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10.4.強行突破


 フレアホークに乗ってきた二人組は目立ちすぎた。

 それに何の躊躇いもなしに馬車を燃やしてしまったのだ。

 警戒されて当たり前である。


 逃げていた人たちがこの事を兵士に通報したのだろう。

 少し行きすぎな行動をしてしまったのだから、これは文句を言えない。

 しかしこんなところで油を売っている暇はないのも事実。

 こんな雑魚相手に時間を浪費する必要など微塵も存在しない。


 声をかけて来た兵士の後ろには十人ほどの仲間がいるようだ。

 先ほど魔王の似顔絵を渡していた人物たちだろう。

 彼らは重たそうなハルバードを手にして、こちらへ切っ先を向けている。

 その構えに詰まらなさそうにため息を吐いた槙田と水瀬は、前に出て会話を試みる。


「あー、馬車って何処でもらえるかしら?」

「武器を捨てろ!」

「馬車は何処だぁ……? くれりゃあ逃げるぅ……」

「逃がすわけがないだろうが! 早く武器を捨てて投降しろ! さもなくば力ずくで取り押さえるぞ!」

「「どうする」ぅ……?」

「某に聞くのか」


 何のために会話を試みたんだと心の中で突っ込んだが、そもそもこの二人の交渉術は皆無だ。

 期待していた方が間違いだったらしい。


「レミよ、どうする」

「魔物を連れている時点でもう言い逃れはできませんし……彼らもそれを警戒しているのでしょう。なので」


 レミは人差し指をピンと立てる。


「逃げましょ」

「「「話はまとまった!」」」

「なに?」


 声を合わせた瞬間、西形は消え、槙田と水瀬は奇術を発動させる。

 ゴウゴウと燃え盛る炎と、自在に姿を変える水。

 それらは何の躊躇いもなしに兵士たちへと襲い掛かった。


「「「うわああああ!!」」」

「「「ぎゃああああ!!」」」


 炎で焼かれ、水で流される。

 木幕の意思を完全に無視して始まった戦闘は一瞬で終了した。

 こいつらは犯罪者にでもなりたいのかと、頭を押さえて唸る。

 だがもうこうなったのであれば、さっさと逃げてローデン要塞へと出立するのがいいだろう。


 騒ぎを聞きつけたのか、方々から笛の音が鳴り響く。

 レミはこれに聞き覚えがあったので、すぐに前線で戦う二人に警告した。


「追加の兵士が四方から来ます!」

「分かったわ! 槙田さんは東と西をよろしくね!」

「指図するなぁ……! だが、相分かったぁ……!」

「ああ、もうどうにでもなれ」

「っー!?」


 遂に諦めてしまった木幕を見て、スゥが驚いてワタワタと走りまわる。

 自分はどうすればいいか分からないのだ。

 とりあえず木幕の側にいて待機することにする。


 そういえば西形は何処に行ったのだろうか。

 見渡してみるが影すら見えない。


「西形は何処に行った!」

「馬車を探してくれています! ま、今は持久戦といったところですね」

「耐久戦となりえるのか……?」

「はっはぁ……! まぁ総大将はそこで見てなぁ……!」


 槙田は次に来る兵士に備え、構えを作る。

 紅蓮焔を下段に降ろし、一つ呟く。


「奇術……獄炎ノ鬼(ごくえんのおに)


