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9.5.夢の中の死者


 暗い空間に、ドサリと二人の人物が落下してくる。

 奇妙な空間だが、しっかりと足はつくし声も聞こえる。

 だが隣から聞こえてくる声は忌々しいものだった。


「「何故貴様がここに居る!」」


 西行桜と辻間鋭次郎は再び己の武器を構えた。

 そしてすぐに飛び掛かり、また鍔迫り合いの状況になる。


 ギチギチと力と力の勝負が始まるが、彼ら二人はやけに楽しそうにまた相手を煽り始めた。


「死にぞこないか君は! いいだろう、今度こそ僕の手で黄泉へと送ってやる!」

「へっ! よく言うぜ病人が! 俺が何もしなくてもお前はあの世に行きそうだなぁ?」

「そんな僕に負ける君はたかが知れていると思うけどね!」

「ああ、はいはい、じゃあ今回は俺の手で潰してくれるわ!」

「やってみろ!」

「やってやらぁ!」


 すると、二人はまた喧嘩を始めることになった。

 だが戦って感じるのだが、明らかに相手が強くなっている。

 それは二人ともが感じている事だ。


 思えば西行は体がまったく苦しくない。

 今は感情のままに叫び散らして急に体を動かしたので、すぐにばてるはずだったのだが、そうはなっていなかった。

 辻間は全盛期の力を取り戻したかのような感覚だ。

 加えて器用さは健在で、火力のみが上がって相手を圧倒する。

 とはいえ西行は速すぎる。

 正確無比な攻撃に荒い攻撃を与えても簡単に往なされるだけに終わった。


 連続で金属音が鳴り響く中で、遠くに座っていた者たちが呆れたようにそちらを眺めている。

 彼らの戦いは見ていたが、あんな感情に任せた戦い方ではどちらも勝負はつかないだろう。


なんしょーっだ(何してんだ)あいつらは」

「見ての通り喧嘩じゃのぉ」

「あんな忍びいただべかね……?」


 一時期隠れ里で仕事をしたことがある石動は、彼らを見て首を傾げた。

 あんなに仲の悪い場所などあっただろうかと思ったが、戦い方は非常に忍びらしい。

 それも長に近い強さを持つ者たちだろう。


 職人組が呆れてみている中で、槙田が動き出した。

 近づけば鎖鎌の分銅に当たるかもしれないので、津之江が止めようとする。


「ちょっと槙田さん。危ないですよ」

「大丈夫だぁ……引っ込んでろぉ……」


 津之江の忠告を無視した槙田は、そのまま戦っている二人の元へと歩む。

 まだ気が付いていないらしいので、二人に強い殺気を飛ばして委縮させた。


「「!?」」


 強すぎる殺気に二人は警戒して距離を取る。

 だが、そこに居たのは二人が見覚えのある人物であり、目を見開いて驚くことになった。


 彼らの恩人、槙田正次。

 そんな彼がこの場に佇んでいたのだ。

 見間違いかと目を擦ったり頭を振ってみたりするが、相変わらずそこには槙田が立っていた。


「ま、まま、槙田の兄貴!?」

「槙田様!?」

「よぉ……。随分やんちゃしてるじゃあねぇかぁ……」


 二人はすぐに得物を仕舞い、槙田の前で跪く。

 彼はどちらにとっても恩人なのだ。

 同じ里で一緒に過ごしてきていたのだから、西行が彼を知っていても何ら不思議ではない。


 懐かしい顔ぶれに再開を嬉しく思った槙田は、二人の肩を叩いて満面の笑みを浮かべた。

 だが逆に、二人の顔は青ざめた。

 この手の位置は、マズい。


 ゴッチンッ!!

 槙田は二人の顔を両手で殴り、二人の頭を思いっきりぶつけ合わせた。


「「ぬごぉおおぉおおおお!!」」

「仲よぉーせぇって言っとるだろうぅ……。仲間同士で喧嘩なんぞぉ……言語道断……」

「い、いや槙田の兄貴! これには深い! 深いわけがあって!」

「知らぬぅ……」


 すらぁーっと抜かれたその刀身には、明らかな殺意が見て取れた。


 槙田は自分がないがしろにされている存在だということを知っていた。

 城主やその他家臣からの扱いは酷いものだったからだ。

 故に、自分の部下にはあのようになるなと何度も何度も説明をし、心優しく持てと槙田は口癖のように言いつけていた。

 勿論その傘下につく忍び衆にもだ。


 仲違いは裏切りの始まり。

 槙田はそれを許せなかったのだ。


「まき、槙田様! 今回は辻間の言う通り深いわけがあるのです! 僕たちは長を決めるために戦うことを強要されたのですよ!」

「でぇ……?」

「え、でっ……と言われましても……」

「お前らは死んだぁ……。死して尚そんな決まりごとのために刃を抜くかぁ……? お前らぁ……私情で今立ち合ったろうガァ……」

「え、あっ。いやそ……そのですね……」

「問答ぅ……無用ぉ……」


 この空間はいいものだ。

 斬っても死なないのだから。


「「ぎゃああああ!!」」



 ◆



「……おい、これはどうなっているのだ」

「お、木幕かぁ。なんだー新しいんが来たんはええんだけど(いいけど)、槙田の奴があの二人嬲り始めた」

「はぁ……?」


 この空間に来た瞬間、血飛沫と絶叫が遠くから聞こえてきたのだ。

 引いてしまうのも仕方がないだろう。


 彼ら二人も何とかこれ以上攻撃を喰らわまいと必死になっている様だが、どうにも槙田には敵わないようでほぼ一方的にやられているのが現状だ。

 彼らの戦い方を知っているが故の強さなのだろう。


「にしても木幕さん。今回は早いですね」

「む、確かに」


 津之江が言った言葉に頷く。

 いつもは侍と会った時の後にここに来るはずなのだが……。

 やはりここはよく分からない。


「今いる場所は少し厄介そうじゃの」

「む、ああ。そうなのだ。何か神隠しについて知っているものはおらんか?」


 彼らは全員日ノ本の人間だ。

 なのでそういう話を聞いていてもおかしくはないと思う。

 一番知っていそうな槙田は今取り込み中なので、暇そうな奴らにだけ話を聞いてみる。


「儂は知らんな」

「知ってそうだんに(なのに)知らんかえ。まぁわてもよー知らん」

「おいのいたところはいい話ばかりで、あんまり悪いような話は聞かなかっただなぁ」

「私も知りませんねぇ……」


 意外とよく聞く話だろうと高をくくっていたのだが、どうやら当事者はほとんどいないらしい。

 今の状況を合致するような話がないだけかもしれないが。


「ふむ。ではあそこで暴れている奴に聞くとするか」


 そう言って、木幕は槙田の所へと歩いていった。

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