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10.35.勇者到着


 着々とローデン要塞での役割が決まっていく。

 最近は吹雪が続いていたので、新たな援軍はこちらに来るのに時間が掛かっているらしい。

 だが……ようやく到着したという話が木幕に届いた。


 兵の数は多く、やはりローデン要塞の中には入ることができない。

 なので空いている南に兵を置いて、主要人物のみが中へと入っている。


 援軍の到着にローデン要塞にいる面々は喜んだ。

 新しい物資も運ばれてきており、食料や物資も潤沢となっている。

 少なくともここで籠城をすることのできる分の物資は、これで確保できた。

 他にも援軍は来ているはずだ。

 それらの物資輸送、更にはルーエン王国やミルセル王国からの更なる物資も運搬されてきている。

 こちらの方面に関しては全く問題はないだろう。


 木幕は援軍に来てくれた彼らと顔を合わせるため、外に出た。

 今到着したらしいのでまだ仕事を残してはいるようだったが、木幕の姿を見つけた数人の人物がこちらへと歩み寄ってくる。


「……生きていたか」

「俺が死ぬわけねぇよなぁ! ひっさしぶりだなぁ! 木幕!!」

「ああ、ガリオル。久しぶりだ」


 がははと豪快に笑いながら木幕の肩を叩く彼は、リーズレナ王国から援軍としてやってきてくれた勇者だ。

 アベンがいなくなってからは彼が勇者を勤め、そして今は大隊を指揮するまでの人材へと育っていた。

 約一年ぶりの再会だ。

 彼の強さは知っているし、彼もまた木幕の強さを知っている。

 忘れた事など一度もなかった。


 その後ろには、これまた懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 メアとリットだ。

 勇者一行の魔法使いと弓使い。

 彼らも勇者一行として様々な依頼をこなし、今回の魔王軍との戦いに馳せ参じてきてくれたようだ。


 心強い味方に、木幕は安堵する。

 それに今回はこのガリオルこそがリーズレナ王国兵の指揮官らしく、自由に兵を動かせる権力を有していた。

 八千の兵力。

 ここまで来てくれたことに感謝しかない。


「で、俺は何処に着けばいいんだ!?」

「大体決まっているが、お主のことだ。前線が良いだろう?」

「ったりめぇよ! 勇者なんだから前に出て戦わねぇとな!」

「それでこそだ。お主はローデン要塞の面々との連合部隊として、前線に配置させ貰いたい。良いだろうか?」

「おおー、最強のローデン要塞の面々と一緒に戦えるのか! そりゃあ腕が鳴るってもんだな!」


 ガリオルは大声で高らかにそう言った。

 やはりこういう人物は前線で戦うことに生きがいを感じる。

 正義感がある彼であれば尚更だ。


 これだけやる気があってくれるのであれば、任せる方も安心できる。

 それに彼の実力は本物だ。

 あれだけの大軍勢を前にしても、ガリオルであれば問題なく足を踏み込んで敵を屠りに行くだろう。


「期待しているぞ」

「任せておけ!! じゃあ俺は準備を整える! 作戦会議はいつするんだ?」

「あとは孤高軍のライアが来れば、すぐにでも」

「分かった!」


 それを聞いて、ガリオルはすぐに準備をする為に走って行ってしまった。

 他二人も同様だ。


「ふむ、変わっていないようで何よりだな」

「も、木幕さーん!!」

「……む!?」


 入れ替わるようにして、一人の男性がこちらに走ってきた。

 彼も同様、木幕は見覚えがある。

 だがその服装は以前のものとはまったく違っていた。


 身軽な姿をしているのには変わりがないのだが、その防備は黒い鱗の鎧となっていた。

 何かの素材で作られたものなのだろう。

 腰に携えられている剣だけは昔と変わらない。

 同じ物を長く所有しているというのは、好印象が持てた。


 そんな彼だが……昔は木幕によく殴られていた人物だ。


「ロストアか!!」

「そうです! はははは! 久しぶりですねぇ!!」


 リーズレナ王国では、彼と一緒に何度か依頼をこなしたものだ。

 まさか彼もここに来ているとは思わなかった。

 あの時はまだまだ成長するだろうと考えていたのだが、それは当てっていたらしく今の彼は昔よりも強いと感じられる。


 あれから鍛錬を積んだのだろう。

 その佇まいはチンピラとはまったく違った。


「なんだ、見違えたではないか!」

「はは、実は俺……今ガリオルさんと一緒に冒険していたんです」

「ほぉ! ということは……」

「はい! 今俺は勇者一行の仲間です! めっちゃ大変でしたけどね……」

「大したものだ。うむ」


 ガリオルたちは、アベンが抜けた穴を埋めるために新しい人員を探していた時があった。

 そこで丁度見つけたのが、ロストアであったのだ。

 勿論長い間稽古をつけられることになったのだが、やはり前衛が一人と後衛が二人ではバランスが悪い。

 それにロストアは素質はあったのだ。


「俺も力になれます。あの時とは違いますよ!」

「ふふ、いい面構えだ。期待しているぞロストア。お主にも兵を任せる」

「了解です! では、俺は……」

「木幕ぅ……なにをしているぅ……」

「ああ、槙田か」

「え? あ? えぁ? はぁ?」

「んん……?」


 槙田とロストアが、顔を見合わせる。

 二人はそこで固まった。


「え? は? たた、大将?」

「ああぁ……?」


 槙田は首を傾げてロストアを睨む。

 なんで自分が他の奴らに呼ばせていた名を知っているのだろうかと、考えている様だ。

 だがこの場合……。


 彼は昔に一度、彼に会っている。

 大将と呼ばせていたことを覚えていた。

 面白い人物だなと、どうしたって頭の片隅に残っていたのだ。


 だがそれ以降、彼の姿を見たことはなかった。

 しかし勇者一行となっているということは知っていた。

 だが勇者は人気者で、一介の冒険者風情が顔を見るなどといったことは叶わず、ただ噂話のみを聞いて彼は凄い人だったのだなと、尊敬していたのだ。


 勿論、居なくなったという話も知っていた。

 死んでしまったのだろうと思っていたのだが、冒険者を続けていればそんな事はよくある話。

 残念だとは思っていたのだが……。


「え? え? なんで?」

「……んー? なんでお前ぇ、俺のことを知っているぅ……?」

「いや! いやいやいや! 一度ですけど会ったことあるじゃないですか!!」

「…………知らねえ……」

「えー……」


 会ったことは確かにあるのかもしれない。

 だが槙田からすると……。


「この世の人間の顔はぁ……覚えられねぇ……」

「それは同意だ」

「いやなんで生きてるんですか!? 大将!!」

「いろいろあったんだぁ……」

「そこが知りたいんですけど!!」


 これはもう放っておいた方が良いだろう。

 さて、そろそろライアも来る頃だ。

 これから数日の間に、最後の軍議を開始して部隊を前線へと配置させる。


 開戦の時が近い。

 木幕は降りしきる雪を見上げながら、白い息を宙に漂わせた。


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