 槙田の体が燃えあがる。

 だが彼には一切のダメージはなく、赤黒い炎の外套が体を包むだけだった。

 それは意志を持った炎であり、自由自在に動かすことができる最強の盾であり、矛だ。

 地獄からの業火を顕現させた槙田の印象は、鬼と呼ぶにふさわしい姿をしている。


「不完全……だがまぁ……いいだろぅ……!」


 槙田はばっと紅蓮焔を横に薙ぐ。

 すると炎の外套が腕に集中した。

 下に振り下ろして下段の構えとなり、すぐに切り上げて向かってきた敵へ炎の壁を突撃させる。

 ダンダンダンッと地面から噴き出る炎は突っ走ってきた兵士をすべて焼き払った。


 攻撃を繰り出した後、槙田を包んでいた外套は静かに消える。

 繰り出す技で炎を消費するようだ。

 槙田が不完全といったのはこのことなのだろう。

 おそらく完全な状態となれば、無制限にあの技が連発できる。


「あら、すごい。じゃあ私も……」


 二振りの日本刀を抜刀した水瀬は、空を切る。

 そこからいくつもの雫を出現させた。


「奇術、水矢尻」


 技名を発した後、その雫は目にもとまらぬ速さで兵士たちへと飛んでいき、身に付けている鎧を無視して貫通する。

 予想以上の威力に水瀬自身驚いているようだったが、使えるということも同時に悟った。


「いいわね、これ」

「姉上ー! お待たせしましたぁー!」


 二分も経っていなかったが、西形は一つの大きな馬車を持ってきた。

 だが到着するや否や馬を繋いでいるロープを断ち切り、馬を解放する。

 その後馬車に積み込まれていたロープを槙田へと投げ渡す。


「槙田さん後はお願いします!」

「おうぅ……! 怪鳥ぉ……! 来い!」

「ギャワワッ!」

「木幕さん、レミさん、スゥさん! 乗り込んで!」


 掛け声を聞いて、全員が馬車の方へと走り出す。

 木幕たちはすぐに乗り込んだが、槙田はフレアホークの背に乗って紐を結び付けているらしい。

 出発するのにはもう少しだけ時間が掛かる。


「私が言うのもなんですけど、もう少しいい脱出方法なかったですか?」

「あら? 私はこれが最善だと思うわよ」

「僕もそう思います。この村の人には悪いけどこうなった以上、捕まった場合すぐには開放してはくれなさそうですしね」


 確かにそれはそうだ。

 フレアホークのことについても聞かれるだろうし、その場合何と説明したらいいのか分からない。

 だがせめてもう少し穏便に逃げて欲しかったものだ。


「よぉし! いいかぁ……!!」

「終わりましたか! よし、じゃあ皆さん立ち上がって掴まって!」

「え?」


 西形は馬車の中で立ち上がり、屋根を形成している骨組みをしっかりと掴んだ。

 それを見た木幕たちは、すぐに同じ様に立ち上がって骨組みを掴む。

 その瞬間、グンッと体が揺すられる。


「っ~~~~!!?」

「んっ!? ……ぐぅ!? な、なんですかこの速度はー!!」


 前方から槙田の笑い声が聞こえる。

 馬車が大きく揺れて暴れまわっていた。

 その速度は馬が全速力で走っている時のものと同じだろう。

 だがこれはフレアホークの軽いランニングに過ぎなかった。

 確かにこの揺れの中で座っているのは無理だ。

 こうして立って何かに掴まっておかなければ、どこかしらをぶつけて体を痛めることになるだろう。


 もっと速度も上げられるのだが、これ以上の速度を出すと馬車が速攻でイカれてしまう為、このまま村から遠ざかる。

 後ろを見てみると、ようやく集まり始めた兵士たちが指をさして何かを喚いていた。

 だがこちらには聞こえない。


 この速度であればマークディナ王国まですぐだろう。

 その前に一度村によって馬車を交換する作業が待っている。

 できれば長く使えるような物を見繕いたいものだが、そんな時間はないので使い捨てで使って行くことにした。


「槙田! 道は間違えるなよ!」

「分かっているぅ……! こいつに任せれば問題ないぃ……!」

「ギャワアアアア!」

「今まで木幕が辿って来た道を辿るぅ……! それでいいなぁ……!」

「それで頼む!」

「あい、分かったぁ……!」


 槙田は足を踏み込む。

 それによってフレアホークが少しだけ速度を落とす。


「そ、そういえば槙田さんってなんでフレアホークを手なずけたんですか?」

「面白い話だよ? 同じ炎を使うのが気に食わなくって最大火力で炎をあいつに当てたんだ。そしたら落ちてきて、日本刀の峰で叩いたり拳で殴り飛ばしてたら言うことを聞くようになったんだよ」

「えぇ……」

「ね、笑っちゃうよね」


 いや全然笑えない。

 やっぱりこの人たちは凄いけど、どこか変なんだなぁということを再確認したレミだった。


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