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9.16.隠れ狼


 魔法袋から服を取り出して着替えを行う。

 木幕はようやく終わったとため息をついた。


 周囲を見てみればなんだか山が少しだけ明るくなったように感じる。

 槙田は閉ざしていると言っていたので、ヌシが居なくなったことによって山が開かれたのだろう。

 あとは下山だ。

 太陽の位置を見て方角を確認し、レミの持っていた地図を見て行先を決定する。


「っ~」


 その間にスゥは獣ノ尾太刀を使って船橋の死体を地面へと埋めていく。

 埋め終わったところでスゥはこちらへと走ってきた。


「お疲れ、スゥちゃん」

「っ!」

「そういえばフレアホークはどうなったの?」

「っ」


 レミの質問に対し、スゥが指をさして空を見上げる。

 するとそこにはどこかへ飛び去って行くフレアホークの姿が見て取れた。

 どうやら本格的に住む場所を変えるようだ。


 元より船橋の奇術によって協力をお願いされていたのだが、彼女が死んだことによってここに居る意味がなくなり、もっと豊かな場所へと移動をした。

 フレアホーク程の大きさを持つ魔物であれば、ここでは生活することもできないだろう。


 しかし船橋の動物を魔物に変えてしまう奇術には驚いた。

 あれがなければもっと早く終わっていたのだが……やはり厄介な存在であった。


「では行くとするか」


 もうここに居る必要性は一切ない。

 あとはグラルドラ王国へ向かって行けば問題ないはずである。


 ここからもまた歩くのかと、レミとスゥは少し肩を落とした。

 長い旅は暫く終わりそうにないなと思いながら、木幕の歩く道を同じ様に着いていった。


「あ、待て」

「え? どうしたんですか?」

「刀を折るのを忘れていた」


 久しくその様なことをしていなかったので、すっかり頭から抜け落ちていた。

 刀はスゥが骸と共に地面の中に埋めてしまったはずだ。


「スゥよ、刀だけを取り出せるか?」

「っ!」


 自信満々に頷いたスゥは、すぐに船橋の持っていた刀を取り出す。

 木幕はそれを手に持って抜刀した。

 この刀には鍔元に銘が刻まれており、『透泉雲海(とうせんうんかい)』とある。

 刀を打った鍛冶師は一体どのような願いを込めたのか、よく分からなかった。


 だがやることは変わらない。

 近場の大きな岩の前に立ち、構える。

 大きく振り上げて叩き折ろうとした瞬間、強い衝撃が横から襲ってきた。


「師匠!?」

「っ!」

「何事だ!」


 倒れてしまった木幕は、すぐに刀を構えようとするが何かに押さえつけられていた。

 一体何だと思って見てみれば、そこには二匹の狼がいて、その内の一匹が木幕の持っている透泉雲海を咥えて一生懸命奪い盗ろうとしている。

 もう一頭は鞘を持って距離を取っていた。


「ァルルルルッ……」

「……」


 木幕は手に持っていた透泉雲海を手放す。

 すると狼はそれを持って距離を取り、器用に相方の狼が持っていた鞘に納刀した。

 狼は暫く三人を見つめていたが、一つ遠吠えをすると何処かへと消え去ってしまう。

 透泉雲海を持ったまま。


「……何だったんだ」

「さ、さっきのってツイーワルフじゃないですか?」

「なんだそれは」

「人並みに知能の高い狼のことです。(つがい)で常に行動する狼で……一匹がやられてしまうと残った一匹が魔物になる……呪われた狼ですね」

「恐ろしいな」


 敵対しなければ問題ない動物だ。

 なので木幕が透泉雲海を手放したのはある意味利口な判断とも言えるだろう。

 だがそもそもツイーワルフがこのように人前に姿を出すことは滅多にない。

 加えて何故船橋の透泉雲海を持っていったのかが分からなかった。


 この辺はまたあの空間に行った時に船橋に聞いてみることにしよう。

 何をされるか分かったものではないが。


 木幕は立ち上がり、付着した土を手で払う。

 本当であれば折りたかったが、なくなってしまったものは仕方がないので諦めることにする。


「……これで十人目か」

「あともう少しですね。でも……」

「ああ。確証がないのが現実だ」


 十二人の侍を斬ったとして、あの神とまた巡り合えるかどうかは分からない。

 その記述も木幕では確かめることができないし、そもそも協力してくれる者などほとんどいないはずだ。

 この辺は今も尚行き詰っている。


 だが何とかなるという確信が、何故か木幕の中にあった。

 それがどうしてなのかは分からない。

 説明はできないが、自信はあるのだ。


 これは説明しようにも説明できないので、レミたちには黙っておく。

 それにあともう少しだ。

 まずは十二人の侍を倒さなければ、何も始まらないだろう。


「ま、行くか。いつものように」

「それもそうですね」


 三人は頷き合い、旅路を急いだ。

 これからは少し長い道のりになる。

 少しばかりの覚悟が、約二名には必要となるのだった。

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