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7.28.で、あいつは何処に?


 さて、と言った風に槙田は胡坐をかいた。

 それに合わせて木幕も座る。

 既に座っていた水瀬の隣りに、津之江も座った。

 だが彼女は辻斬りということもあって、水瀬は少し怖がっているようだ。


 それが分かっているのか、はたまた分かっていないのか、津之江は笑顔を作っている。

 なんとも不気味な女だと、槙田は思った。


「妖よかぁ……不気味だなぁ……」

「私のことですか?」

「おうぅ……。俺は怖くはないがぁ……水瀬は違うだろぉ……」

「は、はははは……」

「ほれぇ……」


 のろりとした口調と、ギョロっと動かした目で津之江を睨む。

 槙田とて人を斬ることに快楽を覚えるような奴は好きではない。

 まだ悪意を持って近づいてくる妖の方がましであるといった様子だ。


 若干の重圧を含ませて睨まれた津之江だったが、それをものともせずに軽くおどけた。


「女性は弱いので斬りません」

「……あらぁ……?」


 その発言に、水瀬の眉が動く。

 自分で強いとは言うことはできないが、こうして弱いと言われると流石にカチンときたようだ。

 水瀬とて武芸者。

 その二振りからなる連撃は、津之江のそれを優に超えるものだった。


 優しく殺意のない佇まい。

 だが抜刀した時のその剣撃は、水を顔に押し当てられたかのように息をするのを忘れてしまいそうになるくらい苛烈だ。

 人は見かけによらないとは言うが、彼女はそれをしっかりと表してくれている。


 つまるところ、津之江は水瀬をなめてかかっているのだ。

 水瀬は水面鏡に手を掛ける。

 心なしか水面鏡も鋭さを増しているように感じた。


「試してみますかぁ……?」

「いいですけど……」

「後にせよ、二人とも。まずはもう少し西形についての事を知りたい。それからにしてくれ」

「木幕さんが言うのであれば」


 片足すら浮かせようとしていた水瀬を制止し、座らせる。

 自分らしくないなと思ったのか、少し深呼吸をした。

 全員が話を聞ける態勢になったところで、木幕は口を開く。


「で、西形は何処に行ったのだ?」

「結論は分かりません。なのでここで出せる答えは憶測の域を出ませんよ」

「それでも構わん。何かないか?」

「あるにはあるぅ……」


 槙田が二本指を立てた。


「一つぅ……再び落とされたかぁ……」

「落とされた?」

「生き返ったと言ったほうがぁ……いいかぁ……?」

「つまり弟は、また木幕さんたちがいる地上に行ったと?」

「ああ……。俺らはこの世の人間ではないぃ……。故に木幕の精神領域に滞在しているにすぎんのだぁ……。要するに、天地の狭間ぁ……」


 何を言っているかさっぱりだった三人だったが、彼の言葉には妙な説得力があった。

 槙田はその辺の魂の移転先を知っている。

 何故だか分かるといった方が正しいのだが、彼がここに一番初めに来たことがそれに起因しているのかもしれない。


 自分たちが正しく成仏する場所は、日ノ本の地獄。

 異界の地の神や仏の元に行っても返されるのがおちだ。

 この世界の人間ではないことから、輪廻転生をすることができないのだと槙田は考えていた。


 そこでもう一つの指を指さす。


「もう一つはぁ……溶けたか」

「……魂がなくなったということですか?」

「元よりここはぁ、俺たちが居ていい場所じゃないぃ……。魂の強さがぁ……ここ居続けれる者なのやもしれぬぅ……。奴は弱気だったからなぁ……」


 確かにそれなら、西形が一番初めに居なくなった理由にはなる。

 だがいい様に解釈しているようにも思えた。

 とは言えこれも憶測の域を出ないので、それが正しいとも言うことはできない。


「……とぉ、俺が言えるのはここまでだぁ……。それ以上のことは分からねぇ……」

「ではもし生き返っていたとしたら、どうすればいい?」

「さぁてねぇ……。同じことはしねぇだろうがぁ……また殺したらいいんじゃねぇかぁ……?」

「某の身にもなれ……」

「ははははぁ! それもそうかぁ……!」


 適当な提案に、木幕は嘆息して頭を押さえた。

 同じ人間を二度も殺す趣味などない。

 それであればいっそのこと魂が溶けてくれていた方が気が楽だ。


 だがこれも確定してはいない。

 本当にそうなったら面倒ではあるが。


「話終わりましたー?」

「……水瀬ぇ……。お前ぇ……」

「なにか?」

「いや、なんでもねぇ……」


 誰に対しても強くに出る槙田が、今回は引いた。

 その理由は、水瀬の額にくっきりと青筋が入っていたからである。

 怒りの理由は勿論……先ほどの津之江の発言だ。


 立ち上がり、二振りの日本刀に手を掛ける。

 それを見た津之江は、やれやれと言った様子で立ち上がって薙刀を持った。


「木幕ぅ……」

「なんだ」

「女はぁ……怖えなぁ……」

「確かにな。なめてかかると痛い目を見る」

「おぉ? 経験ありかぁ……?」

「黙れ」


 軽く槙田を小突いて遠ざける。

 それが少し可笑しかったのか、ケタケタと笑って彼女たちの戦いを観戦することにした。


 両者、構えを取って前に出る。

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