7.24.鉱脈探し
さざ波の音が遠くから聞こえてくる。
潮の匂いも強く、少し体がかさかさとした。
大小様々な石が転がっているので、足場が少し悪い。
トントンと飛びながら歩いていき、時折立ち止まっては周囲を観察した。
まだ鉱石らしい鉱石は見つかっていないが、切り立った崖には色が付いている。
この島は随分と大きい。
畑を作れるほどの大きな土地はないが、鳥も飛んでいれば動物もいる。
木々が多く群生しており、様々な木の実が地面に落ちたり、木にぶら下がったりとしていた。
湧き水もあるようで、山の奥からはちょろちょろと水が海に向かって流れてきている。
木幕たちは、まず島の周囲を回るように散策していた。
歩きやすい場所から探してみようとの石動からの提案であったが、意外と道が悪くて驚いた。
砂地から少し離れるとこうしてゴロゴロとした石が転がっていたとは想像していなかったのだ。
ちょっと失敗したかなと苦笑いをした石動だったが、木幕はそれをなんとも思っていないかのようにすいすいと進んでいく。
随分と身軽だと、石動は感心した。
「どうだ、石動」
「んー……この辺にはないだべなぁ。外を回るよりも中を探したほうがいいかもしれんべ」
「砂鉄は島の中にあるのか?」
「まぁ大体は浜辺とかにあるべさ。砂鉄と砂が蓄積したものがあると思うだけど……」
「……そうなると、随分な量を持って帰らなければならないかもしれないな」
「だべ~」
鉄があるのであれば、鉄を探したい。
砂鉄ではなく鉄を溶かす技法はここに来て学んでいるので、それも可能だ。
これがどう日本刀に影響していくのかは分からないが、やはり砂鉄の方が欲しい。
まだ半分と回っていない島ではあるが、このまま周囲を散策するより、中に入って高所からの散策に変えた方が効率がいいかもしれないと石動は考えた。
鉱脈が見つかれば、他の装飾に使用できる特殊な鉱石も見つかるかもしれない。
手つかずの島なのだ。
もしかすると、珍しい鉱石が眠っているかもしれない。
二人は周囲からの散策を中断し、森の中へと入って行くことにした。
この辺は切り立っている崖なので、少し遠回りをすることになったが問題なく入ることができた。
森の中に入ると、自然の声や音が耳につく。
天気も良く心地いい。
海のど真ん中にぽつんとある島だというのに、良くここまでの生態系を作り出した物だと感心する。
とりあえず目指すのは山頂だ。
そこから眺めてある程度の目星をつけておきたい。
歩いている内に見つかれば御の字だ。
「おぉ~、ええ山だべなぁ~」
実っていた果実を一つ取って、それを軽く拭いてから齧ってみる。
「しぶっ!!」
「はは、この世の果実は某らのいた場所とは特質が違うからな」
「赤色だったから食べれると思ったべ……。柿みたいだべなぁ……うへー」
石動は齧った果実を持ったまま、金城棒で軽く穴を掘った。
そこにポンと置いて埋めておく。
もしこれが無事に育てば、また新しい芽を息吹くことだろう。
それからしばらく歩いていくと、少し開けた場所に出た。
木がほとんどない場所だ。
なんならこの辺に土はない。
岩場。
地面が崩れてしまったのか、岩がむき出しになっており、そこには多くの鉱石らしき色をした部分が見て取れた。
目の色を変えた石動が、大きな体を揺らしてそれに近づいていく。
「おおー、なんつー綺麗な……」
「それは?」
「分からないから、壊してみるべさ」
ぐっと握りなおした金城棒を振り上げ、思いっきり岩に叩きつける。
ガゴンッという音を立て、岩が一部崩れた。
何という馬鹿力なのかと呆れるが、これで鉱石が一部採掘できたらしい。
それは青色の鉱石。
岩に挟まれて隠れていたので、色は黒色だと思っていたのだが、日の光に当たると青く輝く美しい鉱石であった。
クオーラ鉱石に似ているなと思ったが、これが鉄ではないことは明白だ。
詰まらなそうにして石動はそれをぽいと捨てた。
すぐに次の鉱石に目星をつけ、また金城棒を振るう。
今度は黒い鉱石が出てきた。
それをまじまじを見てみると、石動は小さく頷いた。
「鉄もあるべさね!」
「おお」
「ということは……」
そう言って、石動は土砂が落ちていったであろう場所の方へと走って行く。
他に何かあるのだろうかと、木幕もそれについていった。
土砂は崖の方へと落ちていったらしく、その下は砂浜だ。
長い年月が経っているのか、土砂らしき物は一切見当たらない。
しかし石動はそれでいいと言ったように、笑顔になって頷いた。
「ここの下の砂浜を調べてみるだ。鉱石があった場所の土砂が向こうに落ちたなら、それが海の満ち引きによって砕かれて、砂鉄ができているかもしれないべ」
「ほぉ、なるほど」
盲点だったと、木幕は石動の提案に感心した。
やはり餅は餅屋である。
専門家は違うところに目を付けるようだ。
そうと決まればすぐにでも降りなければならない。
鉱石のある場所も把握したし、あとで海賊団に手伝ってもらえばいいだろう。
許可も取っているので問題はないはずだ。
しかし、あの場所に降りるのは随分と時間が掛かる。
先ほど来た道を戻らなければならないからだ。
だがそれも仕方がないかと思い、直に来た道を戻って行くことにした。




