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7.37.敵襲


 石突が地面を突き、その隣で片足をトントンと叩く。

 俗にいう貧乏ゆすりなるものなのだが、レミは若干苛立ちを募らせてた。


 警戒するまでは良かったのだが、待てども待てども来やしない。

 一体何処のどいつだ、来るかもしれないといった奴はと思って、テディアンの方を見る。

 当人は既に気が抜けてしまっているのか、その辺に座ってゴロゴロとしていた。

 今はレミが一人で見張りをしている状況である。


 スゥも待ちくたびれてその辺をうろうろしていた。

 近くにいるので何かあってもすぐには動けると思うのだが、刀は腰に戻してしまっている。

 何もなければそれでいいとはいえ、来るなら来いとより一層の苛立ちを募らせた。


 来ることは分かっているのだから、あとは戦うだけなのだ。

 とは言え、こうなっているのであれば昼の間ずっと神経を張り巡らせておくのも良くないかもしれない。

 夜の方が可能性としては高いのだ。

 それまではゆっくりしてもばちは当たらないだろう。


 ようやく大きなため息をついて力を抜く。

 振り返ってテディアンの寝ている場所へと足を運び、石突でその腹を突っつく。


「ふおっ!?」

「こーなーいーじゃないですか」

「ちょまっ、ぐりぐりしないで!?」


 ひとしきり石突を押し当てた後、それを地面に突く。

 今ので目が覚めたのか、上体を起こして周囲を確認する。


 彼女は魔力で敵が来ているかどうかが分かる。

 なので起きてもらっていなければ困るのだが……。


「来てないねー」

「これは夜まで待機ですかね?」

「かもしれないねー。まぁ想定の範囲内だったけど!」

「よく回る口ですねぇ……」

「へへへ~」

「褒めてないです」


 気を張り詰めて損をしたと、レミはまたため息をつく。

 軽く薙刀を回して刃を下に持ってきた。

 なんだかこの動きも慣れたような気がする。

 意外とリラックスしながら回せば、うまいこと繋げられるのかもしれない。


 薙刀の稽古をし始めて、もうずいぶん経つ。

 基礎がしっかりできているからと津之江は褒めてくれていたが、あの動きには未だに追いつけそうにない。

 自分はまだ素人だし、熟練の動きに達するまではまだまだ時間と稽古が必要だということは分かっているが、使う時に使えなければ意味がないのだ。

 できれば早急に習得したい。


 片手で薙刀をクルクルと回してみる。

 親指を引っかけて、そこで一気に力強く回し、指の間を通して三回転回す。

 この薙刀は少し重いので、その動きもゆっくりではあったが、これを指の間で回せる程の筋力と握力は既についているらしい。

 まぁあそこまでしばかれれば、基礎はできて当然かと、木幕との過酷な稽古を思い出す。

 走らされるのが一番辛かった……。


 だが最近はそういうのはない。

 刀と薙刀では教えれることが違いすぎるのだろう。

 スゥにはそれとなく教えていたが、刀が折れていたからなのかあまり力が入っていなかったようにも思える。

 それを知らなかったのでどうしたのだろうと、旅の道中思っていたのだがここに来てようやくその意味が理解できた。


 刀が折れたということを隠すのには、何か理由があったのだろうか?

