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7.44.スゥの新装備


 石動が鍛冶場で細かい作業をしていた。

 獣ノ尾太刀の鞘に紐を巻き、それをしっかりと結んでやる。

 既に鞘に巻かれている獣の革に沈んでいるので、傍から見ればあまり目立たない。

 うまい具合に毛を避けて結んでいるため、変に毛が沈むこともなかった。


 その作業を見ていたスゥは、よくこんな大きな手で細かい作業ができるなと感心する。


 石動はそれから、刀の支点を探すために指の上に獣ノ尾太刀を置いた。

 何度か振り子のように触れるが、一つの点で揺れは止まる。

 それからもう一つの紐を別の個所へと結びつけた。


 次に太刀紐を取り出して、先ほど結び付けた紐の輪っかにそれを通して結ぶ。

 残っている長い太刀紐を伸ばす。


「よし。スゥちゃん、付けてみるべか?」

「っ!」

「よしきた。じゃあしっかりとやり方を覚えておくだよ」


 スゥの左側に、獣ノ尾太刀を置き据える。

 太刀紐を腹の前に持ってきて、そこで輪っかを作った。

 残った太刀紐を後ろに回し前へ持ってくる。

 作っていた輪っかの中に通して引っ張ると、太刀紐がキュッと締められた。

 蝶結びをして、だらんと垂れ下がっている残りの紐を太刀紐に絡ませれば完成である。


 本来、大太刀はかつぐ、もしくは持ち歩くのが一般的だ。

 だがスゥの場合は身長が足りないのでかつげば地面に鞘をぶつけてしまう。

 なので体が大きくなるまでの間は、こうして大太刀を腰にぶら下げてもらおうと考えたのだ。


 かつげるようになれば、太刀紐を伸ばして背かけにするようにすればいい。

 それは木幕でもできる事なので、その時になればやってくれるだろう。


 だが、ただでさえ身長が足りないスゥだ。

 なので獣ノ尾太刀は抜けない。


「っー!」

「はははは、今は無理だべよ。まだ君はこっち使わないと」


 そう言って、石動はスゥが持っていた小太刀を渡す。

 背中に携えられるように改良しているので、簡単に付けることができた。


「まぁ、獣ノ尾太刀は奇術が使えるべ。そうして飾る時は領主と会う時とかにするだ。あとは本気で敵と戦う時だべね。それまではこれに入れておくだよ」


 そう言って、石動はスゥが持っていた魔法袋を指さした。

 だがスゥは首を横に振る。

 おや、と思って見ていると、スゥは鍛冶場の外に出て太刀紐を解き、獣ノ尾太刀を地面に置いた。

 すると、刀が地面に沈んでいく。


「……はは、おいよりそいつのこと分かってるだね」

「っ!」


 必要時のみ、この刀は姿を現す。

 体に身に着けるのも確かに良いが、獣は自由だ。

 それを縛るのは確かにあまり良いものではないかもしれない。


 だが、獣ノ尾太刀はそれもまた一興という風に、石動の手によって軽く改良された。

 手に持たれるのではなく、実際に携えられるのは刀としても嬉しいのかもしれない。


「あ、そうだスゥちゃん。これいるだべか?」

「?」


 鍛冶場の奥から箱を取り出した石動は、蓋を開けて中を見せる。

 そこには薄い鉄の塊がたくさん入っていた。


 殺傷能力はあまりなさそうだったが、意外と重いので威力はありそうだ。

 さきっちょを触ってみると、鋭く尖っていて痛い。

 これは何だろうかと首を傾げていると、石動が笑いながら教えてくれた。


「これは手裏剣っていう投げ道具だべ。それと撒菱(まきびし)苦無(くない)……まぁ隠れ里で仕事していた時の名残だべさ」

「っ~」


 刀は打てなかった石動だったが、こうした小さな武器はいくらでも打つことができた。

 使う場所などないかと、作っては仕舞っておいたものだ。

 数種類の手裏剣、撒菱。

 少し長めの苦無(くない)

 これが作れたからこそ、以前の石動の心は完全に折れはしなかった。


「スゥちゃんはまだ力がない。だけど足が速いからこうした投げ道具なんかを使うのはどうだべ? 手裏剣は軽いものもあるから、結構飛ぶだよ」


 お手本として、一番軽い手裏剣を手に持って投げる。

 シュッという音を立てて木材の柱に突き刺さった。


 魔法や弓とは違う近距離で使える投擲物。

 小太刀との相性もよさそうだと、スゥは考えた。

 試してみたくなって、石動が投げた軽い手裏剣を手に持って投げてみる。

 手を上げて、肩まで使って思いっきり投げた。


 カーンッ!

 木材には当たらず石材に当たったようで、手裏剣は弾かれて飛んでいってしまった。

 だが石材が欠けている。

 一番軽い手裏剣でここまでの威力があるのであれば、スゥで使えそうだった。


「っ! っ!」

「お、いいべよ。全部いるべ?」

「っ!?」

「おいは使わないだ。全部あげるべよ」


 そう言って、石動は大きな籠を三箱持ってきた。

 その中にはそれぞれ手裏剣、撒菱、苦無が無造作に入れられている。

 量の多さに若干引いたスゥだったが、これは欲しいと思ったので全部魔法袋の中に仕舞い込んでいった。


 すると石動が何か思い出したらしく、またごそごそと鍛冶場を漁り始めた。

 今度は長い鎖を持ち出してくる。

 ついでに何かの鉤爪の武器なども取り出してきた。


「これもいるべか?」

「……」


 何に使えばいいのだと若干困惑したスゥであったが、とりあえず貰える者は貰っておこうとすべて魔法袋の中に入れた。

 それが二、三度繰り返される。

 知らない道具も沢山もらってしまったがいいのだろうか。

 だが石動はなんだかうれしそうだ。


 スゥはまったく知らない忍び道具一式をもらい受けた。

 使えるかどうかは……木幕に聞いてみてから考えることにしたのだった。

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