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10.5.生意気なガキ


 黒い空間では、それぞれが大いに盛り上がって木幕たちの行く末を見守っていた。

 ようやく彼らにも消えた死者たちの謎が解けってスッキリしたところで、今度は奇術を使った戦闘が始まったのだ。

 さすが槙田の炎の能力は強い。

 水瀬の能力は繊細で無駄がなく、西形は素早すぎる。

 誰も彼もが素晴らしい能力を有していたのだなと、彼らの奇術を知らなかった者たちは素晴らしいと称賛した。


 だがまさか木幕の主であった人物が次の敵になるとは誰も思わなかったことだ。

 さぞやりにくいだろうなと思いながらも、彼らの行く末を見守るのがまた楽しみになる。


 それに加え、今度は一対一などと言った戦いではなく、大合戦が始まりそうな予感がしていた。

 ローデン要塞で木幕の采配を目撃していた沖田川は、此度の戦いをどのように制するのか見物であった。


「さすが槙田の兄貴だぜ! 兄貴にかかれば、魔王なんて瞬殺よ!」

「ふん、珍しく気があったな辻間。僕も同じ考えだ」

「だよなぁ! 使う奇術が炎ってのは聞いてたけど、あそこまでのものだとは思わなかったぜ! 普通の状態でも俺たち二人に後れを取らねぇんだ! こりゃ、一人でも行けるかもしれねぇなぁ! はっはっはっは!」

「手前ら忍びではなかか(ないのか)?」


 忍びとは思えない程に大声で語り合う辻間と西行を見て、さすがに首を傾げる。

 悪いとは言わないが、どうも印象が崩れていけない。

 まぁ死んだ今は別にどうということもないのだろうが。


「んだけど、あれじゃ馬車は持たんべなぁ」

だ、だ(うん、うん)あげな(あんな)張りぼてじゃなごー(長く)もたんわえ(持たないよ)

「その辺りは何か考えがあるのじゃろ。儂らはまだ見守るだけでも良さそうじゃ」

「まだ? というと?」


 沖田川の発言に、隣にいた津之江が首を傾げる。

 まるでこれからは何か関与することがある、とでも言いたげだったのだ。


 沖田川はそれに頷くいて顎を撫でる。


「木幕は軍師に近い立ち位置にいた家臣なのじゃろう。様々な意見を取り入れ、最終的な判断を彼が下す。儂らは、その手助けができる」

「むっ! 槙田様のお力添えがここからでもできるというのですか!?」

「左様」


 それを聞いた二人は、急いで沖田川の元まで近づいて胡坐をかく。

 両手の拳を地面に付けた。


「「ご教授を!」」

「手前ら槙田んことんなっと(のことになると)よーしゃべんなぁ(よく喋るな)

「忠義を尽くすとはこのようなものじゃよ、葛篭」

わてんにゃ(俺には)分かりゃーせん(分かりません)


 やれやれと手を広げて首を軽く横に振る。

 二人は完全に沖田川の話を聞く姿勢を取っていた。

 ここまでしてくれて話さないのは野暮だろうと思い、彼も背を伸ばして手助けの意味を教えようとした。


 だがそこで、少し離れた場所がら「うぐへっ」という声が聞こえたため、会話が止まる。

 全員がその音を確認したので、音のした方向を見てみれば……船橋牡丹が受け身も取らずに地面に落ちたようで、ゴロゴロと転がって痛みに耐えていた。


「んぐぅ……!」

「馬鹿だなぁー……。あいつ名前なんだっけ」

「僕も忘れたよ。木幕殿とは相性が悪かった相手ってだけで、普通に弱そうだし。津之江さんより弱いんじゃないかな」

「それは私より貴方の方が強いという認識でいいですかね?」

「おっと、失言だったかも」


 咄嗟に口を押えた西行だったが、時すでに遅し。

 既に肩を津之江に掴まれているので逃げられそうにない。

 とはいえ今の発言は本心だ。

 負けない辻斬りより、負けられない忍びの方が強いのは普通である。


 しかし木幕たちが面白い場面に立ち会っている中で戦いたくないので、素直に謝って事なきを得た。

 津之江も約三名にコテンパンに叩きのめされているので、これ以上は強く出なかったようだ。


「おい……そこのもじゃもじゃ……! 今なんて言った……!」

「俺かな? 俺だよな」

「君以外にもじゃもじゃが何処にいるんだよ不潔め」

「そこまで言うなよ。帰ってきた槙田の兄貴に言いつけるぞ」

「すまない」

「仲が悪いのか良いのか分からんべなぁ」


 質問をしたのに答えが返ってこないことに腹が立ったのか、痛む体を起こして腰に携えてあった日本刀に手を置いた。

 どうやら怒っている様だ。

 少しばかり構ってやらなければ可哀そうかと誰もが思っていたのだが、ここに居る船橋以外の考えは実は一つだった。


(そんな事より木幕たちを見ていたい)