 彼らの世界を生きていないレミたちには分からない話だ。


「ま、これからは自分で技を編み出せっていうことなんだろうなぁ」

「んー? なんてー?」

「何でもないでーす」


 我流の剣術というのは、決して悪いものではない。

 刀の振り方を作り出した人物も、始めは我流だったのだ。

 誰しもがそれを通り、様々な技を作り出す。

 それは刀であっても、槍であっても、薙刀であっても同じことだ。


 しばらくは木幕に剣術を教わっていたので、彼の動きは大体分かる。

 木を模したものが多いのも知っている。

 なのでレミもそれに近づけようと考えてみるが……この辺には加工された木しかないようだ。


 また旅に出てから考えることにする。


「お!」

「っ!」


 突然、テディアンとスゥが立ち上がった。

 すぐに戦闘の構えを取る。


 状況をすぐに理解したレミも同じく構えた。

 二人の見ている方向はどちらも別方向だ。

 最低二手に分かれてこちらにやってきていることが分かる。


「数は!」

「二十……五くらいかなぁ……? 強いのが三人混じってるみたい。四方向から同時に来てるわ」

「二十五対三かぁ……」


 数では圧倒的に不利だ。

 罠が発動してどれだけ相手を減らせるか……。

 それでもマズい状況には変わりがないが。


 しばらくすると、ようやく敵の姿がレミでも視認できるようになった。

 明らかにゴロツキと思われる人物が数人、完全に武装した者が若干名……後は黒い外套を纏っているのが三人といった具合だ。


「本当に昼に攻めてくるなんて……」

「それだけ急いでいるのか、待てなかったのか、それとも時間制限があるのか」

「いや、選択肢多すぎ……」

「でも奇襲は何とか防げたわね~。私に感謝しなさい!」

「絶対にしない」

「っ」

「何でよ!!」


 軽くあしらった瞬間、罠が二つ起動した。

 どうやら後方から忍び寄っていた敵が罠を踏んづけたようだ。

 建物裏からの奇襲だったので、彼らの姿は敵からは見えない。

 痛そうにしている声が聞こえるが、どういう状況になっているのかはこちらからでは分からなかった。


「お、五人仕留めたわ! ラッキ~」

「え、凄い」

「でしょ~」


 その成果は普通に称賛した。

 敵の数が減るのはありがたい。

 まだ罠は残っているし、これからどれだけ減らせれるのか……。


 だが、明らかにやられている声を聞いたのか、前方から進んできていた敵の動きが慎重なものに変わる。

 杖を掲げて何かをしているようだ。

 すると、水でできた人形が作り出される。

 それを先頭にして歩いてきた。


 罠をあれで踏んづけて発動させるつもりなのだろう。

 それを見たテディアンが、また細工をしようと杖を掲げた。


「罠よ、止まれ」


 それからは罠が発動することはなかった。

 十七名の兵士が、鍛冶場の前で足を止める。


「なんだ、女と子供か……まぁいいけど」

「何か御用ですか?」

「ああ。石動っていう鍛冶師は何処だ?」

「ここにはいません」

「匿っても無駄だぞ? なんなら鍛冶場を調べさせてもらおうか」

「お断りします。ここは大切な場所ですので」

「だったら力づくだな。こちとら金貰って雇われてるんだから、それに見合った仕事はしないといけねぇ……悪く思うなよ」


 それが合図になったのか、全員が抜刀する。

 後方には魔法使いもいるようで、先ほど作り出した水の人形を動かしていた。


「交渉する余地もなし! んじゃ罠発動!」

「え?」


 テディアンがトンッと杖で地面をついた瞬間、全ての罠が発動した。

 爆発が起こり、地面が割れ、水の刃が壁を傷つけ、雷が走る。

 突然の罠の起動に巻き込まれた敵は数名。

 やはり距離があったので全員を始末するまでには至らなかったようだ。


 しかし、厄介そうだった魔法使いはほとんど倒すことができた。

 水の人形が崩れ去る。


「て、てめぇら……!」

「あら~かわいそう! 手当しなくていいんですかー?」

「殺してんじゃねぇか!」

「そういう罠でしたので~」


 軽くおどけて挑発するテディアン。

 それなりの自信があるようだが……黒外套の黒い梟は屋根に座ってこちらを見ているだけだ。

 あの三人はこいつらを叩いてから戦うことになるだろう。


 厄介だなぁと思いながらも、レミは前に出て戦闘を開始する。

 それが合図だったようで、その場にいた全員が一歩足を踏み込んだ。

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