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8.4.噂


 御者は噂を知らない三人に、少し怖がらせるようにして話始める。


「なんでも、最近のマークディナ王国はちょっと荒れてるって話さ。その理由は二つ」

「二つもあるのか」

「おうよ。まず一つ目なんだけど、なんでも殺人鬼が周辺に住み着いてるとか」

「殺人鬼?」

「そう、殺人鬼。見つけられることには見つけられるらしいんだが、どう頑張ってもそいつを逮捕できないって話だ。今騎士団が血相変えて仕事してる」


 その事件が起こったのは、数ヵ月前のことだと言う。

 初めは些細な喧嘩からだったらしい。

 酒場で酒を飲んでいた時らしいのだが、そういう場所での喧嘩など日常茶飯事だ。

 だがその犯人は喧嘩相手を簡単に斬り伏せてしまったとの事。


 それが問題となってすぐに兵士たちが走ってきたのだが、捕まえようとした彼らもその犯人に殺されてしまったらしい。


「完全武装の兵士数名を一人で倒してしまうってんだから、そりゃ大層強い奴なんだろうよ。それがここ二ヶ月続いてるって話だ」

「マークディナ王国の兵士って弱いんですか……?」

「大きい国だからそんなことはないと思うけどねぇ」


 だが二ヶ月も逃げられ続け、更にはそこに滞在されているというのであれば、随分と舐められているような気がする。

 殺人鬼をそれだけの期間野放しにしているのであれば、国民の不安もどんどん募って行くことだろう。


 これは向こうで何か騒動がある気配しかないなと思いながら、レミは魔法袋から取り出した水袋を取り出して水を飲む。


「二ヶ月かぁ~……。その殺人鬼、他の所に行こうとか思わないんですかね」

「伝手がないのかもしれないね。でもね、そいつは襲ってきた奴しか殺さないらしいよ? 変なところ良心的だよね」

「殺人鬼に良心もクソもないと思うんですけど……」

「確かに!」


 御者は笑いながら水を飲む。

 一体どんな奴なのかと木幕は気になったが、それをこの御者は知らないようだった。

 ただ話にしか聞いていないのだから、それも仕方がないだろう。


 だが、強いものと出会えるという楽しみができた。

 一度相対してみたいものだと、木幕は考える。

 この世界の人間とのまともな戦闘は、バネップ以外としていないのだ。

 いや、そういえば勇者一行のガリオルもいた。

 懐かしい名前を思い出したが、彼らは今どうしているだろうか?

 元気でやってくれているのであればいいのだがと、木幕は少しだけ心配する。


 久しぶりに会ってみたいものだ。

 ガリオルたちは偽勇者アベンがいなくなってからどうしているのだろう?

 彼であれば何とかまとめ上げれているとは思うが。


 さて、そこでレミがもう一つの噂を聞こうと身を乗り出した。


「で、もう一つの噂ってなんです?」

「暗殺者だよ。なーんの証拠も残さずに貴族たちを殺しまわってるっていう」

「黒い梟じゃないんですか?」

「あんな有名な暗殺集団、暗殺者とは言えないよねぇ」

「あぁ~そう言われれば確かに」

「でもね、そいつは一切の証拠を残さないんだ。残されてるのは殺されてる人間だけ」


 もう一つの噂は、国の中での事件だ。

 一つの国で殺人鬼と暗殺者がいる。

 そんな話を聞いて好んでマークディナ王国に行こうとする者はほとんどいないだろう。


 だが面白いことに、殺人鬼は恐れられているが暗殺者はあまり怖がられていないようだ。

 それがどうしてかというと……暗殺者は腐りきった人物のみを切り伏せているからだという。

 やれ貴族だとか、やれ犯罪者だとか……。

 何かしら国に悪影響をもたらす人物のみを好んで切り伏せているのだという。


 だが罪は罪として、その人物も捜索がされている。

 国の中ではその暗殺者が殺人鬼を殺してくれるのではないかと、淡い期待をしている者たちもいる程だ。

 そんなものに頼ろうとする程、今から行くマークディナ王国の戦力は期待されていないらしい。


 面白い話もあったものだと、隣で聞いていた木幕は鼻で笑った。

 だが彼らはあまりその噂を恐ろしくは思っていない。

 そんな事より、木幕はマークディナ王国に侍がいるかどうか気になるところだ。

 今回はいないかもしれないが……それであればその殺人鬼とやらをとっちめてみよう。


 それで自らを鍛えられればそれでいい。

 一つの国を移動するだけで現れていた今までが異常なのだ。

 たまにははずれがあってもいいだろう。


「あとどれくらいでつきますー?」

「まだまだだねぇ。この森抜けないと街道に出ないから、今日も野宿だね」

「夜は涼しいですか?」

「めっちゃ暑いよ」

「いやだなぁ~……」


 夜も暑いと聞いて、大きく嘆息するレミ。

 昼夜問わず暑いのはさすがに堪えるかもしれないが、まぁ何とかなるだろう。


 暑い空気が、馬車の中を通り抜けた。


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