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8.33.騒ぎ


 大通りが異常に騒がしい。

 なんだと思って外に出て確認しようと思ったところで、ローダンが走って声をかけてきた。


「総大将!」

「……なんの騒ぎだ」

「こ、この孤児院には何も関係はないことなのですが、今大通りで殺人鬼と思われる人物が暴れているそうなのです……」

「殺人鬼? 鎖鎌のか?」

「くさり……がま?」


 やはりこの世界の人間に鎖鎌の名前を言っても通じないらしい。

 まぁそれは別に問題ないとして……殺人鬼が暴れているというのはなんだか妙だ。

 この二ヶ月間逃げ回っていたのに、今更になってここまでの大立ち回りをするというのは何かしらの目的を感じさせる。

 それが何かは分からないのだが。


「そいつが片割れですね、多分……。ケホッ……」


 いつの間にか後ろにいた西行が声をかけてきた。

 特段驚くことはしなかったが、流石忍び。

 気配を消すことに慣れている様だ。


 何度か咳き込んだ後、困ったような表情をして嘆息する。


「いつこっちに来るのやら……」

「スゥさんの筆談で、総大将のお仲間が何か問題事に首を突っ込んでいるということは分かりましたが……まさかそれが殺人鬼と一緒だとは思いませんでしたよ」

「某も同じ考えだ。だが、待っていればレミはここに帰ってくる。自ずと西行の言う片割れがここに来るだろう」

「そう願いましょうか」


 スゥは言葉が喋れないし、木幕はこの世界の文字が読めないので他の者にスゥの書いた文字を読んでもらってレミの今の状況を把握することができていた。

 すぐにでも助けに行こうという話も上がったが、殺人鬼と一緒にいるということは何かしらの事件に巻き込まれた可能性が高かったので、助けに行けば殺人鬼との戦いは避けられそうにはない。

 なので一度様子を見ようということになった。

 なにせレミ本人が大丈夫だと言っていたのだ。

 ここは弟子を信じて待つことにした。


 レミであれば、簡単に他の者に引けを取らないだろう。

 恐らく任せていても問題はないはずだ。


「で、どうしましょう。外の騒ぎ……」

「見に行っても面白いことはないだろう。騒ぎが収まるのを待つ方がいい」

「ケホッ、ですね」


 今自分たちが出て行っても兵士たちの邪魔をするだけだろう。

 大きな騒ぎになっているのでそれなりの兵力はそこに投入されるだろうし、自分たちが行くまでもない。

 加えて何かしら相手に考えもありそうだからだ。

 今は彼らの都合の良い様にしておいた方がいい。


 木幕が出てきた部屋から、スゥが出てきた。

 まだ眠いのか目を擦って欠伸をしている。


「おや、スゥさん。おはようございます」

「っ……」


 手を上げて挨拶の代わりとする。

 まだ装備を整えてなかったのか、魔法袋を腰に付けながらの挨拶だ。

 だが眠くて手元が狂ったのか、それがポトリと落ちてしまった。

 中から数個の手裏剣が飛び出る。


 ゆっくりとした動作でそれを拾うスゥに、西行が話しかけた。


「す、スゥさん……? それを……何処で?」

「っ?」

「む? スゥ、それは某も初めて見る。何処でそれを手に入れたのだ?」

「っ」


 二人は魔法袋から落ちた手裏剣に目を付けた。

 明らかに見覚えのある道具がそこにあったのだ。

 気にならないという方がおかしな話である。


 スゥはそれを手に取り、刀を打つ鍛冶師の真似事をして見せた。

 西行はその動きで鍛冶師に作ってもらったということは分かったのだが、それをその鍛冶師が知っている理由が分からない。

 だが木幕はそれを見て石動から貰ったものだということが分かった。


「石動から貰ったのか」

「っ!」

「石動? それは誰でしょうか」

「この世界に連れてこられた鍛冶師だ。某らと同様にな」

「な、なるほど……。しかしその彼が忍び道具を知っているとは……。隠れ里で刀を打ってくれたことがあったのでしょうか」

「真意は分からぬ」


 スゥは二人が石動から貰った道具に興味があるのだと思って、貰ったものをすべて出してみることにした。

 苦無や撒菱、鎖や様々な形の手裏剣だ。


「お、おぉ……。ケホッ……スゥさん、見てもいいかな」

「っ!」


 一つの手裏剣を丁寧に取り上げ、それをまじまじと観察する。

 先端を触ってみれば痛みが指先から伝わった。

 鎖も頑丈で扱いやすい太さだ。

 これであれば様々な道具に使うことができるだろう。


「スゥさん、これを幾本か僕にくれませんか?」

「っ?」

「フフ、お恥ずかしながら、僕はこの世界の鍛冶師と面識がなくて……。お金もないので持ってきていた物を使いまわしていたのです。なので少し劣化が激しくて……」

「手入れを怠ったか?」

「いえ、どちらかというと刃こぼれが」

「ああ……」


 この世界の砥石は、元の世界で使っていた物とはまったく違う。

 砥石に剣を当てるのではなく、剣に砥石を当てるのだ。

 それも握り拳大の砥石でしかない。

 なので手入れをしようにもできないと言った方が良いだろう。


 木幕はスゥに向かって頷く。

 意図を読み取ったスゥは、手に持っていた道具をすべて西行に預けた。

 これ以外にもたくさん持っているのだが、その量が少し多すぎるのでこうして分けれたというのはありがたかった。

 大きな籠ごとくれた時はどうしようと思ったが、ここで少しでも減らせるのであれば好都合である。


 というわけで籠を一つ出す。

 それを西行に押し付けた。


「え……。いや、こんなには……」

「スゥ、お主どれだけ貰って来たのだ」

「っ……」


 スゥは大きな籠を指さして、反対の手で三本指を立てる。

 それを見たローダンが驚いて叫んだ。


「こ、この籠があと三つあるのですか!?」

「っ」


 流石にこれは苦笑いするしかない。

 あの鍛冶師は要らないものをすべてスゥに押し付けたのだ。

 とは言え、あのまま放置するより誰かに授けた方が利口ではある。


「……いや、やはりあり過ぎだろう……」


 遠慮というものを知らない双方に、若干呆れた木幕だった。

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