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7.41.先代の軌跡


 手から流れ込んできたイメージの中に、葛篭がいた。

 だがいるだけで何もしていない。

 そのイメージはぱっと消え去り、現実へと引き戻される。


 男が眼前まで迫っていた。

 土でテディアンを守った為、彼女は未だに土の壁の奥だ。

 向こうからこちらに攻撃を放つことはできない。


 しかし、スゥは持っていた獣ノ尾太刀を脇構えに置き、切っ先を地面すれすれで走らせて男に切っ先が向いた瞬間に切り上げる。


「……っ!?」

「あぶ……ねぇ!」


 ほぼ無意識での攻撃。

 相手がこちらに走って来ていた時には、スゥは体を動かしていた。

 残念ながらその一撃で男を斬ることはできなかったが、短剣一つを完全に破壊していた。

 刃を当てた感覚などまったくなかったのだがと、スゥは首を傾げてまた構える。


 この刀の切れ味は、恐ろしい程に鋭い。

 刃に指を近づけただけでも、それは危険だと肌が教えてくれることだろう。


 また地面からドンドンと地面が鳴る。

 小さなものだが、足の裏から伝わってくるそれはよく分かった。

 体が鼓舞され、力が湧いてくる。


 だが先ほど思いっきり蹴られた腹部が痛い。

 歯を食いしばって耐えてはいるが、じんじんと伝わってくる痛みは子供の痛覚では耐えがたいものだ。

 だが戦わなければ待っているのは死。

 それが分かっているからこそ、スゥは立ち上がってまた敵を睨む。


 刀によって強化されているとはいえ、痛いものは痛い。

 今にだって気を緩めれば泣いてしまいそうだ。

 だがそれは獣ノ尾太刀が許さない。

 心が折れそうになる度に、地面から伝わってくる振動が強くなっている。


「っ!」


 獣ノ尾太刀を八双に構えた。

 そうだそれでいいと言う風に、地面がドンッと一際大きく揺れる。

 今こそ木幕から教わった剣術を使う時。

 できるかどうかは分からないが、やってみたい。

 そんな興味が、この戦闘中に沸きだしていた。


「はっ!」


 敵が折れた短剣を投げた。

 それと同時に走り出す。


 スゥは短剣を軽い一振りで打ち落とすのだが、その間に敵は肉薄してきた。

 だがそこからスゥは手首を使って刀を持ち上げ、また振り下ろす。


 葉我流剣術、陸の型、樹雨(きさめ)

 露が水滴となって落ちるのを見立てた様に、細かく手首をいなして連続して攻撃する技だ。

 最小限の動きで連撃が可能。


 小さく打ち込まれた攻撃を、男は二度受ける。

 だが三度目は受けることができず、肩を切り裂かれた。

 触れただけで肉が断たれる。


「んぐっ!? なんだ……この剣は……!」


 大きく飛びのき、距離を取る。

 自分の攻撃が通じたと、スゥは安堵してまた構えを変えた。

 逆霞の構え。

 左側に柄を持ってきて、刃を相手へと真っすぐに向ける。

 その間合いは……長い。


「炎よ! 爆ぜろ!」

「チッ」


 壁の後ろを走って回ってきたテディアンが、魔法を使用してスゥを手助けする。

 だがまたテディアンが狙われるということを案じたスゥは、地面を蹴って自分から肉薄した。

 その瞬間、またイメージが流れ込んでくる。


 葛篭が虎を描いている姿があった。

 彼は木工細工師であり、筆を使った絵も非常に上手い。

 大きな木材に描かれた虎が、今度は立体となって姿を現すのだ。

 それを掘る時の葛篭の顔は、なんとも楽し気で真剣で、恐ろしいものだったのか。


「……っ」


 大上段に構えた獣ノ尾太刀が、風を切って斬り下ろされる。

 やはり、振り下ろす時の感覚はスゥにはなかった。

 気が付けばその刃を振っており、慌てて地面すれっすれでビタリと止める。


「ぁ……ご……」

「? ……っ!?」


 男には、頭のてっぺんから股下にかけて赤い一筋の線が入っていた。

 それに気が付いた瞬間、男が真っ二つに割れてべちゃりと倒れる。

 仰天したスゥは咄嗟に飛びのき、獣ノ尾太刀を小突く。

 なんてものを見せてくれるんだと、怒ったのだ。

 だがなんとも思っていない獣ノ尾太刀は、また地面を軽く揺らして嘲笑う。


 とんでもない刀だと、スゥは呆れた。

 こんなもの自分が持っていてもいいのだろうかと思った時、また地面が揺れる。

 何と言っているかは分からない。

 だが俺を使えと言われているような気がした。


 小さく頷くと、地面から鞘が飛び出してくる。

 ピッと血振るいをした後、刃を納刀した。

 そして鞘ごと地面から引っこ抜き、肩に担ぐ。


「スゥちゃん! あっち行くよ!」

「っ!」


 まだいろいろ理解できていないテディアンだったが、今は戦闘中でレミは未だに戦っている。

 まずは全部を終わらせてからにしようと、細かいことは抜きにして増援に向かうことにした。

 スゥもそれに頷き、一歩前に進もうとした瞬間……。


 とても重い重圧が、のしかかる。


「「!?」」


 今までにどちらも感じた事のないその重みは、体の動きを完全に制されるようなものだ。

 何が近づいてきているのだろうと、二人は思考を巡らせる。

 だが思い当たる節はない。

 ではなんだ、新手か、それとも別の何かなのか。


 段々と足音が近づいてくる。

 それは二人を通り過ぎ、レミのいる方へと向かって行った。

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