8.3.マークディナ王国付近
灼熱とまではいかないが、それでもこの世界の夏は暑い。
カンカンと照り付ける太陽が地面を焦がす。
吹いてくる風も生ぬるく、馬たちも与えられた水をすぐに飲みつくしてしまっていた。
森の中というのが幸いだろうか。
木々が太陽の光を遮って、気持ちのいい風を届けてくれる。
近くには川があり、スゥはそこに足を付けてパシャパシャと水を弾かせていた。
川の水は冷たくて気持ちが良いのか、スゥはそこから動こうとはしていない。
レミはというと、木陰で伸びていた。
さすがにこの暑さは堪えたのだろう。
かくいう木幕もこれだけの暑さを耐え凌ぐのは苦手だ。
薄い着物を着て、それをはためかせては風を中へと送り込む。
「暑いー……。どうしてこの辺はこんなに暑いんですかー?」
「そりゃ、火山があるからだよ」
「火山ー?」
御者をしてくれてる中年男性が、一つの方角を指さした。
見てみれば確かに山がある。
そして頂上は赤い。
溶岩らしきものが流れているということが、ここからでも分かった。
「まぁ夏だけだよ、こんなに暑くなるのは。熱風が降りてくるんだよなぁ」
「うえー……。これじゃ今から行く国も熱いんじゃないですか~?」
「マークディナ王国かい? いやいや、あそこは火山からの風は降りてこない。だからここよりは涼しいさ」
「なら良かった……」
マークディナ王国。
とても大きな国であり、強い力を持っている大都市だ。
冒険者、騎士団共に質が良く、戦争ではほとんど負けたことがない程なのだとか。
様々な生産を国の中で行っており、行商人も多く訪れる人気の国らしい。
それ故に貧困層も目立つと聞く。
孤高軍を名乗る者がまだ来ていないのであれば、今度は自分たちが彼らを助けようと決めていた。
彼らに仕事を取られ続けるわけにはいかないだろう。
だが大きな国だ。
もしかしたら既に行っているかもしれないということは、あらかじめ頭の中に入れておこう。
アテーゲ領を出て二ヶ月が経過していた。
梅雨の時期に入ったので、雨が多く地盤などの緩みが頻繁に起こっていたようで、土砂崩れなどといった自然災害が多くあり、何回か足止めを喰らったのだ。
その為想像以上に時間が掛かってしまった。
別に急ぐ旅ではないのだが、予想外のことが起きると対処に困る。
「……」
そう言えば、レミと出会って一年が経とうとしている。
彼女に会ったのはあの村だが、当時収穫を前に誰もが意気込んでいた。
季節的には十月くらいだとは思うのだが……そう考えれば今は八月の前半だろう。
正確な時間は分からないが、大体それくらいだ。
よくもまぁ一年も経っていないというのに、侍が簡単見つかるものだ。
調整されているのではないだろうかとも思ってしまう。
いや、恐らく仕組まれているのだろう。
あれはそういう奴だ。
しかし、移動だけで二ヶ月も使っているというのはなかなかにしんどい。
仕方がないとはいえ、今度国に入った時はゆっくりと休みたいものだ。
本来であれば一ヵ月も経たずに進めていたはずなのだが……自然災害には誰も勝てない。
それも経験だなという事にして、木幕は魔法袋に入れていた水を飲む。
時の流れは速いものだ。
あと四人。
それだけ斬れば、神に手が届く。
もう少しでそれが叶う。
まだ先の話になるかもしれないが、必ずや斬って見せようと、木幕は心の中でもう一度固く決意した。
それはそうと暑い。
水を飲んでもまたすぐに喉が渇くような気がした。
そろそろ水も補給しておかなければならないと思ったので、スゥの隣りへと足を運び、しゃがんで水を汲み始める。
「スゥよ。大丈夫か?」
「っ!」
「お主は元気だな……」
元気よく片手をあげた後、ぴょんと飛んで立ち上がる。
そろそろ出発の時間だ。
水を汲み終わった木幕も、馬車へと戻る。
レミはぐでーっとしながらなんとか馬車に乗り込んだ。
これでは護衛はできそうにないので、木幕がすることになった。
馬も何度か水を飲んで元気になったのか、また力強く馬車を引き始める。
馬車に屋根が付いていて助かった。
まぁ風自体が熱いので、ほとんど意味を成してはいないが。
「そうだ、皆さん。こんな噂知ってるかい?」
「噂?」
そう言った後、御者は変な話をし始めた。




