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9.9.刺客


 山は相変わらず静かだが、先ほどの声を聞いて警戒心が一気に上がった。

 小さな物音だけでも反応するようになってしまう。

 だがそれはレミだけだ。


 元より山に慣れている木幕と、索敵能力のあるスゥはそこまで敏感に反応はしない。

 いちいち反応していては疲れてしまうと思ったので、木幕はレミに声を掛ける。


「そこまで警戒するのではない」

「いやだって……怖いじゃないですかぁ……」

「何か来ればスゥが教えてくれる。気を張りっぱなしだといざという時に不意を突かれるぞ」

「む、むぅ~……」


 確かにそうなのだが、やはり自分も少しは身構えておきたい。

 いくらスゥに任せられるとはいえ、こっちは薙刀を取り出すのに少し時間を要するのだ。

 そうであれば常備しておけばいい話なのだが、あれをこの森の中で持ち歩くのはレミにはできそうになかった。


 二人についていくだけで精一杯なのだ。

 邪魔になる未来しか見えない。


 あれから少し歩いてきてはいるが、何かを仕掛けてくるという気配は感じられなかった。

 山頂に近づくにつれて山は何処か活気を取り戻しているような気もしたが、それは少しだけだ。

 パッと見では分からないのだが、雰囲気がなんだか寂しかった。


「本当にヌシはこの山を元に戻せると思っているのだろうか」

「戻せないんですか? なんか奇術とか言ってましたし……できそうな気はしますけど」

「某らの奇術は攻撃力が高いものがほとんどだ。山を回復させるような奇術は所持してはいないだろう」

「あー、そうか……」


 木幕は葉を操る奇術を使用する。

 一つ一つが鋭い刃となり、敵を切り裂く。

 葉が多ければ多い程その攻撃範囲と威力は上がる。

 この世界にはない一つだけの魔法なのだ。


 槙田は広範囲の炎魔法を得意とし、西形は見えない速度で突っ込む光魔法。

 水瀬は大量の水を操ることのできる水魔法。

 沖田川は神速の雷魔法で、津之江は氷魔法……。

 今まで出会ってきた誰もが強力な魔法を所持している猛者であった。


 木幕の言う通り、あのヌシが優し気な魔法を持っているとは考えにくい。

 それに先ほど声を届けたのも奇術によるものだろう。

 あんなものは聞いたことすらないので、未知の魔法だと断言していい。

 辻間の時のように予想もつかない魔法を使っているのかもしれない。


「っ?」

「来たな……。どうする? またお主らがやってみるか?」

「っ!」

「え、ちょっとまって……」


 一拍遅れてレミが薙刀を取り出した。

 その間にスゥは既に戦闘態勢を整える。

 だが準備が完了した後のレミは強いので、今後は戦闘に入るまでの時間を削っていく修行をしておいた方がよさそうだと木幕は考える。


 木幕は一歩下がって二人の様子を見ることにした。

 少し足場が悪いが、戦えない事はないだろう。

 スゥは木の枝を掴んでぶら下がり、レミは片足を木の根に引っ掛けてバランスを取っている。

 あとは敵が来てから考えればいい。


 何が来るのかと身構えていると、山の奥から三匹の鹿が現れた。

 動物だけで自分たちを何とかしようと思っているのだろうかと首を傾げるが、ヌシなりの考えがあるのかもしれない。


 三匹の鹿は、一定の距離を保ってこちらを見ているだけだ。

 特に何かをしようとしている風には見えない。


「……あれですよね? ヌシが送ってきた……敵? っていうのは」

「恐らくそうだろう。だが妙だな……」


 鹿らしいとはいえばそうなのだが、彼らは自分から姿を現すことはない。

 だが警戒しておくに越したことはないだろう。


 しばらくの睨み合いの後、ようやく一匹の男鹿が動き出す。

 二本の角の間に、緑色の球体が出現する。


「へぁ!?」

「っ!?」


 ズドンッ!

 集めた空気を一気に射出させた。

 その空気の弾丸は大きく、一本の木に当たって幹が弾け飛ぶ。

 バキバキという音を立てながら倒れていく木を見ながら、三人は一気に身構えた。


「どういうことだレミ! 獣が奇術を使うとは!」

「わ、わかりませんよ! とにかく一回逃げてください!」

「っ~~!!」


 その会話の最中にも、三匹の鹿から魔法が撃ち放たれる。

 地面に当たれば土が捲れ、木に当たれば幹と皮がはじけ飛んで木が倒れた。

 地の利もあちらにあるし、遠距離攻撃ということでこちらからはなかなか手を出すことができない。

 それに相手は鹿だ。

 山で生活をしているし、山を素早く歩くのに特化した姿をしている。


 逃げたところで追いつかれるが、今は戦いやすい場所に誘導するほかない。

 そう思ったレミは飛び降りるようにて山を下りていく。

 スゥもそれに続いたが、木幕はそこで鯉口を切った。


「相手が奇術を使うのであれば、某も容赦はせぬ」


 鹿の近くにあった落ち葉を操る。

 すぐに大量の葉が鹿たちの周囲を舞い、一つの葉が首元を狙ってその肉を切り裂いた。


「ギュイッ……」


 その後すぐに他二匹にも攻撃を繰り出す。

 ドサリと倒れたことを確認した木幕は、葉隠丸を納刀する。

 やれやれといった様子で小刀を取り出し、鹿の解体を行っていく。


「二人とも、手伝うのだ」

「……私たちも遠距離攻撃欲しいね」

「っ?」

「あ、スゥちゃんはあるのか……」


 持っていないのは自分だけかと、レミはちょっとがっかりした。

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