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10.22.ウォンマッド斥候兵


 歩いてきたウォンマッドは、面白そうに笑っていた。

 それもそのはずだ。

 彼らはライルマイン要塞の決断に反対していた。

 なので孤高軍と共にどうやって脱出するかを何週間も考えていたというのに、彼らが来た瞬間その問題が解決してしまったのだから。


 これを笑わずしてどうしろというのだろうか。

 なんとなく自分の無力さが露呈した気がする。


「敵わないね、貴方たちには……」

「君がウォンマッド斥候兵の隊長かな?」

「そうだよ。ウォンマッド・エースロディア。よろしく。君は?」

「さっき口上を述べたのだけどね……。西形正和だよ」


 軽く挨拶を済ませた後、西形は彼に聞きたいことがあったので単刀直入に質問をした。


「君の行動は裏切りだよね。大丈夫なの?」

「うわぁー、凄い痛いところ突くじゃん」

「意思確認は大切な事だからね。でもまぁこちらに敵対する意思はないし、君のことをどうしようかなんて考えてもないよ。でも教えて欲しいなぁ」

「はいはい」


 ウォンマッドは小さく息を吐いた後、意志を伝える。

 これは自分だけのものではない。

 ウォンマッド斥候兵全員の意思である。


「今のこの国に、斥候兵はいらない」

「なるほど?」

「守りに徹しているこの国は、攻めてきた相手を返り討ちにするだけでいい。僕たち斥候兵は攻める時によく使われるけど、守りになると情報の伝達も遅れるし、なにより防衛戦に参加することになる。これじゃただの兵士と同じだよね」

「だがそれでも敵兵を監視する役を担うものは必要じゃないのかい?」

「それくらい僕たちじゃなくてもできるからね」


 ウォンマッド斥候兵は、ただ情報を伝えるための斥候兵ではない。

 機動力も高く、そして個々の戦闘能力も優れている、戦場の斥候兵なのだ。


「この防衛都市では、僕たちはほとんど役に立たない。もしその機会があったとしても、敵が来ていることを報告するだけに終わる。だったらより活躍できる場所に出るのがいいと考えたんだ」

「それで国に戻れなくなっても?」

「国だけじゃなくて世界の危機なんだ。帰るところがなくなった瞬間、僕たちの負けが決まるからね。ま、帰れなくなったとしても活躍すれば何処かに住まわしてもらえるでしょ」


 終始真剣な様子で話していたウォンマッドだったが、最後だけは軽い調子でおどけた。

 あとのことは何とでもなると考えている様だ。

 潔いのだか、それとも後先考えない馬鹿なのか。

 どちらにしても彼の存在はとても重要なものとなるだろう。


「じゃ、問題はないですね! よし、スゥさん。道を作りますよ! 準備ができたら隊長各位も来てくださいね」

「西形さん。私必要ありました?」

「今後貴方の力は必要だよ? 必ず協力することになるウォンマッド斥候兵の隊長との顔合わせができただけでもいいとしよう」

「まー、いっか……」


 彼らが会話をしている間にも、兵士たちは準備を着々と進めて行く。

 しかしその数が先ほどよりも多いような気がしていた。


「えーと、ライアさん。孤高軍の兵力はいかほどなもので?」

「四千となります」

「四千!? 孤児やスラムの人たちがそれだけいたんですか!?」

「はははは! んなわけないじゃないですか! 我こそは魔王軍と戦いたいって人たちも参加してくれているんですよ。実際は千六百人くらいしかいません」


 それでも十分に凄い方だと思いながら、エリーは感嘆する。

 マークディナ孤高衆は全部合わせて千四百なのだ。


 半数以上の普通の兵士が孤高軍に付いてきてくれるというのは、凄いことだ。

 それだけ孤高軍としての活動をライアが行っていたということになる。

 認識されていなければ、ここまで集まることはなかっただろう。


「ウォンマッド様ぁー!!」

「ん?」


 屋根の上を飛びながら走ってきた女性が、ざっと地面に跪く。

 金色の髪を靡かせて登場したのは、ウォンマッド斥候兵の副隊長の一人、エルマ・ティスレックだ。

 あの時葛篭にぶん殴られて入院した人物である。


 血相を変えた様子で登場した彼女を見て、ウォンマッドは眉を潜めた。

 面倒くさいこと話しが口から飛び出ることが容易に想像できたのだ。


「ライルマイン要塞の兵士がこちらに向かっております! 先ほどの声を聴いたものかと!」

「あっはぁ~……やっべ」

「急ぐぞ皆!!」


 血相を変えた様子でライアは走っていく。

 それに続いてこの情報を共有するためにウォンマッド斥候兵たちも飛び散って行った。

 これはすぐにでも出口を作っておいた方がよさそうだ。


 西形はスゥを担ぐ。

 それに気が付いたスゥはバタバタと暴れるが、そんな事は無視して西形は奇術を使う。


「御免!」

「っ! っ! っ──」

「置いてかないでぇ!!?」


 エリーはライアやウォンマッドが走って行った方向へダッシュする。

 この作戦にはスゥの力が必要不可欠だ。

 また蹴られるだろうなと思いながら、西形は最速で城壁の側へと辿り着いたのだった。


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