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8.25.見つからない証拠


 夜の帳が降りたマークディナ王国。

 相も変わらずこの辺りは静かである。

 最近人が死んだというのに、警戒心もクソもないこの警備体制には呆れてしまう。


「まぁ、殺したのは僕なんだけど。ケホッ……」


 西行は二日ほど早いが、あの協力者に進捗を聞きに行くことにした。

 ある程度の情報はエリーとローダンが調べてくれていたので、おおよその目星は付けている。

 恐らくだが、あの騎士団を指揮している者が怪しい。

 とは言えその証拠がない。

 ここでそれが見つかればいいとは思うのだが……あまり期待はしないでおこう。

 今回は情報が集まれば十分だ。


 三歩歩いたところで、影沼を発動させて中に入る。

 そして、あの協力者のいた部屋へと侵入した。

 だが、目的の人物はこの部屋にはまだいないらしい。


「んー、待つかな」


 行く当てもないし、探しに行くのは面倒くさい。

 ここで待っていた方が良いだろう。

 少し早く来過ぎたのかもしれないが。


 待っている間暇なので、この部屋にある物を物色してみようと思う。

 調べたことがこの部屋にあるかもしれないからだ。


 机に置いてあった資料は、協力者の仕事のようだ。

 これには興味がないので、すぐに違う資料を探す。


 秘密裏に調べているものの筈なので、こういった見つかりやすい場所にはないだろう。

 机の中、はないだろう。

 棚の中もないと思うので……。


「金庫はないかな?」


 そう思ってしばらく調べてみたが、どうやらここに金庫はないらしい。

 もしかしたら集めた情報は紙に記していないのかもしれない。

 頭で覚えていられる人間なのだろう。


 これは本格的に協力者を待った方がいい。


「……ケホッ、お……」


 この部屋に近づいてくる気配が二つ。

 影沼に入って一人になるのを待つのもいいが、今回は早く情報を共有してもらいたい。

 なので、わざと隠れることはせずにそのまま待つ。


 だがそれは忍びとしてどうなのだろうか。

 一瞬考えてみるが、やはりここは忍びらしくあるべきだと思って影沼の中へと身を潜ませた。


 それと同時に、扉が開く。

 協力者とその妻が入って来た様だ。


「……?」

「どうされたのですか?」

「いや、何でもない。今日はもう休んでいいよ。私はもう少し仕事をする」

「分かりました。おやすみなさい」


 そう言って、妻を部屋から出した。

 西行に感づいたわけではなかったのだが、動いている机の上の資料が気になったのだ。


 それを手で確認して、椅子に座る。

 誰かがここに入ってきたということだけは分かったらしい。


「素晴らしい観察眼ですね」

「っ! ……明後日では……なかったのか?」

「事情が変わりまして、少し早めに情報が欲しくなったのです」


 西行は協力者の前へと足を運ぶ。

 初めて見たその姿に目を見開いたが、すぐに平静を装って小さく息を吐く。


「今日の昼頃、騎士の者が孤児院へと足を運んで来ました。話があると言われて出てみれば、彼らは嘘の申告をして金銭をせびようとしているのではないかと難癖をつけてきたのです」

「……なるほど。横領しているのは確かのようだな……。その騎士団は何処の貴族の騎士か分かっているのか?」

「僕の弟子に調べさせたところ、クレイン・バッファスという人物の騎士だということが分かりました」

「では、私の調べていた話と合うな」


 そう言って、彼は机の引き出しを開けて、その下にあった隠し棚を開けて中から書類を取り出した。

 こういう隠し場所があるのかと、西行は少しだけ興味を持つ。

 だが今は仕事の最中だ。

 こういうのは今後に活かすことにする。


 取り出した書類を数枚並べて、西行に説明する。


「私は金の道筋を調べた。そして使い道も。まず地主。とは言っても孤児院の土地は好まれない。その土地を持っているのは大きな商会だし、ここは気にしなくてもいい。彼らも孤児院に関わる気はなさそうだった」


 横領している者が誰なのかを調べるために、協力者であるガーナ・リオットは孤児院周辺の人物から調べ上げることにした。

 孤児院の土地を持っている人物であれば、何か事情を知っているかもしれないと思って聞いてみようとしたのだが、土地を持っていたのが大きな商会で彼らは孤児院には無干渉を貫いていたので、余り有益な情報は得ることができなかった。


 次に、ガーナはもう一枚の書類を差し出す。


「次は大きく飛んで王の周辺を調べてみた。孤児院に送られる金は国王からの指示で納金されている。そしてその金を誰が準備しているかというと……君が言ったクレイン・バッファスという人物だ」


 毎月、規定額が孤児院に納金される。

 それは王が指示したものであり、その金は国民の税金の一部が利用されていた。

 準備するのは国だが、直接渡しに行くことを任されているのはバッファス家。

 これは昔から決められている事であり、それで何とか孤児院は繋いでこれていた。


「他にも調べようと思ったが、金の動きを調べるとなると私の爵位では無理だった。すまない」

「いや、それだけあれば十分です」

「だが毎月金貨十枚あれば、節約とかできなかったのか?」

「……待ってください、孤児院には金貨二枚分の銀貨しか送られていませんが?」

「なに……?」


 二人は首を傾げた。

 ガーナの調べた話は、毎月税金から金貨十枚を差し引いてそれを孤児院へと送り届けているというものだ。

 これだけあれば、数十人を養える。

 だが、実際に送られてきているのは金貨二枚分の銀貨。

 西行がエリーから聞いていた話はこれだ。

 なので随分昔からこの金額だけの振り込みになっていたらしい。


「やることが決まりました」


 西行の顔は、ガーナからは見えない。

 三尺の手拭いに顔のほとんどが覆われているからである。

 だが、彼の笑った目は実に恐ろしく、ガーナは言葉を発することはできなかった。


 まだ証拠は見つかっていない。

 なのでこれからその証拠を探しに行くことにする。


「もう会うことはないでしょう。ご協力感謝いたします」

「あ、ああ……」


 返事を聞いた後、西行は影沼に入ってその場を後にした。

 勿論……ガーナの首を落として。

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