7.36.荷下ろし
沈めた船の物資の回収方法は実に独特な方法だった。
水と風を操って荷物を持ち上げる。
たったこれだけのことだったが、何も見えない海の中でそれをやってのけるのだ。
聞いてみると、どうやら魔力を通して手探りで探し出しているらしい。
それができるのには相当な時間が掛かるらしいのだが、慣れてしまえば簡単なものなのだとか。
実際に潜って物資の回収をする訳ではないので、その作業効率は非常に早く、一隻をものの数分で終わらせた。
あとは爆破した二隻の船だが、そちらには使えそうな物は何もなかったらしい。
だがアテーゲ領近海にこんなごみを置いておくわけにはいかない。
三隻の船を紐で括り、水魔法を使用して持ち上げ、ニーナ号で陸地まで運んでいく。
戦闘や回収よりもこれが一番大変であったように思える。
元々はアテーゲ領の船大工が作った船なのだ。
それを持ち帰ればまた有効活用してくれるに違いないとのデルゲンの考えである。
時々こいつは海賊ではなく、普通にアテーゲ領を守る海兵として居た方がいいのではないだろうかと思う。
だがそれは彼の性には合わないのだろう。
こうして自由に暮らしている方が彼の生きざまとしても正しいと思う。
港に入ってきたニーナ号は、決められている場所へと船を置いた。
そして一緒に連れて帰って来た船を引き上げてもらう。
これには非常に時間が掛かるらしいので、出発は二日後としていたのだがもう少し遅くなりそうだ。
「わりぃな」
「構わぬ。某も準備するのにどれくらいの時間がかかるか分からなかったところだ」
「なら良かった。準備が整ったら連絡すっからよ。お前らは何処に行くんだ?」
「一度工房で準備をしようと思うだ。鍛冶師が集まってる所にいるべよ」
「あそこか。了解だ。じゃあその時になったら誰か行かせるから、そん時に来てくれや。なんかは手伝って欲しいことあったら遠慮なく言いな。どうせ暇だからよ!」
「承知した」
デルゲンは笑って軽く手を上げた。
それを見てから踵を返し、一度鍛冶場へと戻ることにする。
海賊たちはこれから宝石の売買をするようだ。
まず荷下ろしから始まっているが、これが一番大変そうである。
箱は布で隠されているので、宝石が中に入っているということは一目見ても見ることができないようにしてあった。
彼らは口々に「買い取り屋がこれ見たらどんな反応をするかな」などと反応を期待する声も聞こえる。
「さて、石動。何を準備するのだ?」
「仕分けのために木材が多めに欲しいだ。あとは茣蓙とかがあればええだなぁ」
「ふむ……。それは少し難しいかもな……」
「だべなー。まぁある物を使えば、それなりに集めれるだよ」
「それもそうか。では臨機応変に行こう」
それに頷いた石動は、周囲を見渡しながら使えそうな物がないかと探しながら歩いていく。
どうやら今は鉱石が多く入って来ているようで、鍛冶師がその鉄を見にこちらまで来ているようだ。
随分と熱心であり、彼らは何個かの鉱石を買おうと競りのような物が行われている。
彼らもこんなに賑やかになるのだなと、少し意外そうに見ていた。
とは言え自分が使う鉱石はそれではないので、興味はない。
「さて、あの二人は調べているだろうか?」
「何もしてないってことはないだろうけど、あれからそんなに経ってないべ」
「そう言えばそうだった……」
自分はそんなにせっかちだっただろうかと頭を掻く。
調べてはいるだろうが、そう簡単に情報は出てこないだろう。
「ま、これからはデルゲンが船を出してくれるだよ。おいが刀を打ってる時に、一緒に調べればいいだべ」
「砂鉄を取るのに時間が掛かりそうではあるがな」
「んだなぁ。もう少し早い方法があれば良いだけど、ここでは砂鉄の採取方法なんてないだべ。基本的には鉱石を使うから……」
「やはり元いた日ノ本と、ここでの技術の差は違うか」
「だよ。ちょっと技術力が低すぎるのが問題だべ」
「そこまで言うか」
「言っても過言ではないべよ」
彼らの腕を見た石動は、すぐにそれを理解してしまった。
だから落胆したこともある。
今更な話ではあるが。
「さー、砂鉄頑張って集めるべ~」
「だな」
大きく伸びをしながら、石動は金城棒で肩を叩く。
船で感じていた揺れが未だに足に残っている感覚を残したまま、二人は鍛冶場へと一度戻ることにしたのだった。




