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8.39.あっさり


 あれから二日が経った。

 すぐにでも出ようとは思っていたのだが、次に向かう場所を考えるのと、そこに向かうための御者を探すのに少し手間取ったのだ。

 だがそれももう整った。


 次に向かう国はグラルドラ王国。

 大きな山脈を通って行かなければならないようだが、特に問題はないだろう。


 孤児院はこれからも孤高軍と一緒に活動をしていくようだ。

 もう木幕たちがここですることもない。

 とりあえず残っている資金を渡しておいたので、しばらくは問題ないだろう。


 その金をレミが持っていたので、すぐに渡せていなかったのだ。

 やはり少しは持っておくべきだろうかと思うが、どうせ持ってもうまく使えないことは目に見えているので、やはり彼女に持たせておく方が利口だろう。

 そんな大金を持つレミは毎日がひやひやで仕方がないのだが。


「んーと、これで今持っているのはー……。いや、孤児院に寄付しても使いきれないくらいある……」

「っ~?」

「あ、気にしなくていいよ」


 金を見てみるが、心配はしなくてもよさそうだ。

 魔法袋に仕舞う。


 既に三人は御者の馬車へと乗り込んでいる。

 あとは出発するのを待つだけだ。


「そう言えば……もういいんですか?」

「何がだ?」

「孤児院と孤高軍ですよ。ローダンさん、ずっと悩んでたみたいですけど」

「孤児院はあのままでよい。孤高軍は……あのようにあるのが、一番いいのだ。某が彼らの存在意義を曲げてしまってはいけないからな」


 ローダンはあの日から少し考えこむようになっていた。

 だがそうなるのは分かる。

 辛辣な話だったかもしれないが、自分のせいで彼らがバラバラになってしまう方が問題だ。

 であれば、自分のために何かを成してもらう必要はない。


 孤児院はもう問題はないだろう。

 なんだか騒がしくなっていたが……。


 一番面倒だったのは西行の行方だった。

 死んだとは言えるはずもなく、その辺はエリーが上手く話を合わせた様だ。

 どんな話をしたかは知らないが、誰もそれに疑いはしなかったらしい。


 それに以前彼が言っていた通り、西行はあくまでも兼任だ。

 今はエリーが一番上の立場となっている。

 なので誰もそれを不思議には思わなかった。

 信用されている証拠だ。


「ま、あいつであれば問題はないだろう」

「なんか……今回は随分あっさりしてましたね」

「後ろ髪を引かれぬのであれば、良い終わり方だ。……沖田川と津之江の時は随分ときつかったがな」

「ああ……確かに」


 ああいうのは、やりたくないものだ。

 とは言えやらなければならなかった。

 なんとも面倒くさい巡り合わせだと、今一度嘆息する。


「……こうした終わり方は、なんとも珍しい」

「忍びって、あんな人ばかりなんですか?」

「あんなのばかりだ。赤子の頃より稽古を始め、常人とは違う常識を蓄える。西行の弟子もその考えを叩き込まれているのだろう」

「そんな簡単にできますかね?」

「さてな」


 彼女の考え、価値観を変えない限り西行の発する言葉を理解するのは難しいだろう。

 どちらかといえばミュラの方が忍びとしては適任だ。

 ……何処かへ行ってから姿は見えないが。


 ガタンッと馬車が動き出した。

 どうやらもう出発するらしい。

 あまり長く滞在はしていなかったが、こんな暑い場所から逃げられるというのであれば悪いことではないだろう。


 だが残念ながら今回は火山の麓を通るらしい。

 ここよりもっと暑くなるそうだ。

 半日でそこを通り過ぎるらしいので、それさえ乗り越えれば後は涼しい風が山脈を降りてくる。


 グラルドラ王国の前に農村があるので、そこで御者が数日滞在する様だ。

 そこまでの道のりが少し長いらしいが……。


「ん~……でもなんかスッキリしませんね」

「某も同じだな。やはり自分で戦わねば……これでは掠め取ったとの変わりはない」

「せ、戦闘狂……。でもあの人たちがそれを望んだのですから、いいのでは?」

「ふむぅ……」


 それでも、木幕は納得はできていないようだ。

 これで二人の魂を確保した。

 してしまったという方が正しいだろうか?


 あと、三人なのだ。

 次の相手がどれだけ強大であろうと勝つつもりではある。

 さすがに奇術を使われるとどうなるかは分からないが、負ける予定はない。


 馬車が城門をくぐった。

 熱された風が肌を撫でる。


 腑に落ちない終わり方だったが、これで神にまた一つ近づけた。

 あの空間に行った時にでも、対峙して見せるとしよう。

 勝てるかどうか、不安でしかないが。


 遠くの火山が、また少し赤く燃えている。

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