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8.12.やばい人


 マークディナ王国は広大であり、宿も多くある。

 それ故にギルド付近の宿もまだまだ空き部屋があるといったくらいだ。

 しかし木幕は賑やかな場所を好まない。

 なので少し離れた場所を探してみると、やはり見つかった。


 人は多いのだが、向こうの大通りよりはマシだろう。

 簡単に受付を済ませ、二つの部屋を予約してからまた外に出る。

 これで木幕の待っている孤児院へと向って合流する算段だ。


 だが少し離れてしまった。

 ギルドを目印に道を覚えているので、ギルドに帰れば同じところに戻ってくる事は可能だろう。


 宿から出る前にもう一度孤児院の場所を聞いているので、迷子にはならないはずだ。

 やることも終わったので、孤児院へと向かうことにしたレミは通りを歩いていった。


 ちなみに、今は薙刀を担いでいる。

 赤の装飾が濃く、重い方だ。

 なんだか最近、武器を手に持っていないと落ち着かないようになった。

 長い間共にしているので、愛着が湧いているというのもあるのではあるが。


 それに、こうして武器を持っていれば冒険者であると一目で分かってくれる。

 これは意外と重要な事であり、変なのに絡まれることも少なくなるのだ。


 こうして武器を持ってからだろうか。

 ナンパが少なくなったのは。


「お? おい、姉ちゃん」


 少なくなるだけでなくなったわけではない。

 またか、とため息をついて声をかけてきた人物を見てみることにする。


 そこに居たのは、腰に数多くの短剣を装備している男性だった。

 七分丈で整えられた袖から見える腕には、綿の入ったような布が腕に巻き付けられている。


 何日も洗っていないようなぼさぼさの痛んだ髪の毛。

 それを後ろで一つに束ねて投げ出していた。

 酷く目つきの悪いこの男性は、にへらと笑ってこちらを見ている。

 だが笑うことによって更に不気味さが増長されているような気がした。


 そして、彼の着ている服には見覚えがある。

 木幕の様な綺麗な服ではないが、それに近い作りをしているのだ。

 加えて彼の顔立ちは、この世界の者とはまったく違う。


 レミは顔を見て一瞬で転移者であると理解した。

 不気味に笑う男はレミがこちらを向いた事に満足し、なんだか可笑しそうに笑って腰を曲げる。

 彼は頭だけをこちらに向け、下から覗き見る体勢を作った。

 ギョロッと動いた眼球が、レミの持っている薙刀へと向けられる。


「それ、薙刀だよなぁ。ヘヘッ、なかなか粋な姿してんじゃねぇか。誰から教わったんだぁ?」

「……貴方は?」

「俺か? 俺は辻間鋭次郎。ひょんなことからここに足を運んだ人間だよ。で、姉ちゃんは?」

「レミです」

「レミちゃんね。で、誰から教わったんだ? その薙刀術と刀術。あんた二つの武術を嗜んでただろ。でもどっかで薙刀に変えた感じか……?」


 レミの顔と薙刀を交互に見ながら、辻間は独り言を言い続ける。

 見ただけでどうして分かるのか疑問ではあったが、今はそんなことより彼を木幕に会わせていいかどうかを考えていた。


 持っている武器は聞いていたものとは違うが、侍がここに居るのだ。

 みすみす逃がすようなことをしてはならないだろう。


 だが……彼があの殺人鬼とは到底思えなかった。

 持っているのは短剣のみ。

 こんな武器でどうやってあれだけの惨劇を作り出したのだろうか。

 短い剣ではあれだけのことをやってのけることはできないはずである。


 であれば、魔法だろうか。

 木幕たち侍は、一人一人が強すぎると言っていい程の魔法を持っている。

 とは言っても、それは武器に宿っているものだ。

 彼らに魔法を自由に扱えるだけの知識や経験はない。


「んあ? 何考えてんだ?」

「い、いや別に……」

「まぁいいや。で? どうなんだ? そろそろ答えてくれよ」

「剣術は……師匠に。薙刀は津之江さんに教えてもらいました」

「ほぉん。じゃ、その師匠ってのは生きてんだな? なぁそうだろ?」


 本当にどうしてそこまで分かるのか疑問が尽きない。

 この短い会話の中で何を基準にそれを判断したのだろうか。

 辻間鋭次郎。

 彼という存在が、見た目だけではなく内面からも恐ろしいと感じてしまう。


 それに……彼は非常に好戦的であるように見て取れた。

 神から言われていることを躊躇なくこなそうとしている。

 彼には何か強い目的があるかもしれない。


 辻間はレミが自分のことを不気味がっていると感じ取ったのか、くつくつと笑ってようやく姿勢を正した。

 両手を広げておどけ、軽いステップを踏みながら左右にふらふらと揺れる。


「へっへっへ、まぁまぁ怖がるなや。あんたの師匠も俺と戦いたいんだろう?」

「……まぁ、そうですね」

「じゃあ案内してくれよ。……頼む早く案内してくれ……」

「え?」


 先ほどの人を小ばかにしたような口調から一転、懇願するように顔を近づけてきて小声でそう言ってきた。

 態度の変わりように目をパチクリさせていると、彼の後ろから誰かが走ってきているということに気が付いた。

 見てみれば、新しい服を着飾った若い女性であるということが分かる。


 茶色の髪は長く、毛先はすべてがピンッと跳ねていた。

 彼女は辻間と同じ様に短剣を服のあちらこちらに付け回しているようで、歩くたびにカチャカチャと音を鳴らしている。

 ベルトで固定しているので、体の何処かに付けているといった表現の方が正しいかもしれない。


 彼女は辻間をガシッと掴むと、体を寄せてぐりぐりと頭を押し付ける。


「やーめっろこのくそ女! 短剣が当たっていてぇんだよ!」

「私はミーですよぉー! 私を置いて行った罰ですよー!」

「何が罰だ! ええい、離れろ!」


 無理矢理彼女を剥がした辻間は、大きく息を吐いた。

 一方彼女はというと、辻間と離れても近くにいるので満足している様子だ。

 ニコニコとして体を揺らしている。


 辻間、そしてミーと自分から名乗っていた女性。

 二人を見たレミの率直な感想は……。


「ヤバイこの人たち」


 以上である。

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