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6.7.入国


 大きな砦が目の前に鎮座している。

 その入り口からは長蛇の列が続いていた。

 殺人鬼、そして暗殺者の噂が絶えないというこのマークディナ王国はそれでも入国手続きを待つ商人や旅人などが多いらしい。

 それだけ豊かということなのだろうか。


 待ち時間も長いので、商人は既に軽い商売を始めていた。

 ここでの情報収集は意外と役に立つことが多い。

 その中でももっぱら話題を呼んでいるのは、やはり殺人鬼と暗殺者の噂についてだ。


 殺人鬼も結局自分たちから害をなさなければ襲ってくるということはない、という噂が流れ始めているらしい。

 そんな優しいものなのだろうかと、手続きを待つ人々は首を傾げる。

 だがそこで緩衝材となっているのは暗殺者だった。

 悪い貴族や犯罪を繰り返す人物を秘密裏に始末してくれている人物。

 国民たちの間ではちょっとした英雄となっているのだとか。

 それにより助けられている人々が多いのだろう。


 そういえば、殺人鬼の容姿をまだ聞いていない。

 その辺で噂をしている人物が目に留まった木幕は、動かない馬車を降りてそちらへと近づいていく。


「少しいいだろうか?」

「お? 変わった服を着てるね」

「趣味だ」


 またこれかと、心の中で嘆息したがなんだかこれも慣れてきた。

 気を取り直して殺人鬼のことについて聞いてみることにする。

 話をしていた二人は商人だったらしい。

 だが景気よくその話を木幕に教えてくれた。


「殺人鬼について教えてくれないだろうか?」

「ああ、いいよ。なんでも変わった武器を使うらしい? それだけで殺人鬼だって分かっちゃうんだってさ」

「む? では顔は分からぬのか」

「うん。だって、顔見て帰って来た兵士いないんだもん。唯一の手掛かりは、酒場で争った時の証言だけ。武器が特殊すぎたから、それだけで十分殺人鬼を探す当てにはなってるらしいよ」


 そんなに変わった武器なのか。

 だとすれば彼らもその武器のことを知っているかもしれない。


 そう思って聞いてみると、案の定知っていた。

 だがこの世界でその武器は珍しいらしく、そんなのでどうやって戦っているのか想像できないらしい。

 兎にも角にも、その武器の特徴を教えてもらった。


「えーと、農作業で使う鎌があるだろう? それの持ち手に長い鎖が付いてて」

「……む?」

「鎖の先端には重りみたいな鉄の塊が付いてるんだってさ。大きさはこれくらい」


 そう言って、商人は親指と人差し指でその鉄の大きさを示してくれた。

 三寸ほどの大きさだ。

 鎖はもっと長く、二間程はあるのではないだろうか。


「……」

「まぁそんなところかな? お役に立てたかい?」

「十分だ。礼を言う」

「っつても、これの話はマークディナ王国でも話題になってるし、お金取る程じゃないなぁ~」

「取るつもりだったのか?」

「商売ってそういうものだよお兄さん」


 そう言って、商人は笑って軽くおどけた。

 そういえば前にもそんなことがあったなと思い出しながら、気を付けようと言ってその場を離れる。


 馬車に戻って座り、顎に手を添えて考える。

 見つけた、というよりやはりか、と言った感じだ。

 殺人鬼の使っている武器は鎖鎌……。

 日ノ本で農民が武器として考案したものだ。

 この世界にない武器ということであれば、今回の殺人鬼は……木幕が狙う標的である。


 今回は無駄なことを考えずに楽に戦えそうだ。


 ……だがその鎖鎌でどうしてあの兵士をあそこまで細切れにすることができるのだろうか?

 やはり奇術か何かの類、と考えるのが妥当だろう。


「あ、師匠。どうでした?」

「残念な知らせだ」

「え?」

「殺人鬼こそ、標的だ」

「ええー……。ま、マジですか……」


 心底嫌そうな顔をしながら、レミはそう言った。

 得体の知れない奇術。

 西形のように好んで奇術を使う場合、こちらの勝ち目はほとんどと言ってないかもしれないというのがレミの感想だ。

 できれば普通に戦いたくないし、会いたくもない人物である。


 どういった思考回路を持って、殺人鬼は人を殺しているのだろうか。

 西形とはまた違ったものであればいいのだが……。

 と言っても普通の人間に彼らの気持ちなど分かるはずもない。

 レミもそのうちの一人である。


「厄介な敵ということは分かりましたけど……まだここに居るんですかね?」

「いるな。どうやら武器が特殊故に、それを殺人鬼として探す手掛かりになっているらしい。鎖鎌というものを知っているか?」

「な、なんですかそれ」

「鎌に鎖を付け、その鎖に分銅といった鉄の塊を付けている武器のことだ。農民が作り出した武器だな」


 姿形は知っている。

 だが、その戦い方は見た事すらない。

 初めて戦うその相手に、木幕はまた手に力が入るのを感じた。

 相当な使い手であれば、中距離からの攻撃により牽制され、手を出すことができないだろう。


 しかしあの武器は逆に接近されると弱い、と思う。

 加えて狭い場所で戦えばそれなりに優位になれるはずである。

 そうでない場合詰みかもしれないが。


「てことは……あの死体は魔法で?」

「可能性は高い。だがその能力は未だ分からん」

「ん~……。槙田さんは炎、水瀬さんは水、西形さんが光で……津之江さんが氷……」

「沖田川が雷、葛篭が土と馬鹿力。石動は不動だった」

「ってなるとなんでしょうねー……。他の属性でも、あんなことできるやつなんてないですよ普通……」


 あの光景を思い出して、レミは口を軽く押える。

 気を抜けば普通に吐いてしまいそうだ。

 あそこまでの惨たらしい現場は、この世界もそうそう見ることができない。

 

 いくら暗殺者だといっても、勝てるか分からない技量の持ち主だ。

 不意打ちを狙えばその限りではないかもしれないが、兵士を何度も返り討ちにしている人物。

 そうそう簡単に隙を見せてくれはしないだろう。


「む、やっと動いたか……」


 ようやく列が動き始めた。

 日が暮れるまでには入れそうだと、御者含め全員がほっと息を突く。

 あとは今まで通り、宿を見つけなければならないなと思いながら、馬車が門をくぐるのを待った。


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