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7.33.海戦


 魔力を籠められた大砲が火を噴いた。

 どういう原理なのか分からないが、大きな音を立てて丸い弾丸が弧を描いて飛んでいく。

 デルゲンは波に揺られて動く船に合わせて、砲撃の号令を出した。

 それにより、ほとんどの弾丸がいい角度を持って敵船へと向かって行く。


 数十発の弾丸が海に着水し、水飛沫を上げる。

 相手はこちらをまっすぐ向いているので、多くは当たりはしなかったが、一隻に一発は当てることができた。

 木材が弾ける音がこちらまで聞こえてくる。

 だが着弾場所が甲板付近だったので、数人を吹き飛ばすだけで終わったようだ。


 しかしそれは幸運だった。

 あの海賊船には船首に大砲が設置されていたのだ。

 今の一撃でそれは破壊された。

 一隻だけだが。


 向こうもこちらが撃ってくる事を把握していたのか、すぐさま撃ち込んできた。

 だがそれは回避する。

 風魔法を使っている海賊がその威力を上げて船をもっと速く走らせたのだ。


 その六人は、旋回したと時には既に行動に移っていた。

 砲撃の音が聞こえた瞬間魔力を籠めて風魔法の威力を強める。

 これがデルゲン海賊の基本的な戦法であった。


 射線から外れたニーナ号を、アスベ海賊団の一味は大砲を動かして狙おうとする。

 だが速度が速すぎて重い大砲を動かしても追いつくことができなかった。


「船長ー! 敵船二隻が取り舵を切ってます!」

「ほぉ、難しいことをするな。じゃあこっちは突っ込むか。錨を下ろせぇ!! 甲板にいる者は剣を抜け! ラーックル! 指揮を取れ!」

「あいよー!」


 デルゲン指示のもと、錨が降ろされる。 

 その間に甲板にいた者の内砲手以外が剣を抜き、戦闘態勢を整えた。

 マスト一本の帆を真横に向け、紐を結んで飛び乗る準備をしている。


 錨が降ろされ、船が急旋回した。

 大きく傾いた船に足を取られ、木幕と石動は体勢を崩す。

 すぐに手すりにつかまって難を凌いだ。

 だが他の海賊たちは平気な顔をしている。

 錨の側にいた海賊たちは旋回が終わった瞬間、すぐに錨を上げて行く。


「無茶苦茶な……」

「はっはぁ! 荒事の方が船も喜ぶってもんよぉ! おら行くぞニーナ号!! 帆を張れ!! 全速力で突っ込むぞ!」

「な!? 大丈夫なだか!?」

「おう! このニーナ号は持ってる船の中でもダントツに硬いんだ! その代わり遅いがな!」

「こ、これで遅いのか……」


 ニーナ号の船首についていた大砲が火を噴いた。

 完全に相手の横っ腹を捉えていた為、その砲弾は見事に着弾して甲板にいたアスベ海賊団の一味が数名吹き飛んだ。

 向こうも撃ってこようとはしているが、先手を取られて中々砲撃できずにいるらしい。

 だがそれでも船内に設置されている大砲は火を噴く。

 砲撃を受けて若干上に向いていた船体からの砲撃は、甲板付近へと向かってくる。


 その一つが、船長であるデルゲンの元へと飛んできた。

 このままでは確実に着弾するだろうと思っていたのだが、そこで石動が金城棒を振り上げてその砲弾を打ち返す。


 ゴォオオオン!

