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7.39.黒外套の黒い梟


 敵が一斉に飛び出してきた。

 さすがにそれを往なし切れるほど、レミも強くはない。

 すぐにテディアンと目配せをして、レミとスゥは左右に展開して射線を開ける。


「水よ! 弾けろ!」


 急遽出現した水の玉が、七人の間に出てきて破裂する。

 威力としてはそこまで強いものではない。

 だが視界は一瞬遮られる。


 左右に展開したレミとスゥが一人ずつ敵を突き刺した。

 スゥはその後すぐに距離を取って様子を伺う。

 レミはそのまま薙刀を引き抜き、大きく振るってフルアーマーの一人を思いっきり殴り飛ばす。


 鎧の上からとは言っても、その威力は十分で相手をこけさせるほどの威力があった。

 だが今度は視界を取り戻した敵が動き出す。


 薙刀を振り切った時、敵が攻撃を仕掛けてきた。

 防御が間に合わないかもしれなかったが、咄嗟に石突を突き出してその攻撃を受けようとする。

 だが体勢が悪かった。


 ガチンッ!

 何とか刃は受け止めることができたが、その後に続いて繰り出された蹴りは防ぐことができなかった。


「らぁ!!」

「うぐっ!」


 少しよろめいて体勢を立て直す。

 だが離れたことによってテディアンが魔法を使える距離になった。

 すぐに炎魔法が炸裂して一人を火だるまにしてくれる。


「ッ!」

「! スゥちゃん!」


 レミが蹴とばされたのを見たスゥは、すぐに走って来て追撃を繰り出そうとしたが、男の剣で飛ばされた。

 何とか防御はしたようだったが、軽い体は想像以上に吹き飛んで地面に思いっきり体を打ち付けてしまう。

 テディアンもそれを見てすぐに魔法を使った。

 男は焼かれて転げまわる。


 守るために近づこうとしたレミだったが、二人に一気に飛び掛かられて距離を取るしかなかった。

 先ほどスゥにわき腹を刺された男が、必死の形相でスゥに向かうがそれもテディアンの魔法で吹き飛ばされる。


(流れを切るな! 切るな切るな!)


 上段、下段、横に薙いで半回転しての横薙ぎ。

 相手の攻撃も必死で苛烈を極め、防ぐことだけで精一杯になりつつある。

 だがすべて防げていた。

 長物の特徴を今だけは最大限に活かせていると、自分でもそう思う。

 だが流れを止めたらそれで終わる。

 反撃を繰り出す瞬間を何とか探り出す。


「そこぉ!」


 同時に剣が繰り出された。

 それを回避し、半身回転して一人を薙ぐ。

 だが、そこで腹部に激痛が走る。


 最後の一人が、身を屈めて攻撃を回避し、短剣をレミの腹部に突き刺したのだ。

 痛みは鋭く走ってきたが、何故かまだ動ける。


「ぐぅ……! こんのぉ!」

「がっ!」


 渾身の力で拳を突き出し、相手の顔面を殴り飛ばす。

 体勢を崩した男に向かって薙刀を短く持ち、思いっきり突き出した。

 完全に喉を貫いたことを確認して、それを引く。


 だが痛みが鋭くなってきていることに気が付いて、石突を杖にし膝をついた。

 傷口を抑えてみると、未だに短剣が刺さっている。

 抜こうと力を入れようとするが、痛すぎて自分では抜けなかった。


「うぐ……」

「レミちゃん!」

「っ!!」

「動かないでね。……聖なる光よ、治癒せよ」


 淡く光る緑色の光がレミの体を包んだ瞬間、一瞬だけ激痛が走る。

 テディアンが短剣を抜いてくれたのだ。

 そして再度治癒を掛けて応急処置をしてくれた。


 傷口をさすってみるが、先ほどよりは痛くない。

 しかし、体をねじったりバネのようにして戦うレミにとって、腹部の傷は重いペナルティになった。

 これではこの重い薙刀は使えないかもしれない。

 魔法袋にそれを仕舞って、今度は津之江の氷輪御殿を取り出した。


 やはりこいつは軽い。

 手に持った瞬間、若干ではあるが体も軽くなったように感じられた。

 立ち上がり、最後に残っている三人の黒外套を睨む。


「レミちゃん大丈夫?」

「ありがとうございます、テディアンさん。これなら何とかいけそうです」

「ごめんね、スゥちゃんの方にばっかり気がいってたわ……」

「いえいえ、逆にそっちの方が良かったですよ」


 スゥの方を見てみれば、心配そうな顔をしていた。

 それを見て軽く頭を撫でる。


「大丈夫よ」

「っ……」

「こんなんじゃ師匠に笑われちゃうからね。ていうかあの稽古はもうやりたくない……」

「う~ん、それくらい元気だったら大丈夫そうね。さ、あとはあの三人だけど……手強いわねぇ……」

「そうなんですか?」

「オーラがね……」


 さすが黒い梟、とでも言えばいいだろうか。

 彼らのオーラは強く、黒い。

 明らかに強いことが見て取れるのだが、子供一人と怪我人一人、魔法使い一人で何とかなるかと言われると……不安でしかなかった。


 警戒していると、彼らはようやく屋根から降りてくる。

 軽い足取りで、こちらに向かって来た。


「短略詠唱の魔法使い、テディアンだね。あいつリストに入ってるんだよねー」

「無駄口、叩くな」

「……」

「えー、いいじゃない。どうせやっつけちゃうんだし」

「お前は、支援。クロノは俺と来い。こんな面倒くせぇ仕事、もう終わらせよう」

「……う」


 歩きながら、前を歩く二人が得物を抜いた。

 一人は片刃の二刀流、もう一人は短剣だ。

 そして後方に魔法使いが一人……。

 バランスとしてはこちらと同じ程度の編成だろう。

 だが、練度が違いすぎる。

 それは彼らの足運びから察することができた。


 その事に気が付いたテディアンが、まず先手を打った。


「雷よ、走れ!」

「土よ、我が前にて動き、形を変え給え。クレイウォール!」

「んっ?」


 走らせた雷魔法が、土によって弾かれた。

 だが先ほどの魔法は短略詠唱ではないことに、テディアンは首を傾げる。

 もしかすると……。


「勝ち筋見えた! あいつ、風魔法しか短略詠唱できないんだ!」

「となると……」

「私があいつ倒すまで何とか持ちこたえて!」

「厳しいですね。でもやってみます……」

「っ!」


 全員が武器を構え直す。

 その瞬間、黒い梟が地面を蹴った。

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