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10.9.奇術兵


 自分を指さしてきょとんとした表情をしている辻間に、目線が集まっている。

 何故自分に聞かれているのだろうかと疑問に思っているらしい。

 しかしそれには訳がある。


 木幕以外で、一番奇術を目撃しているのは恐らく辻間だ。

 それも実際に対峙している。

 経験としては彼の方が上だろう。


「途中から相手するの面倒くさくて、一番初めに屠ったからなぁ……。使われたら終わりだって思ってた」

「で、君が対峙した奇術兵にはどんなのがいたの?」

「んーとだな、まずは槙田の兄貴みたいな炎を使う奴、水、風……。ああ、風は俺のとは違って攻撃じゃなしに移動で使われてたり、足止めに使ってたりしてたな」


 辻間が一番多く対峙したのはこの三種類だ。

 一人一人の攻撃力は自分たちに劣るものの、数人が集まっての同時詠唱では非常に強力な技を繰り出してきていたということを記憶している。

 水魔法で拘束されかけた時は本当にやばかった。


 風魔法は先ほど言った通り、攻撃にはほとんど使用されていない。

 自分の移動速度の上昇、吹き飛ばされた味方の保護などに使用されていた。

 たまに風の塊をぶつけられたりもしたが、軽い衝撃が来るくらいで怪我などは一切しなかったらしい。


「他には?」

「あー、雷みたいな奇術を使う奴がいたなぁ……。乱発はできなかったけど、攻撃速度は速かったぜ? ていうかお前らも奇術は持ってたんだろ? まずは種類探った方がいいんじゃね? 俺は鎌鼬みたいな斬れる風な」


 辻間は自分で提案して勝手に話を進める。

 だがそっちの方がいいかとも思えたので、誰もが軽く頷いて自分の奇術について説明をしていく。

 まずは正面にいた西行が口を開いた。


「僕は闇でした。あまり詳しくは説明できないのですが、半幽霊化とでも言いましょうか。壁をすり抜けたり、地面に落ちて任意の場所へ一瞬で移動することもできましたよ」

「なんだそれ羨ましい……。忍び向きの奇術じゃねぇか……」

「君のは確殺だけどね」


 闇の奇術は、誰も見たことがない。

 移動に特化しているというのであれば、奇襲や刺客を送り込むのには適しているだろう。

 この能力のことは頭に入れておいた方がよさそうだ。


 風魔法はそれなりに見たことがあるし、辻間の一件でレミがすべて見ている。

 彼が説明できないことは彼女に説明をしてもらった方が良いだろう。


 その後、今度は津之江が自分の奇術の説明をしてくれる。


「私は氷です。任意の場所に出現させることができますが、それだけですね。作り出した後は動かすことができません」

「その様な弱点があったのか」

「はい。睨み合いの時にひっそりと足元を凍らせるのが一番得意でしたねぇ~」

「卑怯な」

「勝てばいいのです」


 ふんふん、と得意げにそう言った津之江はそれで満足だそうだ。

 勝利の価値観というのはやはり人それぞれなのだろう。


「して、津之江以外に氷を使う者を見たことがある者はおるかの?」


 沖田川の言葉には、全員が首を横に振る。

 氷魔法。

 これは非常に珍しい魔法である。

 もしかすると無詠唱で魔法を発動させる者よりも数が少ない。

 それ程に貴重で発現しないものなのだ。


 ローデン要塞は元より強い冒険者、兵士が多い。

 なので特別な力を有している者も少なくはなかったため、津之江の奇術を見て騒ぐような者はあそこにいなかったのだ。

 他の国で氷魔法を使えるということが知れ渡れば、有名人となっていたかもしれない。


「分からねぇんじゃ、今は気にしなくてもいいかもな」

「んだな。ちなみにおいは不動だべ。でもちょっと特殊なんだべよ」

「どう特殊なんですか?」

「どんなに重い荷物でも無理矢理動かすことができるべ。ただの怪力とは違うんだべよ~」


 石動の不動という奇術は、確かに特殊で理解しにくい。

 怪力を有している者は、動かすことのできる重量が決まっている。

 だが石動はそれを無視することができると言えば分かりやすいだろうか。

 動かせる物であればすべて、何の抵抗もなしに動かすことができるのだ。


 これは恐らく身体能力に起因する奇術だと考えてもいいだろう。

 その為目ではよく分からないことが多い。

 辻間もそう言った人物は見たことがなかったが、恐らく気が付かないうちに兵士たちは使用していたのかもしれなかった。

 

「これも分からんの」

「某らの奇術はこの世に住む奇術兵とは一線を越える。同じような物として捉えるのは良くないやもしれぬな」

「確かにそうじゃの。儂の雷の奇術も、ライア以外には扱えそうにないものじゃ」

「爺さん雷奇術の使い手だったのかよ! 居合でただでさえ速いのに、勝てっこねぇじゃねぇか……」

「ほっほっほ」


 頭をガシガシと掻いている辻間を見て、沖田川は笑った。

 だが辻間が言ったことは誰もが思っている事であり、そりゃ勝てないわ、と心の中で呟いている。

 葛篭ですらそうだった。


「抜刀する時間もくれりゃあ(くれ)せんやもなぁ(ないかもな)。あ、わては怪力と地面を操る奇術だえ。スゥがつこーとるけぇ(使っているから)知っとっかも(知ってるかも)しりゃんせんけんど(知れないけれど)

「あれは反則ですよね」

「刀を抜かずとも勝てそうじゃしのぉ」


 やろうと思えばできることばかりである。

 地形を変えることができるということは、戦場に置いて有利に働くことがほとんどだろう。

 今回の戦ではスゥも参戦する予定だ。

 もうあの子はただの子供ではない。


 初陣には早いかもしれないが、それだけの技量を既に持っている。

 レミと一緒に行動させるのであれば、何の問題もないだろう。

 もしかすれば、今回の戦いの功績者となる可能性もある。

 それ程に獣ノ尾太刀の地形を変える能力は、戦況を大きく変えてしまう力があるのだ。


「大体出揃ったか」

「いいや、もう一人」

「む?」

「おい! いつまで死んだふりしてんだ貴様!」

「ひええええ!!」


 大声で声を掛けられた船橋は、怖がり切った様子で身を縮こませて後退した。

 完全に心を折ったなこの二人は、とその場にいた者は思っただろう。


「お前の奇術の説明をするんだよ!」

「ぼぼぼぼ、ぼく、僕の奇術は動物を従える事です! 彼らの中に眠る奇術も呼び起こすことができましたぁ!」

「他にはぁ!!」

「はいぃ!! 森の地形を把握できます! あと木があるところであれば声も届けることができます! 最後に動物と会話をすることができましたぁ!」

「多いなぁ!!!!」

「ごめんなさいぃいい!!」


 ぴゃーと言いながらまた丸くなってしまう船橋。

 完全に辻間に対して恐怖心を植え付けられてしまったらしい。

 だがよく精神があの状態を保っているものだと感心する。


 しかし、そこまで多くの奇術を有していたのには驚いた。

 フレアホークは彼女の奇術によって魔物にされてしまったのだろう。

 となればあの鹿もそうだったのだろうか?

 見た目は変わりがなかったように思えるが。


「むっ」

「あでぁ。まぁ長持った(長く持った)だっちゃな(だったな)


 木幕の体が薄れてゆく。

 今回はここまでのようだ。


「あとは儂らで会議をしておく。お主は分からない情報を集めておいてくれの」

「相分かった。では頼むぞ」

「応」


 その言葉を最後に、木幕はスゥーと消えて行ってしまった。


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