 男を騙る女より、今し方合流したばかりの面々を見ていた方が有意義なのだ。

 幸い今は移動中なので目を話していてもいいのだが、そもそも沖田川はまだ西行と辻間に話をしていない。

 二人は沖田川の話も聞きたかった。

 ぶっちゃけあいつ無視してもいいかなと思っているくらいだ。


「質問に答えろもじゃもじゃ!!」

「うるっせぇな!」

「ガィッ……」


 裾から出した分銅を見事顔面にぶつけた辻間は、近くにいる者たちに当たらないようにしてその分銅を手の中に納める。

 今回は回さずに普通に投擲しただけだったのだが、当たりどころが悪かった様で目を貫いて即死した。

 しかし船橋は蘇る。

 そういった場所なのだから。


 だが多少なりとも再生に時間はかかる。

 フンッと鼻を鳴らした辻間は再び沖田川に向き直った。


「続きを頼むぜ!」

「ふむ、そうじゃの。つまりは儂らが軍議を開くのじゃ」

「軍議、でございますか?」


 何食わぬ顔で話を聞いていた西行は感心したようにそう言った。

 沖田川はそれに頷く。


「そうじゃ。幸い、ここには様々な生業を極めている者がいる。その知識を使い、木幕や槙田、水瀬と西形を手助けするのじゃ。その魔王軍とやらを倒すためのな」

「はっはー、なっほどなぁ。忍びだらば(だったら)斥候兵……だったか? そいつらん動きを助けっと(助けると)

「うむ。その通りじゃ。津之江は料理、葛篭は木工加工での知識、石動は武器に関して何か口を出すと良いの。儂は研ぎ師じゃが、この長年の経験を頼りに木幕を助けよう」

「フフフッ、一番頼りになりそうですね」

「んだべなぁ」


 キィンッ!!

 ようやく全員が納得したところで、金属音が響く。

 辻間が鎌を頭の上に置いており、船橋の斬撃を防いだのだ。

 面倒くさそうに首をもたげた辻間は、舌を打つ。


「めんっどくせぇなぁ……。お前も木幕に殺されて死んだんだからいろいろ諦めろよ」

「何……?」

「お前が成しえなかった十二人の侍を殺すっていうやつだよ馬鹿。木幕はこれだけ殺してんの。くそつえー爺ちゃんとおっちゃん、ありえねぇ辻斬りに馬鹿力の鍛冶師ぜーんぶやっつけてんの。お前みたいなしょぼい型で木幕がやられっかよ馬鹿め」

「はっ! ということは貴様ら全員雑魚か!」

「あ゛あ゛ん?」


 ゴツッ。

 がばっと立ち上がった辻間は、船橋の胸ぐらを掴んで頭突きをする。

 それによって多少は痛んだが、そんな事は関係ない。

 しっかりと目を見るための行動だ。


「てめぇみたいな山を救うだとか、そんなちゃっちぃことを木幕は目指してねぇんだよ」

「どうせくだらないことだろう! 僕からしてみれば、あいつこそ邪魔者だ! 偽善でしかない! 何をするつもりなのか知らないし興味もないが、目の前で救える命があったのにそれを阻んだあいつにそれ以上の目的があるとは思えないね!」

「てめぇの目玉は二つあるのに一つのことしか見れねぇようだなぁ……」


 ぐんっと力を入れて船橋を投げ飛ばす。

 だがそれにすぐ対応して何度かのステップを踏んだ後、キッと辻間を睨んで構えた。


「ふむ、辻間に馬鹿にされてすぐに怒る……。何処かいいところの娘かのぉ? 余程自尊心が高いと見える」

知らんせん(知りません)。つか、怒鳴んないな(怒鳴るなよ)。底が知れっぞ」

「ふん! お前ら全員あいつのくだらない妄想に付き合ってわざと負けたんだろ! あんな奴がこんなに人を斬れるとは思えないね!」


 空気が変わった。

 いや、変わってしまったというのが正しいだろうか。

 船橋はこれに酷く後悔することになるが、今はそれを知る由もない。


 船橋は無意識のうちに一歩、後ろの後退していた。

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