 大きくひしゃげた砲弾は更なる威力を持って、砲撃した船ではない船に着弾する。

 若干の操作が効く分、石動は上手いこと大砲を他の船に当てることができたのだ。


「うぉおおおお……手が痺れる……!」

「あんなものを打ち返すからだ……」

「はははは! やるじゃねぇか! っしゃ衝撃に備えろぉお!!」

「全員どこかに掴まれー!」


 そこで、大きな音を立てながらニーナ号は敵船の船尾に船首を突っ込ませた。

 敵船は木材が弾ける音と共に数名が落ちて行ったが、ニーナ号は健在だ。

 衝突の揺れで手すりや何かに掴まることができなかったデルゲン海賊団の一味数名は甲板や船内を転がりまわる羽目になった。

 だがそれも可笑しくて仕方がないのか、笑いながら立ち上がってまた自分の持ち場に戻って行く。


「さぁー行くよぉ!」


 ラックルの号令の後、準備をしていた者たちが一気にロープを使って敵船へと乗り込んでいく。

 相手も同じであるらしく、敵と味方が数度交差した後、甲板へと着地して戦闘を開始した。


 木幕は慣れない足場だと思いながらも、槍を構えて前に出る。

 周囲に味方がいるので注意しながら槍を振るわなければならないのだが、相手は何の鍛錬もしていない荒い剣術。

 それにこちらは長物だ。

 状況的には有利ではあったが、彼らの動きは荒いがとても乱暴で強力だ。

 あまり舐めない方がいいかもしれないと思い、槍を握る手に力を入れる。


「風と砲手を守れぇー! 船内には絶対に入れさせるなー!」

「んじゃおらは走り回るのは苦手だから、船内の入り口にいるべよ」

「おう!」


 のそっと動き出した石動は、入り口の前で仁王立ちをする。

 肩には金城棒を担いていた。


 彼が移動している間にも、戦況は変わっていく。

 他二隻の船は何とか旋回して戻ってきている様だが、まだ少し時間が掛かる。

 砲撃をしようにもここからでは届きそうにない。

 となれば今張り付いている船を何とかしてから、向こうと戦った方がよさそうだ。


 デルゲンは風を起こしている海賊に指示を出し、その速力を弱めさせる。

 船内では若干の穴が開いた場所を木材を使って塞いでいく作業が行われていた。

 乗り込んだ敵船では戦闘が繰り広げられているが、どうやら何度か砲撃を喰らってしまったということもあって敵の動くが鈍く、こちらが優勢らしい。

 既に数名を吹き飛ばしているので、怪我人の手当てに当たならければならない者たちも多かったのだろう。


 そこでデルゲンが舵を切る。

 最後にラックルが敵船に乗り込んだのがその合図だった。

 風を起こさせて船を動かし、その船首を無理やり引き剥がす。


 横付けになった船を、彼らは鉤付きロープを使って懸命に手繰り寄せる。

 数十名が束になり、デルゲンも舵を切って船を完璧に横付けにした。


「残党処理! そちらの船の指揮はラックルに任せる!」

「船長ー! 二隻がこちらに戻ってきます!」

「もうそんな時間か! 増援を向こうに渡せろ! 素早く始末して占領しろ!」


 デルゲンの指示が甲板にいた海賊たちに通達されていく。

 すぐに動き出して敵船へと乗り込み、残党処理を手伝っていった。


「あまり歯ごたえが無いな」


 因みに、木幕はほとんどの敵兵を槍で突き殺した。

 船が二隻くっついていた状態だったので揺れもなく、普通に戦うことができたのだ。

 意外と楽な仕事だったと、石突を甲板について次の敵船を睨む。


 向こうは若干の距離を取って並行してきている。

 どうやら挟み撃ちにするつもりらしい。

 さすがに両方から砲撃をされたらたまったものではないが、今は乗っ取った敵船が真隣にいる。


「……それを狙っていたか? ……いやまさかな」


 そうだとすれば中々の策士だ。

 だが長い間海を船で航海しているのだから、そう言った策も思いつくのかもしれない。


 ふとデルゲンの顔を見ると、心底楽しそうに笑っていた。

 他の者たちも楽しそうだ。

 怪我をしている者もいるのだが、あまり気にしてはいないらしい。


「こっからは無傷じゃ済まねぇぞ!! 船内砲手、砲撃準備急げ!! ラーックル! そっちはどうだぁー!」

「……! ……!」

「なぁーんだああってえええ!?」


 何かを言っているということは聞こえるが、内容までは入ってこない。

 ふとそちらを見てみると、腕で大きな丸を作っていた。

 どうやら向こう側も占領を完了したらしい。

 少ない人数でよくやると感心する。


 それを見たデルゲンは「よぉし!」と力強くガッツポーズをした後、舵を握る手に力を籠める。


「ラックル以外の船員は帰って来いと伝えろ! もう準備はできているだろうな!」

「問題ありません! いつでも行けます!」

「よっしゃ!」


 指示を通達した後、敵船に入っていた味方は一斉に戻ってくる。

 何名も怪我をしているし、攻め込んだ時よりは数が少ない気がするが、今はそれは気にしてはならない。

 敵船二隻がこちらに向かってきている。

 まずはそれをどうにかしなければならないだろう。


 ニーナ号と敵船を固定していたロープが解かれる。

 まだ離れはしないが敵船が近づいたと同時に、舵を取っていたラックルは一隻の船を目がけて突撃した。


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