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10.13.ローダンの決断


 木幕の助けになると、ローダンは言って孤高軍を集め、出兵したらしい。

 恐らく彼は魔王の顔を知っているのだろう。 

 そういった魔道具があると言っていたし、服装や顔から自分と同じ侍であるということを理解したに違いない。


 だから彼は、木幕の助けになると宣言したのだ。

 そのことに気が付いていないのであれば、普通に出兵するはずである。


 しかし宣戦布告をした当日に出立したとは……。

 何も考えずに出ていったのではないとは思うが、少しだけ心配である。


「では何故お主はここに?」

「子供たちを放置して全員が行くことはできませんからね。ちなみに今、子供たちは庭の草むしりをしてもらっています。妙な気配がしたのできてみれば、いきなり槍で脅されましたけど……」

「いやいやいやいや! 隠れてこちらの様子を伺っている方が悪いでしょうに!」

「殺気は出していませんでした!」

「気配が強いんだよ!」

「なんですってぇ!?」

「止めなさいッ」


 コーンッ。

 西形の後頭部に、割っていたであろう薪が叩きつけられる。


「いでああああああ!!」

「女の子にむきになるんじゃないわよ、愚弟」

「姉上ぇ!? 薪は痛いです! 薪は!!」


 この二人はもう少し仲良くできないのだろうかと思うが、姉の水瀬がこの性格だ。

 少し難しいだろう。


 水瀬は西形を叩いた後、首根っこを持ってずるずると引きずっていく。

 それを白い目で見送った後、咳ばらいを一つして話を戻す。


「ローダンが、そう言ったのか」

「フフッ、そうですよ。あの話を聞いた上で、彼はそう言って皆を連れて行ってしまいました」

「あの阿呆め……。他の者は同意したのか?」

「そもそもあの話は誰にもしていません。ローデン要塞へ行けば貴方が必ず指揮を執ってくれると、誰もが信じているだけでしたね」

「まったく、大役を任せられたものだな……」


 一体何処まで馬鹿正直な奴らなのだろうかと、少しだけ呆れる。

 嬉しい誤算ではあるのだが……。


 兵士たちの移動には時間が掛かる。

 恐らく明日出発すればすぐにでも合流することができるだろう。

 しかしそのためにも馬車が必要だ。


「……お主は行かないのか」

「私はここを守りますので」

「……悪いが、頼みを聞いてはくれまいか」

「なんでしょう」

「馬車が欲しい。壊れてしまってな……」

「そんな事であればお安い御用ですよ。すぐに手配しますね」


 そう言って、エリーは子供たちの方へと走っていった。

 しばらく留守にする事を伝えに行ったのだろう。


 そこで木幕は周囲を見る。

 ここまでがらんとしている孤児院はやはり寂しい。

 あの時、この場にいたほとんどの者は孤高軍の一員だったようだ。


 全員が戦闘の経験がある訳でもないだろうし、未だに体が作られていない者も多かった。

 だがここにはそう言った者たちも居ない。

 彼ら全員が、この先始まるであろう戦いで木幕に貢献するため、武器を手に取って立ち上がってくれたのだ。

 であれば、応えてやらなければならないだろう。


「困った者たちだな」


 木幕は振り返り、一度全員と合流する。

 未だに頭をさすっている西形を少し面白く思いながら、今後の行動について説明した。


「今日にでも出立する。道中孤高軍と出会うはずなので、一度そこでローダンと話をしたいと思う」

「馬車は確保できたのでしょうか?」

「問題ない。エリーが準備をしてくれる。それと、そのエリーも引っ張っていく」

「え? 大丈夫なんですか?」

「恐らく引っ張って行かなければ、西行が怒るからな……」 


 西行は彼女を使って地形の把握を実際にするつもりだと思う。

 このような大戦のために弟子を取ったわけではなかっただろうが、こうして使える場面では使わなければならない。

 素晴らしい人材が戦闘に参加せずに後方でのんびりしているということを、西行は許さないだろう。


 忍びは使われるものだ。

 彼はそのことを彼女に説明していたはずである。

 であれば、ここで使ってやらなければならないだろう。


「お待たせしましたー」


 そんな話をしていると、エリーが戻ってきた。

 作戦開始だと笑顔になった女性陣が、ガッとエリーの肩を掴む。


「えっ? えっ?」

「エリーさんっていうんですね。初めまして水瀬です」

「お久しぶりです、レミです」

「あ、はぁ、どうも初めまして。レミさんはお久しぶり、です……えっと? これは……?」

「水瀬さん。見たところ西行さんから貰った武器は持ってますよ」

「では話は早いですね」


 水瀬は水を展開させる。

 そしてそれでエリーの腕をがっちりと包み込む。


「え!? え!!?」

「さぁエリーさん。ローデン要塞へ行きましょう」

「いや! 駄目ですよ! 私はここで……」

「他にもここを守る方々はいるはずですよね! そもそも力のある貴方が行かないのは、どうもいただけませんねぇ?」

「た、確かに私以外にもいますけど、ここのリーダーである私が行くのは駄目でしょう!?」

「では聞いてみましょう」

「え?」


 レミは体を横にずらして孤児院を見た。

 するとそこには、子供たちの世話をする数人の女性と男性が立っている。

 戦闘には参加しなかった者たちだ。

 エリーを手助けするために、ここに残った者たちでもある。


 その姿を見つけて、エリーはほっとする。


「ああ、よかった! 助けてくださーい!」

「総大将! 連れて行ってあげてください!」

「はぁーーーー!?」


 安堵から驚愕の表情に変わったエリーは、目を見開いて彼らを睨む。


「良いのか?」

「はい! ここは俺たちでも何とかなります。それに、師匠である西行さんがいなくなってから凹んでばっかりで、ぶっちゃけ仕事の邪魔です」

「ええーーーー!?」

「貴方のお役に立てるというのであれば、是非連れて行ってください!」

「感謝する」

「う、うそぉ! み、皆の裏切者ぉーー!」


 じたばたと暴れる彼女を見ながら、孤児院で働く彼らは笑顔で手を振っていた。

 子供たちも騒ぎを聞きつけてやって来て、同じく笑顔で手を振っている。

 なんだか面白いことになったなと笑いながら、水瀬とレミはエリーを連行したのだった。


 それを見ていた男性二人は、苦笑いを浮かべるほかなかったのだった。


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