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8.13.欠けているミュラ


 先ほどの一件で警戒心を完全に解いてしまったレミは、辻間のことがあんまり怖くなくなっていた。

 ミーと呼ばれた女性が現れたことにより、中和されたような気がする。

 肩の力が抜けた途端、少し体が軽くなった。

 会話していただけで緊張していたようだ。


 辻間は鬱陶しそうにミーを見ているが、逆に彼女は楽しそうでゆらゆらと揺れてご機嫌だ。

 見た目は大人なのだが……行動や言動はなんだか子供じみている。

 身に着けている武器からも、沢山持っていれば持っているほどいい、という様な考えが見て取れた。

 単純……と言ってしまえばそれまでなのだが……どうにもこの二人からはこの武器がただの飾りではないということを短剣自体が教えてくれている気がする。

 根拠はまったくないのだが。


「あぁくそっ、興が削がれたぜ……」

「えへへ……」

「えーと、まずお二人はどういったご関係で?」

「お師匠様です!」

「違うわ馬鹿。勝手にこいつが付いてきてるだけだ」


 どうやら師弟関係ではないらしい。

 ミーが辻間を勝手に気に入って、師匠と呼んでいるだけなのだろう。


 辻間は軽く出会い話を語ってくれた。

 ある場所で骸漁りをしていたところ、ミーが現れてそれを手伝ってくれただけの仲であるらしい。

 それからは奪った金で服と武器を買い、あとは自由にしろと言ったが彼女は辻間に延々とついてきているようだ。


 それを疎ましく思った辻間は一度逃げて来たが、こうして掴まった。

 これは一度や二度だけではないらしい。

 それだけで彼女の追跡能力が並み外れているということは、素人目にも良く分かった。

 広いマークディナ王国の中で人一人を探すのがどれだけ大変か、想像できない人はいないだろう。


「弟子は取らないんですか?」

「取ってどうすんだよ。俺はすぐに死ぬかもしれねぇんだから意味ねえよ」

「意外と優しい……」

「そう! 師匠は優しいの!」

「どうしてそうなる……」


 辻間はぼさぼさの頭をバリバリと掻いて困ったように眉をひそめた。

 だが彼は自分が死ぬことで取った弟子が一人になるということを懸念している。

 口調や性格はこの通りだが、意外と人のことを心配できる心を持ってはいるようだ。

 根まで悪党ではないらしい。


 彼のことはなんとなく理解できた。

 次はこのミーという女性だ。


「えっと、貴方はどうして辻間さんと一緒に?」

「貴方じゃなくてミュラだよ。ミーって呼んでね!」


 どうやらミーというのは愛称だったらしい。

 まぁそれは置いておいて、話を戻してもらう。


「優しくしてくれたからかなー?」

「はぁー??」

「ほ、ほかには?」

「ん~~……わっかんない!」


 可愛げに舌を出しておどけたミュラ。

 それに呆れかえる辻間。

 どう反応すればいいのか分からないレミ。

 絶対に交えてはいけない性格同士がここに全部集合しているかのようだ。

 ……誰もツッコミを入れないから起きている現象なのかもしれない。


「見ての通り、こいつおかしいんだよ。人間性が欠けてる」

「貴方もでは?」

「会って早々にそんなこと言われるとは思わなかったなぁ、おい……。まぁそれはいい。事実だしな。でもこいつはお前が思っている以上に狂ってんだよ」

「はぁ」

「あー、まぁ聞いてもらった方がいいか」


 辻間は面倒くさそうにして、ミュラに声を掛ける。


「ミー、お前の持ってる武器を紹介してやれ」

「え、これですかぁ? これはねー……この子が人を殺す用のエディちゃん」

「えっ?」

「こっちが鎖に付けるマルム五人兄弟。この子が投擲用のマチェーとスウェイ。解体用のバラットちゃんに、脅し用のカーテちゃん! あとあと、お料理用のエズア君に、何でも用のランダーちゃん! 他にも~」


 ミュラは持っている短剣を一つ一つ指さしながら、名前とその使用用途を教えてくれた。

 確かに剣自体に名前はあったりもする。

 だがそれは名のある鍛冶師が作り上げた物がほとんどであり、量産を目的として作られた普通の武器には名前は存在しない。

 彼女も持っている武器はすべて普通の剣。

 これはミュラが勝手に名前を付けた物なのだろう。


 だがそれだけであれば、狂っているとまではいかないだろう。

 変わった人だなと普通に受け止めることができそうだ。


「こんなかんじかなぁ~。で、師匠」

「……まぁいい、なんだ?」

「この人、殺しちゃってもいいのぉ?」


 ミュラがそう言って指をさしたのは、レミだった。

 ぎょっとして距離を取り、武器を構えはしないがすぐに振れるようにして、薙刀を握る手に力を籠める。


 今の会話の中でどうしてその判断に至ったのかまったく分からない。

 冗談だろうかと思ってもみたが、彼女の顔を見る限り至極真剣だ。

 というよりも、既に獲物を狩る狩人の目をしているように思える。

 突き刺さる殺意にレミの体が無意識に反応する。

 小刻みに震える腕は、いつでも向かい討てる準備を完全に整えていた。


 そこで、辻間がミュラを小突く。


「あてっ」

「馬鹿。案内を頼むんだから駄目に決まってんだろうが。そもそもどうしてその発想に至ったんだよ」

「だってー、人っていつ死んでも同じだよ? 今死んでも後で死んでも変わらないよー」

「お前が最後を決める必要はないだろうが」

「楽しいじゃん?」


 そこまで話に付き合ってから、辻間はレミを見る。

 彼からは「ほらな? 狂ってんだろ」とでも言いたげな表情が見て取れた。


 一体どんな思考を持ち合わせれば彼女のように狂うことができるのか……。


「言いたいことは分かりました……」

「だろう? てかお前強いな。いい構えじゃないか」

「ぅえ!? そ、そうですか……?」

「あーずるーい! 師匠私も褒めて―!」

「断固拒否する。ほれレミちゃん。お前の師匠の所に案内してくれ」

「……まぁ、分かりました」


 若干の不安は残るが、まぁ大丈夫だろう思って二人を孤児院へと案内することにしたレミであった。


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