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8.17.片割れ


「「片割れ、とは?」」


 木幕とレミが同時に言った。

 すると似たような言葉が返ってくる。


「「隠れ里の仲間の一人……辻間鋭次郎」西行桜」


 西行桜と辻間鋭次郎は、同じ隠れ里の生まれであり、幼少期から厳しい訓練を受けていた。

 できなければ待っているのは死。

 成長するにつれて過酷になる訓練ではあったが、二人はそれをすべてクリアし、次はどちらが長になるべきかという会議にも出席できるまでの実力者となった。


 だが、二人にはそれぞれ欠点があった。

 西行桜は、病弱だ。

 その天才的な技術は誰もが目を見張る物であり、一切の無駄なく任務を遂行し、必要な情報を収集するのに長けていた。

 誰もが彼の顔も知らず、名前すらも把握できていなかった程に。

 自身の存在を隠すことに特化した西行桜は、忍びの世界でも稀に見ない人物であった。

 性格に強い癖はなく、すべての物事を把握して最善の手段を取る采配。

 彼が、病弱でなければすぐにでも長となっただろう。


 そして辻間鋭次郎。

 彼も技術だけで言えば西行桜と引けは取らない。

 辻間の得意とする竜間流鎖鎌術は中距離と近距離に特化しており、更にはその武器さえあれば他の道具はいらないという長所があった。

 かさばらない武器というのはそれだけで強みとなる。

 しかし、彼の性格が問題であった。

 乱暴者、横着者、卑怯者。

 悪い印象が目立ちすぎるために、彼に里の長を任せるというのは辻間の親ですらも反対したほどだ。


 しかし、それ以上に弱い忍びが長となることで他の者たちからは反感を買う。

 この二人を見てみれば、圧倒的に長の器に相応しいのは西行桜だ。

 だが長く続かないであろう彼の命は、将来に不安を抱かせる。


 辻間鋭次郎は長としての器はない。

 しかし技量だけでのし上がってきた彼に憧れる若人衆は多くいた。

 信頼は、西行に劣らずあったのだ。


 であれば……戦わせてはどうだろうか。

 決着は相手を殺すまで。

 どちらが死んでも、どちらが長になっても、里は繁栄し続ける。

 どの様な形になるかまでは分からないが。


 決闘当日、二人は武器を構えた。

 その瞬間であった。


「「消えたのは」」


 二人は始めの合図がかかる直前、あの女神に呼ばれたのだ。

 だが一緒にではない。

 あの日から相手の姿は一度として見ていないのだ。


 なので、ここに戦うはずだった相手がいるかも分からない。

 しかし……二人は絶対にここに居るという確信があった。

 それは何故かは分からない。

 直感的なものなのか、そうあって欲しいという願望なのか。

 だがここに居るという、確信だけは確かであった。


「僕「俺はあいつを……殺さなければならない」」


 強い決意を、木幕とレミは見た。

 それに口を出すことはしない。

 彼らが自分の手で始末を付けなければならないことなのだから。


「では……某が見届け人になろう」

「ケホケホッ……。フフ、ありがたい事ですね。是非ともお願いしますよ」


 木幕の言葉に、西行は嬉しそうに頷いた。


「じゃあ私が見届けましょうか? 見届けたのも一度や二度じゃないですし」

「へぇ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。隠れてただ死ぬ定めを待つより、よっぽどいい死に場所になりそうだね。へっへっへ」


 レミの言葉に、辻間はまた不気味な笑みで答え返した。


 双方の同意により、見届け人が作られた。

 あとは彼らを探すだけである。


 しかし、問題というものはそんなに簡単に解決するわけではない。

 木幕とレミが抱えてしまっているこの難題は、すぐに二人を合流させることはしないようだ。


 孤児院の外が騒がしくなる。

 そして、孤児院に向かっている道中の三人は前方より衛兵の姿を見つけてしまった。


「なんの騒ぎだ?」

「分かりません。ケホッ、見に行きましょう」


 部屋の中にいた四人は、一度外へ出てその状況を確認しに行った。


「やっべ!!」

「うわー! なんでぇ!?」

「また孤児院から離れちゃうー!!」


 笛を鳴らしながら突っ走ってくる衛兵たちを背に、三人はまた駆けだしたのだった。


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