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7.32.出航準備


 今日の海賊たちは慌ただしい。

 誰もが宝石が大量に詰められた箱を船の中に運び込んでいた。


 しかし、昨日はなんだか懐かしい夢を見た気がする。

 あのじいの顔を見たのはいつぶりだったか。

 それを少しだけ懐かしく思う。


 運び込まれる宝石を見てほくほくとした表情をしたラックルが、未だにしかめっ面を貫いているデルゲン船長の背中を叩く。


「なんだー? まーだあんたは納得してないのかい?」

「いや、素直にありがてぇとは思ってるさ。だがなんか……今日は嫌な予感がしてな」

「海の男の勘かい? 女の勘より鋭いのかいそれは」

「さてね、そいつは知らねぇよ」


 そう言いながら、デルゲンはアテーゲ領を見る。

 少し遠いがすぐに到着する距離だ。


 木幕と石動も船に乗り込んでいる。

 今回使う船は一隻で、名前はリーナ号。

 普段はラックルが船の長として指示を執るのだが、今回はデルゲンがいるので舵取りは彼に任せるつもりらしい。


 段々と積まれていく宝石の山をみて、海賊団は嬉しそうだ。

 これが金になって好きなことができると、誰もが楽しみにしている。


 木幕と石動が鉱脈を発見してくれたことにより、彼らの態度は一気に急変した。

 この二日間は優遇されっぱなしだったのだ。

 逆に困ったほどである。


「というか、こんなに買い取ってくれる場所があるのか?」

「フン、アテーゲ領は貿易が盛んなんだ。色んなところから船が来るから、この程度の宝石なんてすぐに無くなっちまうよ」

「それは凄いな」

「……ま、それもあんたらのお陰だ。これでしばらくの物資には困りそうにない。礼を言う」

「構わぬよ。某らの目的はこれではないからな」

「つくづく欲のない奴らだなぁ……」


 確かにそうかもしれない。

 だが金は必要ない。

 金はまだあるし、使うところがなくて困っているくらいなのだ。

 それに、こういった鉱石に魅力を感じることもない。


 であれば、それを友好的に使ってくれる彼らに譲り渡した方がいいというものだ。

 そのおかげで何の交渉もなくこうして船に乗せてもらえたし、これからの砂鉄採取にも協力をしてくれるという約束もできた。

 こちらの方が木幕たちとしては嬉しい。


 次第に運び込まれる宝石もなくなってきた。

 一度に換金すると相場が狂ってあまり金が稼げなくなるので、分割して持っていく予定らしい。

 それにまだまだ鉱脈は続いているらしく、未だに掘り終えることがないのだとか。

 暇を持て余していた海賊たちにとっては、体を作るいい仕事場となっているようだ。


「さーみんなー! 出発するよー!」

『おぉー!』


 活気のいい声が響き渡り、甲板を走って自分の持ち場へとついた。

 桟橋で固定していた縄を外し、下で作業していた者が声を出す。


 それを合図にして帆が降ろされた。

 三つのマストからなるこの船の帆はとても大きい。

 数人が帆を降ろし、そしてもやい結びで固定した。


 その後、六人の団員が二人のペアになって、三つの帆に手をかざす。


『風よ。我が前に姿を現し、航路を示し給え。ウィンド』


 緩やかな風が吹きはじめ、そしてだんだんと強くなっていく。

 船が動きはじめて、船長のデルゲンが舵を取って出航した。


 しっかりと風を受け取った帆ははちきれんばかりに張り、船の速度を速めて行く。

 トルティー号よりも速い船だ。

 大きい船なので波が激しくてもあまり揺れることはない。

 縦揺れの場合はしっかりと揺れが足に伝わってくるが。


 船員たちは出航しても尚、甲板を走り回る。

 帆の向きを調整したり、運び込まれた積み荷を隠すためにシートなどで被う作業をしていた。

 だがそれも一段落したらしく、動きが緩やかになる。

 久しぶりの航海に、誰もが満足そうにして潮風を浴びてた。


「速いな……。船とはこれ程にまで速いものだったか?」

「はははは、私たちのは特別さ。速度が出るようにいろいろ弄ってんのさ。うちの船大工はその辺のとはわけが違うよ!」

「そうらしいな……」


 それはこの速度を見れば十分に分かる。

 速度も出ているし、設備も万端。

 更にこの海賊たちの士気の高さだ。

 何があっても何とかなる様にしか思えない安心感があった。


 これであれば、アテーゲ領にもすぐに到着するだろう。

 出航は二日後になるらしいし、それまでは砂鉄採取に必要な道具を揃えておきたい。

 後レミたちの進捗も聞いておきたいものだ。

 何か進展があれば良いのだが。


 だが、出航して二十分後……。

 マストの上で見張りをしていた一人が、大きな声を出して船長のデルゲンの名を呼んだ。


「デルゲン船長ー!」

「なんだぁ!」

「三隻の船が! こっちに向かってきてます!」

「三隻の船……? 船首に確認しろと伝えろ。そのまま監視しろ!」

「了解!」


 隣にいた航海士にそう告げ、彼を走らせた。

 船尾でくつろいでいた木幕たちは、さすがに何事かと思って立ち上がる。


「大丈夫だべか?」

「分からん。だが今リーナ号が走っている航路に交易路はなかったはずだ」

「敵か?」


 デルゲンが頷きかけたところで、またマストの上にいた海賊が叫ぶ。


「船長ー!! アスベ海賊団です!!」

「ここでかよ! 警鐘!!」


 その指示に頷き、近くにあった警鐘を鳴らしまくる。

 すると、船内にいた海賊たちがわらわらと出てきて何事かを周囲を確認する。


 木幕たちも船から体を乗り出してその船を見据える。

 すると、確かに三隻の船がこちらに向かってきているということが分かった。

 このままではぶつかってしまうだろう。


「わりぃな木幕と石動! ちょっと手を貸してくれると助かる!」

「あいつらは何だ?」

「アスベ海賊団。アテーゲ領の船を盗んで結成された海賊団だ」

「何をすればいい?」

「乗り込んできた奴を船内に入れないでくれたらそれでいい!」

「承知した」

「分かったべさ!」


 海賊団はアスベ海賊団が攻めてきていると知るや否や、すぐに船内や甲板を走り回った。

 大砲に砲弾が詰められ、砲撃準備を完了させる。

 船内に設置されている砲門が開き、大砲が顔を出す。

 あとは船長の指示を待つだけだ。


 そしてなぜか錨を上げ下げするカラクリの場所に、数人が固まっていた。

 あれで何をする気なのだろうかと考えている時、デルゲンが大声を上げる。


「とぉおおりかああじ!!」


 デルゲンは左に舵を思いっきり切った。

 キュルルルという音を立てながら舵が回り、船が左向きに旋回する。

 それにより、砲門が船三隻を捉えた。


「最大火力で撃てええ!!」

「撃てええ!!」

「撃てええ!!」


 船長の声を聴いたラックルがまず甲板にいた者たちに砲撃指示を出し、その指示を聞いた船内にいた一人の海賊が、中に設置されてある大砲の前にいた人物たちに声を掛けた。

 大砲に手をかざしていた者たちが、一斉に魔力を籠める。

 そして大砲が火を噴いた。

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