。

 だがこの不安を抱えたまま戦いに行くと何処かで必ず支障が出る。


「……なにもなければよいのだがな……」


 今だけは前線より後方の方が心配な木幕だった。

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